Act XXX. とある幼女ととある女の邂逅
一方そのころ……と言った話。
「――む?」
『――うん?』
二人は――飛竜に乗った赤い幼女と、若干空中に浮いているっぽいフリーダムな銀髪の美女は互いを見詰めたまま、少しだけお互いに動きを止めた。
『……もしかして、いやもしかしなくてもその見事なまでの幼女体型は――シャトゥルヌーメ?』
「失礼なっ、私のどこが幼女だと言うのですっ」
『いや、何処からどう見ても幼女でしょ?』
「うむ? そういえばそうでした、私は未だ幼女です」
『未だと言うか、私が知ってる限りずっと……と言うよりもやっぱりシャトゥルヌーメ、よね?』
「うむ。私がシャトゥルヌーメことシャトゥです。シャトゥちゃんとお呼びなさい」
『やっぱりっ。でもしばらく見ない間に随分と……随分と、ってやっぱり何も変わってないか』
「何も変わってないとは失礼ですっ、背だって少しだけ伸びてて私は成長期の真っ最中なんですからっ!!」
『ちょっとってどのくらい?』
「うむ、髪の毛一本くらいです」
『それ意味ないわよね? と言うか、背が伸びてるとかじゃなくて本当に髪の毛一本あったかなかったかの違いじゃない?』
「……」
『……シャトゥルヌーメ?』
「――驚愕の事実です。折角背が伸びたとぬか喜びしたのに!」
『……って言ってもねぇ。あなた、もう何兆年、と言うよりもこの世界が出来てからずっとその姿じゃないの?』
「そんな事はありません! 私だってきっと母様のように美人になる日が来るのです!」
『来ないと思うけどなぁ……いや、母様?』
「うむ? 母様がどうかしましたか、見知らぬお方……ところであなたはどこのどちらさまでしょう? 私の新しい信者?」
『……シャトゥルヌーメ、私の事が分からないの? さっきから貴女の反応が妙だとは思っていたけど……』
「うむ? 類稀なる絶界の愚者にして道化とも呼べない創造者……何処かで会った気もしますけど気のせいでした」
『いや会った事あるから、私たち。その言い方は間違いなくシャトゥルヌーメよね』
「私と会ったのは気のせいです」
『だから気の所為じゃないわよ――と言うよりむしろ、立場的にはシャトゥルヌーメって私のお母さん?』
「我は浮気なんてしてませんっ!」
『何の事? ……と言うよりもやっぱり少し変わった? 何か陰険チートクライと粘着クゥワトロビェと一緒に滅ぼされたって噂で聞いたけど元気そうだし……いや、それとも頭をやっちゃった?』
「さっきからなんて失礼なおバカですか、この方は! 頭をやっちゃったとか……わ、我はいつの間にか頭をやっちゃってたのですか?」
『や、私に聞かれてもねぇ。私だって今の世の中の事はほとんど知らないし、何かしらないけど食べ物食べたら小人ちゃんたちが『食い逃げ』とか言って追いかけてくるし、何がどうなってるのやら全然』
「飽く・息・残っ、飽きたのでそっと息を吹きかけて残念さん、なのですっ!」
『はい?』
「今こそ、必堕のぉぉぉ……にゅ~・カマ~、煌めけ残刀、輝け私っ、――『一閃』」
『――っ』
瞬間、赤い幼女の姿が掻き消えた。
そして銀髪のフリーダミィ美女が驚きを浮かべる間もなく、その真後ろに現れる。何かポーズをとって、手にはいつの間に抜き身の刀が握られて――それはすぐに空気に溶けて消えてしまった。
「――くふっ、またつまらぬ物を斬って」
『もう危ないなぁ、いきなり何するのよ、シャトゥルヌーメ』
「!!!」
『もう少しで胴体が泣き別れするところだったじゃない』
「……わ、我の必堕技が、破られた?」
『いや、私じゃなかったら間違いなく死んでるし、今の。と言うよりやっぱりいきなり問答無用で切りかかってくるってどうなの? 一応肉体は無くなっちゃったけど、これでも私は可愛いあなたの“子供”のはずなんだけど?』
「我は未だレムに貞操を奪われていないので子供はいる筈がありません!!」
『……そうなの?』
「そうなの! 我は未だ清らかな処女ですっ!」
『……ふぅん?』
「な、なんですかその何か企んでそうな顔は。私は脅しになんて屈しないのですっ、……だから酷い事するのは止めてください」
『いや。やらないわよ、そんな事。そんな事より私としてはその“レム”ってヒトが気になるんだけど? もしかしてシャトゥルヌーメの良いヒトか何かなのかしら?』
「? レムは必ずしも良い人とは言えませんがどちらかと言えばへたれです?」
『そう言う事じゃなくて。あー、つまりシャトゥルヌーメって、そのレムってヒトの事が好きなわけ?』
「うむ? レムは私にぞっこんラフ(希望)ですが?」
『へぇ~、つまりはあのシャトゥルヌーメにも遂に春が来たってわけねっ♪』
「春? いえ、ここは夏なのです。春の地方はもう少し東に行かねば」
『だからそう言う事じゃないってば。ふふ~ん♪ それにしてもそっかそっか。遂にシャトゥルヌーメにも春が……これで私の気持ちも分かるってものよね♪』
「……ところで私は聞きたいのですが? そこの類稀なる愚者」
『なに?』
「あなたはどちら様?」
『……、あ、やっぱり私の事覚えてないの?』
「うむ。何処か母様に似てる気もしますけど、あなたみたいな愚者は私は知りません。初体験です」
『初体験――って、もしかして初対面って言いたいの?』
「うむ? ……間違えました、それなのです。私とあなたは初対面なの、一度死んでも変わらない失礼極まりないおバカルーロン」
『――って、やっぱり私の事覚えてるんじゃないの、シャトゥルヌーメ』
「……うむ? 私はあなたなど知りません」
『でも今私の名前呼んだわよね、あなた?』
「いえ、呼んでません」
『……つまり、どうしても私とあなたは初対面だって言い張るつもりなのね?』
「言い張るもなにも初対面です、間抜けルーロン」
『何考えてるのか分からないけど……まあシャトゥルヌーメが初対面って言うのなら私としてはそれでもいいけど』
「では名も知らぬ愚か者、私の信者になりませんか? 今なら豪華、故・下僕一号様の艶めかしいヌーディポスターがつきますよ?」
『…………シャトゥルヌーメ、あなた、一体何しているの?』
「私は今打倒レムを目指して世直し修行の最中です。私の前は何人足りとも歩かせません、勝つまではっ」
『……良く分からないけど、取り敢えず頑張っているのね?』
「うむ!」
『それなら良かったわ。根暗と粘着は興味ないけど、と言うより滅んだなら滅んだで清々だけど貴女が無事で安心した』
「私はいつも元気が取り柄の良い子ではありますが、それはつまり私の信者に入って下さるのですか?」
『……やっぱりシャトゥルヌーメ、あなた何処かに頭でもぶった? いや、頭ぶった程度で女神がどうなるかは分からないけど……』
「私はどこも悪くないのです! 元気いっぱい、シャトゥちゃんとお呼びっ」
『私としては、何か久しぶりに会ったら随分とはっちゃけた感じになってるなーって思うんだけど? まあ、おバカ?』
「最上級バカのルーロンにバカって言われたくはありません!」
『……う~ん、それにさっきから、何かちょっと“違う”ような違和感もあるし……それが何かは分からないけど』
「取り敢えず、これを進呈します」
『何? ……女の子の半裸の絵?』
「涙を飲むの。でも下僕一号様よ、永遠に」
『…………何でこんなもの持ってるの? 実はそっちの方の趣味に目覚めたとか?』
「うむ? 何の事ですか? ――さては下僕一号様では不満だと! 失礼です、それは最後の一枚なのですよ!」
『……まあ、くれるっていうのならもらっておくけど。なにはともあれ、元気そうで良かったわよ、本当に』
「――貴女も、残念思念みたいですが相変わらず残念な性格でがっかりしました」
『あはっ♪ 私の性格は死んでも、例え一度生き返ったとしても変わらないわよ。知ってるでしょ?』
「ええ、本当に」
『それじゃ、シャトルヌーメ、私は未だ第二の人生謳歌の途中だから。もう行かせてもらうわ』
「そうですね。私もあちらの方角で誰かが呼んでいる気がするので、私はあちらに向かいます」
『じゃ、すぐにお別れってわけね?』
「そうなります。では類稀なる愚者も、残念思念ではありますが健やかに」
『シャトゥルヌーメも、勝手に滅んだりしちゃ駄目よ?』
「……、はい。私はレム以外になにかされるつもりは一切ありませんから、大丈夫ですよ」
『………………そう。なら良かった。懸念事項が一つ減ってよかったわ』
「ではルーロン、また」
『ええ、シャトゥルヌーメ、また、何処かで再会しましょう』
赤と白の、ほんの僅かばかりの邂逅。
そしてしばらく後――ルーロンに渡ったポスターは彼女の手によって複製・増産されて各地へ飛び散っていったらしい。
『一閃』
シャトゥ、108の必堕技の一つ。必ずオチる技、と書いて必堕技。
神の速さ、正に神速での抜刀術。刀とかその辺りはイマジネーションでカバーな技。基本的には回避不能、技を出している最中は自分が無敵判定になる技である。
神速で切り付けられた相手はマンガみたいに大きく宙を舞って、地面に『ドサッ』と言う感じで見事に倒れるらしい。でもやっぱり無傷。何かヒトによっては恋……むしろ来い! と勘違いしそうな電撃っぽい衝撃が胸を走り抜けるらしい。
なお本技は精神的な効果については一切関与しません。責任は各自でお取り下さい。
久しぶりの、シャトゥの必堕技が出た。……コンプリートなるか?