ど-422. 出発です
がんばりましょう
「あぁ、陸地って素晴らしい」
「地に足がつくとはまさにこの事ですが、ならば旦那様も少しは地に足をつけた生活をするように心がけてくださいませ」
「俺は日々、地に足がつくような生活を心がけているつもりだけどなっ」
「それは不思議ですね? 旦那様がそのような安定した生活を心がけているとは思いもよらず……つまり旦那様は生活能力が皆無という事なのですね」
「いや、なんでそうなるのだよ」
「そのような心掛けをしていると言うのに、いま旦那様がそのような安定した生活を出来ていないのがその証拠ではありませんか」
「俺が懸命にお仕事して貯めたお金って、大体いつの間にか消えてるんですが?」
「それは不思議な事もあったものですね?」
「いや不思議でもなんでもないし。つか、お前が俺を馬車馬のように働かせたあげくにその金を何処かに回してるのはいつもの事だろうが」
「何の事でしょう? ととぼけておくのが得策であると思います」
「それ全然とぼけられてないし」
「旦那様相手に嘘偽りを用いてとぼけるなどと言う所業、私には到底出来る事では御座いませんので」
「はっ、はっ、はっ、お前時々面白い事言うよなぁ」
「面白い事、ですか? いえ、そのような事を言った覚えは御座いませんが、旦那様が喜んで下さっていると言うのであれば幸いに御座います」
「いや喜んでないし。嫌味だよ、嫌味っ」
「承知しております」
「だよなー」
「それで旦那様、これより如何なさるおつもりで?」
「如何って……まあようやく陸地に辿り着けたから、軽ーく冒険でも、かな?」
「冒険で御座いますか?」
「ああ。それでこの辺りってどの辺だ?」
「そうですね……方角、風土を鑑みて――ストァルト地方の、西部海岸辺りではないかと」
「ん~、あの辺か。なら、ま、……取り敢えずはギルドにでも言ってお金を稼ぐとするか」
「そうで御座いますね、何せ計画性のない旦那様の所為で文無しですので」
「いや、だから誰の計画性がない所為だよ。それに俺がいくら金を貯めたとしてもお前がくすねてどこかに持ってっちまうじゃねえかよ」
「世界のために働く旦那様、素敵ですっ」
「って、お前は一体何のために俺の金を使ってるんだよっ」
「世界の平穏の為……と言う事にしておきましょうか」
「つまりそう言う綺麗事な内容じゃないんだよな?」
「いえ、旦那様の稼がれたお金は十分有意義に――旦那様の願いに叶う様に用いておりますのでご心配なさらぬよう」
「……まぁ、何だかんだ言いつつその辺りの信用はしてるって」
「ありがとうございます、旦那様」
「いや。……んじゃ、行くか」
「はい。お供いたします、旦那様」
【ラライとムェの修行一幕】
「山の幸が食べたい」
「……師匠、ここは海です」
「食べたい」
「いや無理ですって」
「よし、山に行こう」
「いや、なにが『よし山に行こう』なんですか」
「よし、谷に行こう」
「……まったく脈絡が分からないんですけど、師匠?」
「谷に美味しいものがあると見た」
「いや、だからそれは一体どこから……って、寝ぼけてる相手に幾ら問答しても無駄、かぁ」
「ムェ、ちゃんと掴まる」
「……で、結局こうなるわけ、」
「ごー」
「ねええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――」