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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【キックス編】
666/1098

Early X. キックス-22

メイドさん


「――お、成功した?」

「そのようで」

「でもまだ駄目だなぁ、あれじゃ偶然だし。ちゃんと使いこなせるようになって初めて一人前だからな」

「使用方法も説明されていないのに使いこなせるようになれ、と言うのは些か難しいモノがあると思いますが?」

「そこはほら、あれ、努力と根性とほんの少しの才能で何とか補ってもらわないと」

「本音は?」

「だって、そっちの方が見てて楽しいだろ?」

「はい、旦那様。仰る通りかと」




◇◆◇




「うわっ!?」



更に激しく暴れ出した飛竜に、驚きの所為もあり振り落とされてしまう。その際、手に握りしめていた“武器”を手放さなかったのは幸いだった。


地面を転がり何とか受身を取ってから、顔を上げると目の前には既に怒りに満ちた飛竜の瞳と大きな爪が振りかぶられていて。



「キーくん、危な――」

「ひぃぃ!!??」



間一髪、反射的に上げた“武器”が飛竜の爪を受け止めた。

だが踏ん張りが利かずにそのまま弾き飛ばされてしまう。




GAAAAAAAAAAAAAA




飛竜の怒りと殺意に満ちた咆哮が空気を震わせる。

身が竦みそうになるが、ここで身体を竦ませるなんてありえない。それに理由は分からなかったがこちらの攻撃が通ったのだから、勝機があると言うのなら諦める事など出来なしない。


“武器”を構え直して、初めよりも少しだけ強気に言い放つ。



「よし、来いっ!!」

「キーくん恰好いいっ!」



後ろの、ツェルカからの声援に少しだけ頬が緩んだのは内緒だ。

非常にひいき目で見て、最初の醜態やノノーツェリアに庇われた事でのマイナス分と、今の+分とでぎりぎりチャラ、と言うのが良い所だったりするのだが。


飛竜の口から炎のブレスが吐き出される。



「お、っととっ」



慌てて横へと飛ぶ。

直撃は避けたのに肌がひりひりするのが恐ろしい。


――などと改めて飛竜の恐ろしさを実感するなど、そんな暇があるはずはなく。

すぐに次の攻撃、大きく開けられた口がすぐ目の前に迫っていた。


飛竜の動きは速いには速いし、キックスにとっては目で追うのもギリギリか、もしくは追えないほどの速さではあったがそれでもまだ“遅かった”。

少なくとも日頃キックスがしばき倒されていた護衛部の皆様方の動きよりは断然、遅い――……と言うより時々、彼女らは人間じゃないんじゃない? とか思えてしまうほど強いのだ。多分、目の前にいる飛竜とも素手で遣り合って勝ててしまう程に。



「っ」



寸での所、その場にしゃがみ牙を避ける。

と、同時に無防備に晒された飛竜の首へと“武器”を突き出す。




ガキッッ




「――へ?」



鋼鉄でも突いたのかと言わんばかりの手ごたえに、思わず身体がのけぞってしまう。両手も、全力で突きを出した所為か痺れていた。

身体が泳ぐ。




GYAAAAAAAAAAA




その隙を見逃す飛竜ではない。

振りまわされた尾はキックスの腹に命中。逃げなきゃ、防御しなきゃ、と思う間もなくキックスの身体は衝撃と共に軽々と吹き飛ばされていた。


突風に煽られた枯れ葉のように地面を転がって、リバウンド、転がって、またリバウンド。

地面の上を大きく滑走し、ようやく止まったころにはキックスの身体はもう既にボロボロだった。


打ち身、擦り傷などはどうでもいい。

直撃を受けた腹などは肉が吹き飛んでいないのが不思議なくらいに中身の方をボロクソにやられていたし、地面に衝突した際の衝撃で左側の手と足の骨をやっていた。



「――……、ぁ」



キックス自身、何が起きたのか理解が追いつかないまま、自然と呻き声とも取れない声が漏れる。

ただの一撃で、それは目に見て分かる程に致命傷だった。




「――き、キーくんっ!!!!」



ぼんやりと、血に霞んだ視界にツェルカが駆け寄ってくるのが見えた。だが同時に飛竜が止めを刺そうと大きく息を吸いこんでいる姿も視えてしまっていて、駆けつけてくるツェルカは確実にその範囲内にいた。

いや、範囲内などと言わず、ツェルカの身体は正確に、キックスと飛竜を結ぶ直線状にあった。


――偶然、ではない。

視えるのだ、ツェルカの身体にある残り僅かな魔力、それが収束して彼女の体内に集まっていくのが。そしてなんとなくだが、何をしようとしているのかが分かってしまった。


楯になろうとしている。


飛竜に攻撃を止めさせるだけならば、飛竜に攻撃を加える、気を逸らす、などが考えられたが、それはどれも完璧ではない。

攻撃を与えたって気を逸らしたって間に合わないかもしれないし、そもそも気を逸らされたからと言って飛竜がキックスへの攻撃を止めると言う確実な保証はどこにもない。

キックスへ攻撃が当らないように――一番確実なのは、“相手を一撃で仕留める”かもしくは“相手の攻撃を受け止める”だった。前者は今のツェルカには無理、ならば残る後者は――



「っ、ツェル、姉、」



――大丈夫

はっきりとは言えないが、ツェルカの口がそう動いたようにキックスには見えた。




GOOOOOOOOOO




飛竜が吐き出したブレスは、何の障害もなくツェルカの背中に直撃する。キックスには、熱風でさえ届いてこない。



「ツェ――」

「っぅ……!!」



ツェルカが表情を顰めて膝を折る。

服は全てが焼け落ち、肌からは嫌な煙が立ち上っていた。キックスから見て、前から見ただけでも酷いと分かる有様なのだから、直撃を喰らった背中はどれほど酷い状態になっているか、想像したくもなかった。



「だめ、だ……」



ツェルカが顔を上げて、微笑みを作る。

痛いはずなのに、苦しいはずなのにそれでもキックスの方を見て笑っていた。



「大丈夫……だって私は――キーくんのお姉ちゃん、……だから♪」



――その背後に、爪を振り下ろす飛竜がいた。





◇-◇



守らなきゃ

――そう思ったが“誰”を守らなければいけなかったのかが分からなかった。



守らなきゃ

――そう思ったが“何故”守らなければいけないのかが分からなかった。



守らなきゃ

――それでも守りたいと、そう願う自分がいた。“自分”が誰を指すのか、それすらも分からなかったが。



◇-◇





キックスはただぼんやりと、目の前にあった漆黒の鱗と殺意に染まった漆黒の瞳を眺めた。それからゆっくりと視線を下して、飛竜の腕を貫いている“剣”を握っている自分の右手を見た。

最後に自分の横、倒れていたツェルカの、微かにだが上下する肩をぼぅと眺めて――



「――お疲れさまでした、キックス様」



――綺麗な、この世のものとは思えない声を聞いて、気を失った。











◇◆◇











その女性は地面に倒れこんだキックスとツェルカの姿を見て、少しだけ口を動かした。キリプス――と。ただそれだけで、瀕死のはずの重傷を負っていた二人が完治する。

キックスが握りしめていた“剣”は既に元の状態に戻っている。


これがどういう事なのかと、あと“武器”が勝手にキックスの身体を動かしたように見えたのはどういうことか。

――重症のはずのキックスが身を起こし、限界以上の速度でツェルカの元へと駆けつけて、振り下ろされていた飛竜の爪を手に持った“ソレ”で地面に縫い付けた……理由の詳細は後で旦那様へと問いただすことにしましょうかと考えながら。……大体の推測はついてはいたが。



「……さて」



二人への処理を終えた彼女は改めて顔を上げ、身動ぎすらせずに固まったままの漆黒の飛竜――【小厄災】を見た。

特に彼女は何をしたと言う訳でもない。ただ単純に、ただ純粋に、【小厄災】が動かなかっただけで。



「無暗に生物を殺すのは旦那様が悲しまれるので余り殺生を行いたくはないのですが――如何なさいます?」



……GA



【小厄災】、漆黒の飛竜は。

先程小人の雄に傷つけられた事、そして何よりこんなところまで来た本来の目的――この先にいる憎き“彼女”の事も全て忘れて、ただ無抵抗のまま、逃げる事を選択した。



「賢明な判断、感謝いたします。……あぁ、それと残りのあなたが引き連れてきた彼らも連れて帰って下さいますよう、宜しくお願いいたします」


【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】



「久しぶりの宿屋だし、久しぶりのベッドだし、今日はゆっくりと休めそうだな、アル」


「……」


「ん、どうした? 何か食べたいのか? それとも疲れたからもう寝たいのか? 身体を清めたいとか??」


「……」



「――良いから部屋から出てけ! じゃないと私もアルもゆっくり休めないのよっ!!」



「……うぅ、一人部屋って、寂しいよなぁ。だってほら、お金の節約のためとかにも、借りる部屋は一部屋だけで良いじゃねえかよぅ、レアリアのイケズめっ」


「……(ふるふる)」


【お終い】




一区切り?

どうでしょう??


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