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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【キックス編】
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Early X. キックス-32

……

「これで――」

「っぅぅ!!」



ノノーツェリアが繰り出した一撃、翡翠の光が漏れ出る、彼女の手に形成されたナイフが男に振り下ろされる間一髪。追いついたツェルカが二人の間に立って、氷の楯でその刃を受け止めていた。


拮抗――したと思ったのも一瞬。



「――邪魔です」



氷の楯が砕け散る。そしてその刃はツェルカを貫く、かに思われたが――



「っぁ、まだまだっ!!」



形成された氷の楯がまた刃を受け止めて、砕け散る。それでもまた次の瞬間には氷の楯は再形成されていて、刃の動きを妨げる。


少しずつ、少しずつではあるが翡翠の刃はツェルカへと近づいていて。



「っ、ご主人様! 起きて、余り長くは持たないっっ」

「……小賢しい」



ノノーツェリアの表情が僅かに苛立ちを浮かべて、刃を握っていた手に力が込められようとした、正にその瞬間。






「お~、絶景かな」






くつわを噛まされていたはずの男が、言葉を口にした。四肢は変わらず縛られたままで都合良く口の轡だけが外れていると言う状態で。

ちなみに男は倒れているのだから当然超ローアングルであり、ツェルカはいつも通りのメイド服、ノノーツェリアもスカートを履いていて、そして二人がいるのは男が倒れている、その真上に近い位置な訳で。



「「っっ!!」」



“その事実”に思い当たった瞬間、ツェルカは刃が迫ってきていた事も忘れて、顔を引き攣らせながら後ろの男へと振り返っていた。

惜しげもなく高く振り上げた足を、躊躇いもなく振り下ろして――



「このっ――覗くな、ご主人様っっ!!!!」

「ごふっ!?」



直下にあった男の顔を踏み抜いた。

その光景を傍で見て、キックスは『うわぁ……』と思わず声をあげて、その真横では無表情のメイドが『自業自得です、旦那様』と口にしていたとか。


一度では飽き足らなかったのか、二度三度、と男の頭を力いっぱい踏みつけて、ようやく落ち着きを取り戻す。



「はぁはぁはぁ……まったく、このご主人様は本当にもう、――っ!?」



今更ながら。

もうこれでもか、と言うほどに致命的な隙を見せていた事実に気付いたツェルカが慌てて振り返ったが、そこで見たのは距離を取って警戒を浮かべているノノーツェリアの姿だった。

何故それほどまで――と言うほどに警戒を強く浮かべているノノーツェリアの姿だったが、何故とかそういったことより先に、ツェルカは取り敢えず良かったと思う事にした。あんな失態以外何物でもない動作、ついいつもの条件反射と言えども時と場合を選ばなければ命がいくつあっても足りない。


このバカご主人様、と内心で本気で罵って。ツェルカは改めてノノーツェリアと向き合った。




◇◆◇




――を、傍目で傍観していた二人。



「……あの、ルイルエお姉様?」

「はい、何でございましょうかキックス様」

「ご主人様、助けに行かないでも良いんですか?」

「あら、キックス様。お忘れですか?」

「忘れ……?」

「今のキックス様の主は旦那様ではなく、ノノーツェリア様に御座いますよ? どうかお忘れなきよう」

「あ、はい。それは忘れてませんけど……でも、」

「でも?」

「やっぱり、助けに行かないでも良いんでしょうか?」



キックスの視線の先には、ツェルカに散々に踏まれぬいてボロボロな姿の男がいた。四肢もまだ縛られたままなので本当に見ているだけで笑える姿である。間違っても知り合いとは思われたくない姿でもあるが。



「ご心配には及びません。旦那様など捨て置けばいいのですよ、キックス様」

「す、捨ておけって……」



思わず絶句したキックスだったが、すぐに思いなおした。彼女がどれほどあのご主人様の事を大切にしているのかは、館に住む誰もが嫉妬殺意入り混じって知っている事である。その彼女が捨て置いても良いと断言したのだから、傍目には駄目っぽく見えても大丈夫なのだろう、多分。



「それよりもキックス様、他にも何か聞きたい事があるのでは御座いませんか?」

「あ、ああ、はい。ルイルエお姉様、さっき言いかけてた事って一体……」

「ああ、そういえば言いかけた途中でしたね。本当にもう、キックス様への大切な話を中断させるなど、旦那様は本当に旦那様で困ってしまいますね?」



ね? と尋ねられても、返答に困った。確かにご主人様はご主人様で、傍迷惑極まりないのだが、そう言えばそもそもあそこに置き忘れてきたのは彼女だったはずなのでは……?

そこに思いいたり、キックスはひやりと背中が冷たくなった気がした。一体どこまで、彼女は分かっていたのだろうか、などと要らぬ疑いを掛けてしまいそうになる。



「ではキックス様、ノノーツェリア様をご覧ください」

「……ノノを?」

「はい」



言われた通り、ノノーツェリアを見てみる。いつもと別人のような表情を浮かべている彼女に、胸がずきっと痛んだ。



「ご覧になられたでしょうか?」

「は、はい」



でもそれがなんだと言うのだろう?



「お気づきになられた事は御座いませんか?」

「気付いた、事?」



別に、何処にも変なところは……。



「キックス様、良くご覧になって下さいますよう。あなたならば、彼女の違いも一目で分かるはずです」

「僕、なら……?」

「はい、キックス様」



自分なら、と言うその言葉に、もう一度ノノーツェリアを見て……良く視てみる。

――と、それは驚くほど簡単に分かった。むしろ今まで気づいていなかったのが不思議なくらいである。



「あれは何……? いや、違う。あれは……誰だ? ノノじゃ、ない」



間違いなくノノーツェリア本人であるはずなのに。それでもキックスにはあれをノノーツェリアだと言う事が出来なかった。


魔力とは――すなわちヒトの魂の写し絵のようなものでもある。個人によって千差万別、似たような波長はあるかもしれないが同じものは一つとしてない。少なくともキックスが見た事はない。これは魔力を直接“視る”事が出来るキックスだからこそ言えることではあるのだが。

そして、魔力が突然変わるなど、それも少しだけではなくて、まるで別人のもののようにがらりと変わるなど、視た事もなければ想像したこともなかった。


それにどこか、直感的に思うのだ。

あれはノノじゃない、あんなものが僕の知っているノノであるはずがない、と。


そしてその直感はある意味で正しく、ある意味では正しくはない。間違っては、決していないが。



「キックス様、良くご覧になって置いて下さいますよう。そしてどうか心に留め置きを」

「……何をでしょうか?」



何故か、胸の動悸が止まらない。嫌な予感しかしない。

あの時、ノノとナナーツォリアのどちらかを見捨てなければいけない、と言われた時と同じような感じ。これは良くない。



「これから起こる事を、どうか目を逸らさず、お忘れなきよう。その目を持った貴方様ならば見ても良いと、旦那様がご判断した、世界の真実の一端です」

「い、いきなり一体何の……」



事を言っているのか、分からない。

聞いてはいけないのに同時に聞かなければいけない気もする。



「あれは、今の彼女はノノーツェリア様であってノノーツェリア様では御座いません。“冥了”の欠片に取りつかれたお姿です」


後書き

【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】



「うお!? 何故こんな素敵イベントが!!」


「……」


「ん~、記憶にないけど、アル、どうかしたのか? 寝ぼけて俺に抱きついてきたとか? ふふっ、仕方のない甘えん坊だなぁ、アルは」


「……」


「まあ、頼りになり過ぎる俺に甘えたくなる気持ちは分からないでもないんだけどなっ、はっはっはぁ~!」


「……」


「――うわっ、うざ」



「うるせえよ聞こえてるよ、テメェ俺にケンカでも売ってるのか、ああ!?」


「……(ぷるぷる)」←少し寒そう


【お終い】


ある寒い、夜の事でした。


というか、うっかり忘れてた。……あい

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