ど-412. お休みですか
休みを満喫です?
「ん~、仕事をしないのって素晴らしい!!」
「そして余所で女に働かせて自分は一人ヒモ状態……何かご弁明があるのならばお聞かせ願えませんか?」
「昨日、一人で山に芝刈りに行ってきました」
「なんですか、その嘘っぽい理由は」
「んで一昨日、川に洗濯に行かされました」
「旦那様、言い訳をするおつもりならばもう少し内容を考慮した方が宜しいかと」
「ああ、そうだな。確かに俺も、これが本当に良いわけとかならその通りだと思う」
「では旦那様は何故、」
「つか俺は嘘を一切言ってないだろうが。お前だって知ってるだろ」
「昨日は山に芝刈り……あぁ、野生生物の群れに追われて大変であったと伺っておりましたが、そうですか、単に芝を刈りに行かれていただけでしたか」
「ああ」
「何でも珍しい山菜の類が大量に見つかって、ギルドの方々が歓声を上げているとの噂があったのですが、そうですか、アレは旦那様の仕業でしたか」
「仕業とか言うな。ちゃんといいことしたんだから」
「ですが旦那様の事ですので、偶然なのでしょう? あれらの品が見つかったのは」
「……まあ。モッキーの群れに追われてた最中に足を踏み外して崖から落ちてな。その時にララバイの花畑と、そこに群生してたキリシラズの林を見つけたんだ」
「まあ、大丈夫でございましたか、旦那様?」
「何を白々しい」
「何がでしょう?」
「不気味なほどにモッキーたちが興奮してたし、後から気付いたんだが不思議な事にモッキーたちの興奮作用のある香りが服から漂ってたんだ」
「それは驚きですね」
「ああ、驚きだな。つーか、普段は大人しいと言うかヒトを恐れるはずのモッキーたちに追われるとか可笑しいと思ったけど、あれなら納得だよなー」
「そうですね。しかし旦那様も、何もそのようなものを身に纏って芝刈りに行かれずとも……」
「お前、その日の朝に『山に行かれるのでしたらこちらのお召し物を』とか言ってたのを覚えてるか?」
「覚えておりますがそれが何か?」
「で、その服に大量の興奮剤が塗られてたみたいなんだよ」
「それは大変で御座いましたね」
「ああ、大変だったとも。モッキーには追いかけまわされるし、足踏み外して崖から落ちるし、おまけにその後、何故か何処からともなく表れた大きな鳥に連れ去られて喰われる間際の所で何とか逃げおおせて、山三つほどを徒歩で帰る羽目になったし」
「ああ、それであちこち服が縺れていたのですか。しかし大変だったのですね」
「まあ、お前の手が一々入ってないだけ楽勝と言えば楽勝だったけどな」
「さすが旦那様、逞しくあらせられます」
「ふふんっ、それ程でもあるけどな。普通の奴だったら死んでるぞ、絶対」
「そもそも普通の方はモッキーに興奮作用がある香料のたっぷり付いた服など着て彼らの縄張りに近づくなどの愚行はいたしませんが」
「俺も好き好んでそんな事、しないけどなっ!」
「ふふっ、口ではそう仰っておられても身体の方は正直で御座いますね」
「ああ、正直に震えてるな。怒りとか、思い出して湧き上がってくる怒りの感情とかで」
「ご自身の無力感に打ち震える旦那様も何だか背中がぞくぞく致します」
「いや震えてないから。自分の無力感に震えたりとかしてないから、俺」
「承知しております」
「……、だよなー」
「はい」
「んで、一昨日の川に洗濯の件なんだが――」
「はい、如何なさいましたか、旦那様?」
「何であんなに大量の洗濯物があったんだろうな、つか俺はどうして態々川に洗濯しに行ったんだ?」
「近場であれだけの量の洗濯物を洗濯するのは困難ですので」
「じゃあ別の質問。何であんなに洗濯物があったんだ――と言うよりもギルドの依頼で『川で洗濯』とかってどうよ?」
「依頼人は私です」
「うん、知ってる」
「あれだけの洗濯物を集めるのは苦労致しました」
「……苦労してまで集めるなよ」
「旦那様のためを思えばこそです」
「……何が俺の為だか」
「しかし旦那様、良く私が依頼人だとお分かりになられましたね?」
「ゃ、依頼完了の報告に行った時にちゃんと確かめたから」
「……それはおかしな話ですね。確か依頼人の名前は、」
「“愉快なメイドさん”とかって書いてあったな、――何処からどう見てもお前の事だろうが」
「あれを見破るとはさすが旦那様」
「いや、まあ。それにギルドの職員の態度とか見てれば丸わかりだし。何か一通り魅了されてたから。そんなこと出来るのお前以外いないだろ」
「いえ、“情報士”マデューカス様ならば可能かと」
「ああ、あの根暗ねーちゃん? そう言う事が得意なのか、へー」
「ご存じなかったので?」
「ん? ああ、単なる情報通の根暗かと思ってた」
「そうですか。では――あの事もご存じないと」
「あの事? 他にも何かマデューカスの事で隠してる事があるのか?」
「いえ、些事ですので旦那様がお気になさる必要はないかと」
「……ん~、まぁいいか。今はそんな事よりもこの休日を堪能せねば」
「そうですね。折角程々資金がたまったので久方振りの休日、ごゆるりとなさいませ、旦那様」
「そう思うなら、お前は何故ここにいる?」
「……それは遠まわしに私はお傍にいない方が気が休まると言う事でしょうか?」
「どちらかと言えば。お前が絶対に余計な事は何もしないって、アルにでも誓うなら別に傍にいても良いけどさ」
「それでは詰まりません」
「詰まらなくて良いんだよ。今日はゆっくりと休むんだから」
「そうですね。では私も旦那様のお望み通り――旦那様に余計な事はしないとアルーシアに誓いましょう」
「ほんとうに?」
「私は今、アルーシアの名を出しました」
「――まあ、そっか。アルに誓うっていうのなら安心だな。と、言う訳で今日はのんびり休むぞー!」
「はい、旦那様。お付き合いさせていただきます」
「のんびりと、街のヒト達でも眺めながら茶ぁ飲んで過ごすか」
「……年寄り臭いですね、旦那様」
「放っておけ。……でも結構楽しいんだけどなぁ」
【ラライとムェの修行一幕】
「弟子よ」
「なんですか、師匠。あとそれは僕じゃなく木です。寝ぼけないで下さい」
「師匠に向かって色呆けとは失礼な!」
「……誰もそんな事言ってません」
「そう? なら良し」
「……で、今日はどんな特訓を?」
「ん、この服を着てモッキーたちと戯れよう」
「服?」
「んっ、モッキー達の大好きなにおいがいっぱいな特性服。追いかけまわされる事、請け合い」
「冗談じゃない! 嫌ですよ、そんなバカな真似――ッて云うかあんなバカでかいサルにじゃれつかれるとか、普通に死にますから!!」
「……えー」
「兎に角、それは嫌ですから」
「なら仕方ない」
「……ふぅ、助かっ――」
「じゃ、強行手段で」
「――ッてないっ!?!?」
うん、思い切り怠けてますので更新が遅くなってます。
……いや、すみません。