Early X. キックス-25
もう少し会話主体とか、はっちゃけた内容に早く持っていきたい今日このごろです。
キックスのハーレム要員(!?)はまた続々と出てくる予定。でも予定は未定。
バタンと扉を閉めて、部屋の中にいるのはキックスと“ナナーツォリア“の二人だけになる。
“ナナーツォリア”へと正面から向き合って、キックスは最初に気になっていた事を確認することにした。
「それでナナ……と言うか、ノノ、だよね? 一応聞いておくけど?」
「そうですね、キックス。ですが何処にヒトの目があるのか分かりませんから、その話は内密に」
「あ、うん。分かった……けど、それならナナ――ノノは今どこにいるの?」
「ノノーツェリアならば当然、いつものように自室で臥せっていますよ――それこそ死人のように」
「……そうなんだ」
死人のように、と言った彼女に何か含むようなモノを感じたが、追求はしないと方が良いと判断する。
何となく、ノノーツェリア――本物のナナーツォリアの事については聞かない方が良いような気がした。
「それでキックス、今のあなたの立場を一言で表しますと、英雄、です」
「うん」
「あら? 以外と驚かないんですね、キックス」
「……」
「実はキックスって私が思っていたよりも気が座っているのかしら?」
「――はぃ? ごめん、ナナ。もう一度」
「理解していなかっただけですか。それなら安心、やっぱりキックスはキックスでした」
「何かバカにされてる気がするよ……」
「バカになどしていません」
「……それはそうと、ごめん、ナナ、さっきのもう一度言ってくれるかな?」
「何度聞いても同じだとは思いますよ?」
「良いから、お願い、ナナ」
「英雄、ですよ。キックス。あなたは今、この国の英雄らしいですよ?」
そう言って“ナナーツォリア”――ノノーツェリアは何処か嘲るような、暗い笑みを浮かべた。
それを見て、湧き上がる感情をキックスは抑えきれなかった。
「――どういうことだよ、それ」
湧き上がってきた苛立ちは抑えられず、言葉としてそのままキックスの口から出ていた。
苛立ちの理由をキックスは知らなかったし、知る必要もない、とも思っていた。
ただ実直に、単純にこう思ったのだ――気に入らない、と。彼女がそんな笑顔を浮かべている事が。その原因が。
キックスの変化に気づかず、仄暗い笑みのままノノーツェリアは更に話を続けた。
「先程の彼女……シィナの態度をおかしいとは思いませんでしたか?」
「それは、まぁ、何か“様”づけで呼ばれるし。変に畏まってる気はしたけど……いや、そもそもどうしてそんな事になってるわけ!?」
「国を滅ぼしかけた魔物の群れをたった一人で退けたから、と言う理由だけでは足りませんか?」
「そういう理由ならおかしくはないと思うけど……いや、それ僕じゃないし」
それに、どちらかと言えば魔物を退けたのはノノーツェリアだった気がするし、それでもキックスが覚えている限りではノノーツェリアが地面を割って魔物の進行を止めたところまでであり、“退ける”までは出来ていなかったきもするのだが。
キックスの言外の言葉を遮るように、ノノーツェリアは首を横に振る。
「もしそうだとしても、私では色々と都合が悪いんですよ。何処から現れたか分からない輩の方が多分に扱いやすい……どうせそんなバカな事を考えているんですよ、あのヒト達は」
「あのヒト達……?」
「――いえ、キックスは気にしないで下さい。何も心配いりませんから」
「そういうことを言われると余計に心配とか気になったりするんだけど……?」
「気にしないで下さい」
「いや、でも」
「気に、しないで、下さいっ」
「わ、分かったよ。気にしない、うん、気にしない……これで良いんだよね?」
「はい、キックスが物分かりのいい相手で助かります」
「は、ははは」
物分かりが良い悪いとかではなくて、コレを脅しと言う。
「だからキックス、正確にはツェルカさんと合わせて二人が、この国の英雄として扱われているんです。分かりましたか?」
「うん、分かった」
と、言う事にしておいた方がよさそうだった。
そもそも英雄なんてものは柄でもないし、そういうスキモノっぽいのはご主人様にでもやらせておけばいい……と思わなくもなかったが、そんな事を言ったところで目の前のノノーツェリアには無駄だろう事が何となく分かってしまったので、諦めた。
「だからと言って、言い寄ってくる女の子にデレデレしては駄目ですからね?」
「いや、別にデレデレしないし、と言うよりそんな子いないよ」
「キックス、今の私の話を聞いていましたか?」
「うん?」
「あなたは英雄なんです、そういうことになっているんです。ですからその名声を得ようと言い寄ってくる阿婆擦れ女共がいないとも限らない、と言っているんです」
「あ、あばずれて、ナナ……」
「そのような輩は相手にしては駄目ですからね?」
「あー……うん、分かったよ」
「……本当に?」
半眼の、まるで信用していない目で見られた。
前科があるわけでなし、どうしてこんなに信用がないのだろうと思わなくもないのだが――まあ、世の中にはご主人様みたいなのもいるわけだし、とキックスはそれで納得しておくことにした。
「うん、本当に分かったって。大体、僕がその程度のことでモテるはずもないし」
「……ま、それもそうですね」
「……」
自分で分かっている事と他人から言われる事とでは大きな隔たりがる、と言う事を身に持って実感したキックスだった。
「第一、キックスは私のモノなのですから、余りあちらこちらに尻尾をふりふりなんてしたらダメなんですからねっ」
「うん、分かってるって」
命令権とかはないようだが、それでもノノーツェリアから一定以上離れられないという制約がある以上、キックスが彼女に縛られているという事実に変わりはない。仮とは言え彼女がキックスの主人である事は紛れようもない事実であり。
――それはある意味、使いようによってはキックスを思いのままに出来ると言うことでもある。
「例えツェルカさんでもダメなんですからねっ!」
「どうしてそこでツェル姉が出てくるのさ?」
ツェルカならばキックスが英雄だろうと何だろうと態度が変わる事はありえない。何より“お姉ちゃん”ぶっていないツェルカを想像することがキックスにはできなかった。
逆に、例えば仮に……キックスが罷り間違って王様とかになったとしても、『キーくんはキーくんだよねっ♪』などと言っている姿は容易に想像がつく。
「ほらやっぱり! 全然分かってません!」
「……えーと、なに、それ?」
「兎に角! キックスは私にべったりと張り付いていればいいんです! そうですよ、初めからそうすればよかったんですっ」
ふふふっ、と笑い声を抑えようとして抑え切れていないノノーツェリアの姿に途方もない寒気が背筋に走った気がして。
けれどそれとは別に……ノノーツェリアが楽しそうに笑っている姿を見て、あぁ良かった、と心の底から安堵した。あんな、彼女の暗い笑顔など見たくもないから。
「キックス! 何が可笑しいのですかっ」
「え?」
「先程から私の事を見て笑って……何を企んでいるんです、吐きなさいっ、さあ告白しなさいっ」
「あ、や、別にそういう事じゃ……」
「ならどうして私を見て笑ってたんですかっ」
「えっと、ナナが楽しそうにしてたから、かな?」
「――」
黙って、視線を逸らされた。
なのでキックスは回り込んでノノーツェリアの顔を覗き見ることにした――のだがまた同じように視線を逸らされた。そのまま二度、三度と続けると流石に諦めたのか、まっすぐ見返してくれるようになったが。
「……ナナ?」
「そう、ですよね。キックスに何かを企むなんてそんな事、出来るようにも見えませんし出来るはずもないですよね」
「そ、そんな事は……」
「では何かを企んでいると?」
「いや企んでないよ」
「なら――いいんです」
何処か機嫌が悪いように――ノノーツェリアがむくれているように感じるのは気のせいだろうか、と思わないでもなかったが、その質問をするのは自分にとって良くない気がしたのでやはり質問を止めた。
「それじゃあ、ツェルカさんの所にいきますけど――キックス」
「うん、何、ナナ?」
「くれぐれも、自分が英雄として扱われているという事実を忘れないで下さいね?」
「うん、分かった」
「それじゃあ、行きましょうか」
とはいってもすぐ近くなんですけど、と可笑しそうに笑って、ノノーツェリアは扉に手を掛けて、開いた。
――その瞬間、楽しそうだったノノーツェリアの表情が一切抜け落ちる。
「ではついてきて下さいね、キックス」
外で待機していたらしいシィナに軽く視線をやって、ノノーツェリアが先頭で歩きだした。キックスが次に、最後にシィナが続いた。
【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】
「ほら、アル、手を離すとはぐれて危ないから、ちゃんとぎゅっと握ってるんだぞ?」
「……」
「っと、……あいつ、危ないなぁ、もう少しでアルとぶつかるところだったじゃないか。に、してもヒトが多い、よしっ、アルもっと密着しよう!!」
「……」
「――どさくさにまぎれて何ほざいてんのよ!? ほらアル、レムのそばは色々な意味で危ないから、こっちに来なさい。私がはぐれないように手を繋いでいてあげるから」
「レアリアァァァ、テメェはヒトの生きがいを奪い取って楽しいかッッ!!!」
「……(こく、こく)」
【お終い】
おうさま
はだかの、おうさま。