ど-423. お祭り気分
この物語は基本淡々と、平穏無事(?)なメイドさんと旦那様の会話がひたすら続けられるお話です。
「お、何か面白い事やってるみたいだな」
「武術大会、ですか?」
「お前、出場してみたらどうだ?」
「お戯れを」
「まあ、確かに戯れなんだけどな」
「では旦那様、こちらの方に出場されてみてはいかがですか?」
「……ミス・オブ・ミスターズ大会?」
「はい」
「なんだそりゃ」
「どうやらこの国のとあるモノ好きな王侯貴族主催の大会らしいですね?」
「えっと、何々……うん、俺の目に狂いがなければ女装大会とか書いてあるな、コレ」
「旦那様は頭の治療をなさった方が宜しいかと」
「……あ、なんだ。やっぱり俺の見間違いか。だよなぁ、いくらなんでも女装大会とか、そんなモノ好きが存在するはずがないもんなー」
「以前、男装の麗人については認めておられたように思えるのですが……それと女装とは何が異なるのでしょうか?」
「全然違うだろうが。主に見た目とか」
「私に任せていただければ旦那様を一人前のレディにして差し上げる自信が御座いますが?」
「止めろ」
「……残念なことです」
「いや、そもそも。お前は俺をこれに出してどうしろと?」
「今こそ、旦那様の名を世界に知らしめるチャンスかと」
「……女装の大会で?」
「はい、女装の大会で」
「それって、仮に名前が広まったとしても特殊性癖の変態としてしか認識されないんじゃないのか?」
「旦那様そのものでは御座いませんか。敢えて訂正すべき個所はないと思いますが?」
「いやあるだろ。大体にして俺に女装の趣味はない」
「つまり今から目覚められるのですか」
「目覚めないから」
「旦那様、私思うのですが、女装は殿方として少々……と言わず大いにダメだと思います」
「いやそもそもこの話振ってきたのお前だからっ、俺はいっさいこんなのに出る気なんてないからっ!!」
「ではこちらに各種衣装をご用意しております」
「――って、ついさっきまでと言ってることとやってる事が違ぇ!?」
「旦那様にかかれば私程度の常識など軽く打ち破ってしまわれるものと、感服しております」
「何それ!? つか俺まだ出るなんて言ってないよな? と言うかでないからな、そんなのっ!!」
「こちらの衣装など如何でしょうか? 旦那様特性のオーダーメイド、作成時間は一秒足らずではありますが中々の出来になったと自負しております」
「んな、ふりふり全開のドレスを俺にどうしろと!? むしろそんな服はお前が着ろっ!!」
「ですがこれは旦那様のためにと創ったのですが」
「大丈夫っ」
「ですが……」
「大丈夫だって、お前になら似合うからっ!!」
「――」
「なっ? だから、俺にそんな服を差し出されても困る――」
「……そう、でしょうか?」
「――って、あん?」
「旦那様は、こちらの服が私に似合うと思いますか?」
「あ、ああ。普通に似合ってるんじゃないか?」
「では、見てみたいと思いになられます?」
「……まあ、見せてくれるなら」
「そうですか。……」
「って、お前どこに行くんだ?」
「いえ、少々着替えてこようかと」
「は? 何でまた……まだそんなに汚れてないだろ、その服」
「いえ、周囲の方々が、折角のお祭りの空気ですので私も偶には、と思いまして……ダメでしょうか?」
「いや、ダメなんて事はないけど。――って事はもしかしていつものメイド服以外?」
「はい、そのつもりで御座います」
「そりゃ、珍しい」
「……旦那様が似合っていると、お勧め下さりましたので」
「ん?」
「いえ、なんでも。では旦那様、こちらで少々お待ちを。くれぐれも見知らぬ方や一見優しそうな方に無条件で付いていくことのなさいませぬ様」
「いや、俺はどんな子供だよ。大丈夫だって」
「そこはそれ、旦那様は旦那様で御座いますので」
「どういう意味だ、それ?」
「そのままの、言葉通りの意味に御座います」
「……」
「……」
「……あー、もういい。着替えに行くなら早く行っちまえ」
「はい。では旦那様。少々お待ち下さいますよう。着替えと、ついでに先の大会の出場登録も済ませ手鞠ますので」
「ああ、さっさと行って来い」
「では――」
「……って、ん? あいつ、今去りげに何か……?」
【ラライとムェの修行一幕】
「やってきました、ムェイドという国」
「……何処?」
「私も良く知らない。でもお祭り中で楽しそうなので良し」
「なんですかそれは……って、確かに楽しそうではありますけど」
「じゃ、ムェ」
「はいはい。食べ物ですね。美味しいものでも買ってこれば」
「お休みなさい、ぐー」
「――って、結局寝るんですか、師匠っ!?」
修行(?)の日々はつらいのです。
まったりと。
のんびりと。