ACT XX. いん、スフィア
隠れた出来事
男が一人、むすっとした表情でいた。その堂々とした様子は彼の居る場所にはそぐなわい。
――何と言っても牢屋なのだから。
足音が一つ、牢屋に響いてくる。そして男の牢屋の前に現れたのは別の男。ニヤニヤ(にこにこ、ではない)した表情が特徴的な美男子だ。
その男が現れるなり、男の表情の不機嫌さが明らかに増す。
以下、二人の会話である。
「……で、いったい何の用だ?」
「久しぶりの挨拶がそれとは、随分だね。それと機嫌も悪そうだ」
「このタヌキが。三日もほったらかしにして置いてぬけぬけと言うな、このヤロ」
「はははっ、これでも僕はアルゼルイの学長で一番偉い人だからね。君と違って忙しいんだよ」
「戯言はいい。態々賞金掛けて、しかもあいつまで巻き込んで俺を呼んだ訳を言え。何もないなんてほざいたら殺すぞ、貴様」
「怖いね。どうせ何かするにもあの『白面』に頼り切るくせに。本当に、威勢だけはいい。何故『白面』が君を選んだのか未だに不思議でならないよ。…と、言うよりももしかして君の機嫌が悪いのは『白面』を巻き込んだからかな?」
「…そうだよ、悪いか」
「いいや。微笑ましくていいね」
「……それで、これ以上俺の機嫌が悪くならないうちに要件を離して貰いたいものだけどな?」
「ああ、そうだね。それじゃ、要件を言おうか。実は君に、と言うより君達にちょっと手伝ってほしい事があってね」
「その手の類には関わらないって分かってて敢えて言ってるんだろうな?」
「もちろん」
「一応、話だけは聞いてやる。話せ」
「この街に『灼眼の剣士』が来ている事は既に知っているかな?」
「ああ、ラライの奴迷いに迷ってここに着てるらしいな。それが?」
「彼女の事をそう呼ぶのも彼の『白面』の主である君だけなのだけどね。まあそれはいいとして、だ。『灼眼の剣士』がアルゼルイにいるのが偶然ではなく必然だとしたら?」
「――灼眼の因果か」
「流石、あの『白面』の主だけはある、よく知っているね。だから君が相手だと話が早くて助かる。そう、十二使徒の遺した負の遺産の一つ――灼眼の“因果”。それがこの街で発動しようとしている。君たちに“因果”からの解放の助力をしてもらいたい」
「…断る」
「そう言わずに。このままじゃ被害がどのくらいになるのか想像がつかないんだ。もし『白面』が引き受けてくれるのなら僕としても安心が出来、」
「だから断ると言った。ラライもその程度の自覚はあるだろうし、酷なようだが、なら全部あいつ自身の責任だろ。それにラライから頼まれるならまだしも、お前からの頼みを俺が聞く謂れはない」
「冷たいなぁ。まあ想像はついてたし、仕方ないか。でも君の所の子、少しは貸してくれると嬉しいんだけど?」
「本当に図々しいな、このタヌキ。俺は他の奴らの行動に対して強制するつもりはないから誰かの手を借りたいのならてめぇで勝手にしろ」
「本当に予想通りの答えしかくれないなぁ」
「……俺はな、未だにお前を許した覚えはないんだぞ」
「随分と根に持つね」
「当然だっ!!あれは…あれは俺の乳(予定)だったんだぞ。それをてめぇに掻っ攫われて黙ってられるかっ!!」
「ふふっ、マイハニー、もといミリアレムとは毎日仲睦まじくやってるよ。それはそうとしてそろそろ僕にかけた呪いを解いてくれると嬉しいのだけど?『ミリアレムをなかせるたびに体が麻痺する』ってあれ、結構陰険だよね」
「ざけるなっ!!」
「もう、本当に毎夜毎夜、ハニーを鳴かせちゃって、おかげで呪いの所為で身体が痺れて堪らないよ。まあそのたびにハニーに熱い看病を受けてるんだけどねー。ちょっと燃え上がっちゃってまた呪いを発動させちゃう事もよくあるけど、まあ仕方ないよね。若いんだし」
「…てめぇ、俺に喧嘩を売ってるのか?」
「まさかっ。惚気ているだけだよ。ふふっ、君には感謝してるよ。マイハニーと巡り逢わせてくれたキューピットだからね」
「………、やってられるかー!!!」
「まあ、交渉が失敗したのは仕方ないね。予想通りではあるし、この件は僕たちで何とかするとするよ。元々君と話をしようとしたのも惚気るためだったしね。協力を得られればラッキー程度には思ってたけどね」
「うがっー!!!!」
以上。
裏話ってやつ?
やってみたかったのです。ただそれだけです。
そしてほんのついでですが、
シィりぃさんのシリーズ(スフィア編とでもしますか?)はがくちょーさんの言っている『灼眼の因果』の出来事を綴っております。
珍しくいっぱい人出ますよ?奴隷さんとか、奴隷さんとか、お姫様とか、メイドさんとか、世界最強の剣士とか。
敢えて名前は自己規制しましたが、…深い意味はありません。