Early X. キックス-28
ダメだ……ストーリが進まないっ
あとすらんぷ
「!?」
一人だけ、ノノーツェリアが顔一面に驚きを浮かべてそこに佇んでいた女性へと顔を向けた。
残る二人、キックスとツェルカは慣れたもので然したる驚きも見せなかった。『あ、居たんですか』と言う感じで普通に彼女がそこにいた事実を受け入れている。
「「ルイルエお姉様」」
「お久しぶりに御座いますね、キックス様、ツェルカ様。体調の方は如何でしょうか?」
「僕は大丈――」
「大丈夫です、お姉様!」
元気良く応えるツェルカの姿を見てノノーツェリアが目を見開いてまた驚いていたりするが、誰も気にしない。
「そうですか、それは良かったです。キックス様の方も、ご健勝そうでなによりに御座います」
「あ、いえ、はい……」
「あのっ、私とキーくんの怪我を治してくれたのってルイルエお姉様……ですよねっ?」
「さて、どうだったでしょうかね?」
僅かに首を傾げる。
彼女の様子からは、表情も変わらなければ口調にも変化がないので、とぼけているのかどうかの判断が全くつかなかった。
「それにしてもお二方は随分とご健闘なされたようですね。街の方では凄い勢いで噂が広まっておりましたよ?」
「う、噂ってどんな……ですか?」
「何でも魔獣数百の群れ相手にたった“二人”で太刀打ちし見事打ち破った稀代の英雄、W.R.入りは確実な実力の持ち主などなど他にも色々とお二方を称えるものばかりで、正に旦那様とは雲泥の差ではありませんか」
「へ、へぇ~」
「凄いねキーくんっ、W.R.入りだって!」
「いやツェル姉、そんな他人事みたいに言わないで。それに僕らより強い人たちなんてごろごろといるじゃない」
「え、それはキーくんだけだよ? 私そんなに弱いつもりないもん」
「……」
確かに、キックスよりもツェルカの方が色々な意味で腕が立つのは確かなのだが、それでも面と向かってこれだけはっきりと言われるとそれなりに落ち込むものである。
ヒトの目がなければ両膝をついて落ち込みたかった。
「――あぁ、そう言えば彼の『白面』すらも上回る実力の持ち主なのでは、などと言うのも御座いましたね」
「「んにゃ?!?!」」
「まあそれだけお二方の事を心より歓迎ないし感謝している、と言う事なのでしょうが……如何なさいましたか?」
「「……」」
同時に噴き出して、今は青い顔で震えながら潤んだ瞳を向けてくるキックスとツェルカの二人に不思議そうな顔――とはいっても表情に変化はまるでないのだが――を向ける。
「いえ、何でも……ね、ねえキーくん?」
「そ、そうだねツェル姉。……な、何でもないです」
「……ふぅ、そうですか。ではお二方」
「「は、はいっ!!」」
「……――何の事かは存じませんが、私は何も気にしておりませんと申し上げておきましょうか。何より私は旦那様ほど狭量であるつもりは御座いませんから」
「「……ほっ」」
そして目に見えて安堵の表情を浮かべる二人。
ノノーツェリアだけは状況を理解できていないのか、それともついてこれていないだけか、目を大きく閉じたり開いたりとしていた。
「――それとノノーツェリア様」
「ぇ、ぁ」
「御挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。こちらも久方振りに御座います、ノノーツェリア様」
「あ、や、……こちらこそ」
「ええ、聞こえてはいるでしょうが改めて――本当に久しぶりですね?」
その一瞬。
僅かに、彼女の視線が睨みつけるように強くなったのだが気付くものは誰も――否、彼女は誰にも気づかせなかった。
また、ソレに応えるモノも誰もいない。
「え、えぇ、はい。3日ぶりくらい……ですか? それほど久しぶりと言うほどでもないと思いますけど……?」
「それもそうですね、ノノーツェリア様。失礼いたしました」
「い、いえ、そんな事は……そ、それよりも先程の返答は――っ」
「ええ、お引き受けいたしましょう。ノノーツェリア様の姉君……ナナーツォリア様のご容体を診れば宜しいのですね?」
「あ、はい、そう、ですけど……」
何かを言いかけて言い淀むノノーツェリアを見て、女は肯定を一つ。
「ご心配なく、ノノーツェリア様。全て承知しておりますから」
「――」
躊躇いなく言い切った彼女の様子に改めて、もしくはようやくノノーツェリアは違和感と言う名の警戒心を彼女に持った。
以前に一度会っただけの彼女ではあるが――奴隷契約の関係上、彼女には本名を告げてあるからノノーツェリアと呼ばれる事に関しての疑問はないが……彼女は今、全て知っていると言った。
全てとは何処から何処までを指す? それに何より、目の前の女性は一体どうやってここまでの侵入を、何の騒ぎも起こさずに果たした? そもそも扉の前にはシィナが待機して……――ありえない。
様々な、それこそ最悪の状況を瞬時に思い浮かべて、自然と身体を構えていたノノーツェリアだったがそれすら見通したように。
「余り気負われぬ様」
「――」
「少なくとも貴女が存じている程度の事は全て存じ上げておりますし、ナナーツォリア様の件に関しましてもそれなりの予想は付いております」
「……それは、本当?」
「はい。そしてナナーツォリア様を悪く扱うつもりは一切御座いませんのでどうかご心配なく。少なくとも私――それにキックス様もツェルカ様も、この国のモノではありませんし関わりも一切御座いません。他の王族の方々から雇われた暗殺者、と言う事は御座いません」
「……」
考え、それでもなお考えて悩む様に。
何よりも本人から『私は暗殺者ではありません』と言われても信用できるはずもない。
けれど、と。
「?」
不思議そうに、そしてどこか気が抜けるような笑顔を返してきたキックスを一瞥して、それで考えは決まった。いや、初めから選択肢などなかったのかもしれないが。
キックスを信じた自分を信じている、だからその結果何があろうと責任は全部、私自身の所為――そんな言葉を言った事を思い出していた。
そしてそのタイミングをノノーツェリアの内心を見透かしたように、彼女が口を開いた。
「良い目です、ノノーツェリア様。――願わくば、これからもその瞳が曇り濁らぬように」
その言葉にどんな意味があるのか、それとも意味など何もないのか、それは知れない。だから分からないからこそ、ノノーツェリアは気に留める事はしなかった。
「では改めてお願いを」
「はい」
「ナナの……ナナーツォリアの事を診てもらえないでしょうか?」
「はい、ノノーツェリア様。そのご嘆願、しかと承りましょう、――」
その言葉に改めて、安堵の息を僅かに漏らしたノノーツェリアだったが、彼女の言葉はそれで終わりではなかった。
「ですが、」
一瞬で霧散した緊張が戻ってくる。
「ノノーツェリア様、たとえどのような結論になろうとも強く御心をお持ちになって下さいますよう」
「――……はい」
彼女の言った言葉がどういう意味であるのか、それは今のノノーツェリアには分からなかったが。それでも揺るがず、ノノーツェリアは強く首を縦に振った。
【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】
「ひゃっほーいっ、やったぜ、アル!!」
「……」
「今日はごちそうだ、さあ何が食べたい? お金はたっぷりあるから何でもいいからなー。なんならアクセサリーとか欲しいものがあっても買ってやるぞー?」
「……」
「――……賞金稼ぎからお金巻きあげるなんて、私、一体何やってるんだろ?」
「ああ、アル。あっちで男んでいるレアリアの事は一切気にしないで良いからな? 俺たちは俺達で楽しいもうっ!!」
「……(こくん)」
【お終い】
最近、スランプ気味だなぁ、と思います。何となく書く気が次第に失せていっている気がする。