ど-426. 穴を掘れ2
さっぱりと
「……さて、と」
「旦那様、そのシャベルは撲殺用ですか?」
「何でそうなるんだよ、つか普通に地面を掘るために用意したものだ」
「地面を掘る、ですか。何故そのような……あぁ成程」
「そう。言わずもがな、だ」
「つまり旦那様は墓穴を掘っておられるのですね?」
「いや違うし。何故に俺が墓穴なんぞほらにゃならん」
「問題ありません。旦那様は常にあらゆる意味での墓穴を掘っておられるではありませんか、今更本当の意味での墓穴を掘ろうとも、私は微塵の驚きも浮かべは致しませんとも」
「俺としてはお前のその認識の方をどうにかしたい訳だが」
「全て心得ております」
「だろうなっ! ……――じゃなくて、これは俺の墓穴じゃねえよ」
「俺の、と来ましたか。つまり旦那様のではなく、何方かの墓標、と言う事ですか」
「ああ、そうだ」
「旦那様、罪を犯してしまわれたのでしたら隠ぺいより先に償う事を考えましょう?」
「別に誰も殺っちゃいねえよ!? つかこれはテメェを埋めるための穴だ!!」
「私の墓穴でしたか。こうなれば、旦那様が私を埋める前に、私が旦那様を――」
「って、何物騒なこと言ってやがるかっ!!」
「しかし旦那様、これは私の墓穴なのでしょう?」
「墓穴違うし。と言うか誰も墓穴と言った覚えはない」
「そうでしたか。それはつい早とちりをしてしまいました」
「早とちり、とか言う形で俺が折角掘った穴に後ろから突き落とそうとするのは止めろ」
「気付いておられましたか」
「当然だ」
「流石は旦那様。……しかし旦那様、何故このような奇怪な行動をお取りに? いえ、いつも通りと言えばまさにその通りでは御座いますが」
「いやな、朝目が覚めて、不意に思ったんだよ」
「思ったとは、無償に穴が掘りたくなったと言う事ですか?」
「そう言う事じゃなくて。お前の顔を見た瞬間に、『よし、こいつを埋めよう』って」
「――えい」
「って、おおぉぉぉぉぉ……!?」
「……、ふぅ」
「って、テメェ、いきなり背中から押すヤツがあるかっ!!」
「――では旦那様、地中よりのご帰還、お待ちしております」
「とか言いつつ上から土、ぺっ、かけて埋めようと、ぅぇぷっ、するなっ!!」
「……では、いっそひと思いにしますか」
「って、なんだそのバカでかい岩、つか流石にそれは冗談にならな、うおぉぉぉぉぉ!!??」
【ラライとムェの修行一幕】
「……今、何か向こうで凄い音がしたような」
「ムェ、余所見しない。危ない」
「と言うか師匠、いくらなんでも小石を鉄板も軽々と貫くほどの速さで投げるのはないと思います」
「私、最速」
「意味分からない事で偉そうに胸張らないで下さい」
「……私、最速?」
「そんな事、僕知りませんって。それより師匠、やっぱりこの修行はちょっと無理が、と言うより医師の軌道が早すぎて見えません」
「大丈夫、当たればちょっと死ぬだけだから」
「全然大丈夫じゃないよっ!?」
「じゃ、ムェ。行く」
「ゃ、止め――」
ふんとー中。