ど-408. 探さないヒト
これもいたって日常……な彼らです。
「……ふぅ、まさか猫はネコでも子猫ちゃんだとは思いもよらなかったぜ」
「女の子の探索でしたね、旦那様」
「ああ」
「名前、マナシア、年の頃は13~4、外見的特徴は方ほどまでの長さの茶髪に澄んだ緑の瞳……澄んだ、とは珍しいですね」
「ああ。つまりそれなりには潜在能力があるってことだろ」
「そうですね。……他の身体的特徴は特になし。性格は少し控えめな、率直に言えば人付き合いが苦手であると。服装は――」
「それは当てにならないから飛ばしていい」
「はい、旦那様。……他に情報は、最後に目撃されたのは八日前の朝、自宅から出かける時、と。与えられた情報は以上のようですね、旦那様」
「そうか。……でも八日前となると、微妙だな」
「そうですね。無事に見つかればよろしいのですが」
「まっ、それを何とかするために雇われたのが俺達ってわけだ。可能な限り頑張るしかないだろ」
「可能な限りとは、また大きく出られましたね、旦那様」
「え、そうか?」
「つまりは死んでさえいなければどうにかする、ととって宜しいのですね?」
「まあ、そうだな」
「では旦那様、最近近辺の村々に怪盗“にゃんこ”が出没しているという噂をご存知でしょうか? 全身タイツに、獣人のようなネコ耳ネコ尻尾、年の頃はかなり若い女性のようですが――」
「ほー、それは是非とも一度見てみたいものだな、と言うより何で今そんな話を?」
「少なくとも私がざっと調べた限りでは、行方を眩ませているマナシア様の残留魔力と、巷で一部の大人の諸兄方に大人気☆の怪盗“にゃんこ”のモノと思われる残留魔力は99.99%一致するものが、いえもう面倒ですので同一人物のモノですと私が断言いたしましょう」
「って、怪盗かっ、また怪盗なのか!?」
「可能性としては先の『さあ、君も一緒に怪盗“ねこにゃんにゃ&うさぎぴょんぴょん”』に応募した線が濃厚かと」
「濃厚過ぎてぐぅの根も出ないけどなっ!」
「ぐぅ」
「いやそれはどうでもいい、心底どうでもいい」
「そうでしたか」
「……でも、あんなのに応募する奴なんていたのか、と言うかいること自体今でも信じられないのだが……?」
「ご存じないのですか? 今、巷では怪盗は大人気に職業らしいですよ?」
「知らねえよ!? つかどれだけ世界終わってるんだ、あと怪盗は職業じゃねえ!!」
「正に子猫探しですね、旦那様」
「……あぁ、もしかして、だから“猫”探しだったりするのか、あの依頼」
「恐らくはそうなのでしょう」
「……」
「旦那様?」
「……何と言うか、改めて世界のダメさ加減を見た感じだ」
「旦那様ほどではないかと思われますが?」
「いや、たとえそうだとしても……相変わらず所々にあの“なんちゃった♪”の悪影響と言うかお茶目心が見え隠れしている気がする」
「お恥ずかしい限りです」
「って、何でお前がそこで恥ずかしがる?」
「旦那様に代わり謝罪してみました」
「俺は何も悪くないぞ!? 悪くないからなっ!!」
「旦那様がそう仰られるのでしたら、そうしておきます」
「いや、本当に。俺は一切悪くないから」
「はい、分かっておりますとも、旦那様」
「……お前の場合は分かって、いや分かってるなら良いんだ、うん」
「はい、子細全て、重々承知しておりますとも」
「ま、それはそれとして。そこまで調べがついてるって言うのならこの依頼、どうしようか?」
「どうしようもなにも、旦那様が無理矢理取り捕まえ押し倒し拘束し、それから……」
「それから?」
「酷い旦那様ですね、もうっ」
「いやだからそれからの続きは何だよ!? ……あと、一応いっておくがその前の無理矢理、とか言うのもないから」
「では違約金はどうするのですか? 旦那様は今、私がお金を渡さなければ文無しですが?」
「そしてお前は渡す気は微塵もない、と」
「そうですね。ちなみに契約違反を起こせば即、“隷属の刻印”を刻まれれて奴隷に一直線――」
「てか、そんなモノは微塵も怖くないんだけどさ。約束はちゃんと守らないと、だよな」
「はい、そうですね――と本来ならば同意したい所では御座いますが、」
「なんだよ」
「旦那様が約束を守らねば、と仰られるのであれば旦那様は既に計56人の女性と結婚していなければいけない事になります」
「は? なんでどうして? つかそんな嬉し恥ずかし、な約束をした覚えは……」
「子供の口約束とはいっても約束は約束かと」
「……いや、確かにそういう記憶が50くらいはあるかもだけど、でもあいて、大体三才くらい……」
「なんですか、その特殊性癖は」
「いやぁ、子供をあやす時の一つの口説き文句としてだな、」
「旦那様は言葉の使いどころを激しく間違っておられると、そう申さざるを得ません」
「……分かった、今度からは気をつけよう」
「そうして下さいませ」
「……――で、微妙にむくれてる気がするのはもしかして嫉妬?」
「はい、嫉妬です。と言う事で殴りたいのですが殴ってもよろしいでしょうか?」
「ダメだ」
「残念です」
「とか言いつつ殴りかかろうと隙を窺ってるのはどこのどいつだ」
「さすが旦那様、隙が御座いません――あ、あのようなところに美少女が」
「ふっ、バカかお前は。そんな手に引っ掛かるわけがないだろうが」
「では……このようなところに美女が」
「って、言いながら自分を指すなよ。確かにその通りではあるけどさ」
「……中々やりますね、旦那様」
「いや、お前の手段が陳腐過ぎるだけ――」
「あ、シャトゥ」
「何!?」
「――ふっ」
「ひ、きょうなああああぁぁぁぁぁ――……」
「これで良し、と。旦那様が飛翔なされたのもちょうど目的の街の方角と、抜かりは御座いませんね。それはそうと――シャトゥ、久しぶりですね?」
「――うむ? 母様? おぉ、母様、久しぶりなのです……で、レムは?」
「あちらに飛んで行きました」
「なんだレムめ。さては私を見て逃げ出したな!」
「そうかもしれませんね?」
「……ちょっぴり、寂しいのです」
「よしよし。……ではこちらの方をお供ししてはどうです、シャトゥ?」
「……うむ? 龍種の子?」
「少し違いますね。飛竜を、旦那様が作られた“人化の秘薬”でヒト型にしただけです」
「見事にレムの趣味通りの女の子になってます」
「元から雌ではありましたが、確かに言われてみればそうですね」
「では、レムの毒牙にかからないように私が預かる事にするのです。……ちょっと、ルルとケンカしないか心配なの」
「大丈夫でしょう。ルルーシアは賢い子ですから」
「ですね! じゃあ母様、またどこかで再会しましょう!! ……なの」
「はい。シャトゥも、健やかに」
「うむ!」
【潰される人々:ラライ編】
「――くぅ」
『……』
【道端で色々なものに埋もれながら眠りこけてます。通りがかった人、皆避けて行きました。】
へい、へいっ、へいっ!!