ど-404. 凶報
その様な事は……
「――旦那様っ!!」
「……何だ、珍しく慌てて」
「風の噂で聞いたのですが、」
「ごめん、やっぱそれ以上何も言うな。聞きたくない」
「“銀髪”の少女が世界各地で名産食い倒れ、それも食い逃げをしていると――」
「うわー、第二の人生とか言ってたけど、何やってんだろうな、本当に」
「……詳しく、ご説明いただきたいのですが?」
「迷宮に眠ってたルーロンの残念思念らしい。以上」
「原初の白龍の……?」
「ああ。まあ、そんなに気にするほどの事でもないんじゃないか? 別に龍種の――それも皇族の生き残りってわけでもないんだし」
「……そうです、ね。ですが旦那様、一つ言わせていただきたい」
「なんだ? 言ってなかった事を怒ってる、とか?」
「いえ、違います。そうではなく、」
「そうじゃなくって?」
「私たちも食い倒れの旅をしましょう!」
「食い倒れ、ねぇ……」
「旦那様はご自身の夢などと仰っておられたハーレム実現のためにでも全国津々浦々、女性の方々の食い倒れでも目指してみれば如何ですか。徒労でしょうが」
「……ふむ、それも悪くはない、か」
「では急ぎ、参りましょう」
「いや、待て」
「……何でしょうか、旦那様」
「いや、食い倒れとか、旅に出るのとかは別に良いんだけどな……――何を企んでる、お前?」
「企むなど人聞きの悪い」
「なら何を目論んでやがる?」
「どちらも同じに聞こえますが?」
「結局、どっちも同じ意味で言ってるからな。同じに聞こえて当然だろ」
「そうですか。なんとも疑り深いものです」
「で、何を考えて急に旅に出ようとか言ってるんだ? まさかただ単純に、あの残念思念に対抗して食い歩きをしたいとかじゃあるまいし」
「それも少々……――全て、とは申しませんが」
「ああ、分かってる。んで、俺はその全てじゃない部分で何を考えてるかってのを聞いてるつもりなんだが?」
「一つは、迷惑をかけた方々へと謝罪と返金をしようかと」
「……あぁ、そう言えば食い逃げとか言ってたな、あの残念思念。んで、お前が肩代わりしようと?」
「……一応、心ならずも」
「で。他は? 一つはって事は他にも理由があるんだろ?」
「所々で不穏な動きが見られる、とのことです、旦那様」
「不穏、ねぇ。処理部の奴らとかに諜報を任せておけばいいんじゃないのか? それともそのレベルじゃないと?」
「少々、手に余るかと」
「手に余る、ねぇ。お前がそう判断したってんならその通りなんだと思うけど……その不穏な動きとやらはどんな?」
「赤、青、緑――そして白と。これはご存知と思いますが」
「まあな。“なんちゃった♪”に“盲目どストレート”に――……それと残念思念。よくもまあここまで一時期に揃ったもんだと思うけどな。あと黒がいれば勢ぞろいって感じな訳だけど――?」
「では揃う事は永遠にありませんね」
「ま、だな」
「そして彼らに釣られるように……いえ、事実何者かに釣られているのかもしれませんが、各地で決起の動きが幾つか見られます」
「決起? でも国のいざこざとかなら放っておけばいいだろ? いわゆる宗教的な問題だし」
「それがヒト同士の争いならば、と言うのが旦那様のお考えでしたね?」
「……つまり、小人族以外の、妖精族、巨人族、龍種、魔種の――それも集団的な動きが見てとれると?」
「はい。四勢力……何処にも所属していないところを数に加えるのであれば五勢力と言っても差し支えないでしょうが、その様な動きが見てとれます。……もっとも旗印にされている当人たちは一つを除き、全くやる気はないようですが」
「……で、その一つってのは?」
「青の勢力です、旦那様。規模としてはこちらが一番大きく、そして現時点で旦那様に害が及ぶ可能性が一番高いのもこちらかと」
「ああ、『静鎮』ね。あいつには色々と潜在的に逆恨みされてるだろうしなぁ。他の勢力は……まあ、赤と白はさておいて、緑の――あのヤロウはそれほど分かりやすいはずもないか」
「はい。ですが、詳しくはやはり旦那様に直接ご覧いただくのが宜しいかと」
「それで俺と一緒に旅に出ようと?」
「はい、それもあります」
「ま、でも今あげた面子なら、小人族以外ってのはお前が行けばほぼ一網打尽――と言うかうってつけだしな」
「そちらは余り、気は進まないのですが……」
「そう言うなって。お前以外に最適な奴はいないんだし?」
「旦那様は如何でしょう?」
「俺は無理無理。そう言うのはお断り。どちらかと言えば俺は嫌われ者の方が似合ってるって」
「……その様な事はないかと」
「まあ、そんな話は今はいいとして。そう言う事が理由なら、やっぱり一度世界を見回っておいた方が良いのかもな」
「はい、旦那様。とはいってもいまあげた理由は即席で思いついた後付けなのですが」
「――って、今までの話全部ウソかよ!?」
「いえ、その様な事は。傾向が見て取れる、と言う事だけは本当ですので、どうか心に留め置きを、旦那様」
「……まあ、分かった。確かに今言ったのは軽く見ない方が良い話題だしな」
「はい、そうですね」
「……んで、そうすると食い倒れの旅に出ようとか言った理由ってのは結局何なんだ? やっぱり“身内”の恥を何とかしたいとか?」
「いえ、その様な事は全く」
「なら他には……」
「失礼ですが旦那様」
「あん?」
「その様な事は初めから決まっております」
「……じゃ、どんな理由だと?」
「――私が旦那様と共に少しばかりの遠出をしたい、と言うだけで十分過ぎる理由ではありませんか」
「…………あ、そ」
「はい」
【潰される人々:スィリィ編】
「……何か、言い残す事は?」
「事故だ。押し倒したり胸を鷲掴みにしたりしたのはあくまで事故だ。いきなり起きた地震が悪いだけで、決して俺の意思じゃな――」
「――そんなに私に魅力がないとでも!?」
「ゃ、ならどう言えと?」
「…………ぁ、ぁぃを囁く、とか。他にももっと色々と……」
「悪い、良く聞こえな――」
「悟れ、バカ!!!!」
「――ふっ、見切った!」
「っっっ~~」
【空気を読まないレム君がビンタを避けました♪】
……はふぅ。別に修羅場とかではない。
ついでに物語が急展開とかそういう事も、断じてない。ただの日常の一風景ですから。
ついでに――
赤・・・シャトゥルヌーメ一派
青・・・クゥワ(旧クゥワトロビェ)一派
碧・・・チートクライ一派
白・・・ルーロン一派(要は龍種再建派)
黒・・・【厄災】一派
残り・・・悪魔とか、その他色々
です。