ど-424. 今の恰好、悶絶中
もうさんざんだ……
「後に革命家はこう仰いました、『あれは故意ではない。必然たる偶然だったのだ』……と」
「……で?」
「流石私と思わず旦那様が褒め称えたくなる出来栄えで御座います」
「……褒めないぞ?」
「そうですか。それは残念」
「というか、俺は一体何やってるんだ……」
「旦那様? ……もしやとは思いませんが、落ち込んでおられます?」
「今の俺が落ち込んでいる以外にどう見える?」
「密かに喜んでおられたりは――」
「しない」
「と、思わせつつも実は」
「なんでんな回りくどい事する必要があるんだよ。と言うかそれほどまでにお前は俺がこんな恰好して喜んでいると、そうさせたい訳かっ」
「いえ、そのような事は微塵も御座いませんが」
「だったら……というかいい加減手を離せ」
「それはいけません。今私が旦那様のお手を離してしまうと旦那様は逃げてしまわれるでしょう?」
「当然だ」
「ではやはり、旦那様のご期待に添える事は出来かねるかと」
「いや離せよ。と言うかお前は日頃散々俺の望む事なら何でもするってほざいてるじゃねえか。俺は今、心底手を離してほしいと思ってるぞ?」
「ですが大衆の期待を裏切ると言うのも、大変心苦しく思う訳です」
「……大衆の期待を裏切るのは辛いとか、先ず適当にでっちあげた理由だろ、それ」
「はい」
「だったら大衆の期待とかはどうでもいいから、俺の言う事を聞け」
「旦那様も所詮は人の子。他人などどうでもよい、自分さえよければ後はどうなろうが知った事ではないと、そう言う事なのですね」
「現状で、極論を言っちまえばその通りになるかもだけど……つまり結局言いたいのは、お前は今この手を離すつもりはないってことか」
「私の気持ちを察していただけて嬉しく思います、旦那様」
「ちなみに無理やり振りほどくとかの強行手段は――」
「私が許すと思いますか?」
「……だよなぁ」
「ではもうじき始まると思いますので、頑張って下さいませ?」
「出来れば頑張りたくない」
「心配ありません。今の旦那様が旦那様であるとばれることすらありませんので」
「……まあ、見事だよな。つかむしろ変装?」
「女装で御座ます、旦那様」
「……いや、これは変装、変装だ。……断じて女装なんかじゃないぞ、俺は女装なんてしてないんだからな」
「心配いりません。痕は最後の仕上げにこう――」
「ぷげっ!?」
「喉を適度に刺激し、」
「って、テメェ何し……、って何だよこの声!?」
「声とはつまり声帯を通る空気の塊、つまり声帯を適度に刺激することで望む声色を出す事は可能――」
「……わぁ、すっげぇ女の子声。自分の声じゃないみたい」
「私も若干ときめきます。旦那様、素敵です♪」
「あぁくそぅ、こうなりゃ自棄だっ、もうどうなっても俺は知らないからなっ!」
「“俺”ではなく、“わたし”と言われてはいかがですか? そしてこう、こんな感じです。――」
「……わ、わたしの魅力に酔いしれなさい、この愚民どもっ!!」
「旦那様、素敵です♪ ……と言うよりも以外とノリノリですね、旦那様?」
「さあ、行くわよっ!!」
「はい、旦那――……“お嬢”様。……ぷ、ふくくっ」
【ラライとムェの修行一幕】
「……ムェ」
「何を期待してるのか知りませんけど、僕は女装大会なんて出ませんよ、師匠」
「……えー」
「何と言われても嫌ですからねっ。大体、こんな大会に出る奴なんて変態だけですよっ」
「……それも、そう。残念だけど賞金は諦める」
「そうして下さい。……と言うよりも、師匠」
「うん?」
「僕の修業、いつになったら始めるんですか?」
「生きる事、これこそ修行……らしい?」
「まあ、師匠についてるだけで大変なことは認めますけど、それって……」
「うん、飽きた」
「……僕、もう帰りたいよ、姉さん」