Early X. キックス-21
かなり……スランプっぽいです。何か展開が思いつかない
で、無理なものは無理なわけで。
当然実力以上の実力を出せるわけでもない。
「……む、ムリ」
地面に這いつくばって息をついていた。
「キーくん、情けない」
「いやっ、でもね、ツェル姉。物事にはやっぱり無理な事があるよね?」
「うん、それはそうだね」
「ヒトの身で飛竜を相手とか、無理だと思うだ、僕は」
「それはどうかな? ご主人様が相手にしてるの、見た事あるよ?」
「……それって逃げ回ってるだけじゃないの?」
「そうだけど、アレは私も無理なくらい鮮やかな身のこなしだったよ、うん」
「ツェル姉でも?」
「うん、私でも」
「……まあ、御主人様らしいと言えばらしいよね、それって」
「だよね。でもキーくん、今はそのご主人様よりも駄目駄目だよ」
「そ、そんな、御主人様より……」
「うん、御主人様より」
がく、と落ち込むキックス。
その頭をよしよしと撫でるツェルカ。ちなみに二人とも地面に這いつくばっていて、その頭上には飛竜が吐きだした炎が舐めている。
「ま、取り敢えずは何か打開策を考えないと、だね」
「うん。……ねえ、ツェル姉、ちなみに魔力の方は――」
「全然駄目。なんだかいつもよりも回復が遅いんだよねぇ、どうしてだろ?」
「僕に聞かれても……」
「う~ん、まあそうなんだけど、もしかしたらキーくんが持ってるそのマジックアイテムの所為かな、とか思って」
「マジック……コレの事?」
腰に下げていた羽飾り“らしきもの”を目の前に持ってきてみる。ソレは少し前、周囲の魔力を根こそぎ奪い去った時のように光を放ってはいない。
「そう、それ……なんだけど、違うみたいだね。光ってないし」
「うん、そうだね」
「ん~、でもホント、なんでだろ?」
「そんなの僕に分からないよ。ルイルエお姉様なら、分かると思うけど」
「あと多分、ご主人様もだね。あれで意外と物知りだし」
「……そうなんだ」
「そうなんだよねぇ」
「へぇ~」
「ま、どっちにしても今の状況じゃ二人のどっちかに話を聞くなんて無理なんだろうけどね」
◇◆◇
――の、遥か上空。
「――だってよ?」
「どういたしましょうか」
「質問に答えてやれば? アレがどんな効果があるか、とか使い方とか。手助けは見てる方が面白いから不許可だけど」
「旦那様も意地が悪いですね」
「だろう?」
「では私も少々旦那様の真似をして、意地悪をしてみます」
「意地悪?」
「あの魔具の説明は、しない方がおもしろそうなので」
「――可哀想になぁ、ははっ」
「ふふふっ」
「いや、だから無表情で怖ぇって」
「心外です」
◇◆◇
「兎に角っ、何とかしなくちゃだけど、キーくん、頑張ってよっ!」
「だから頑張りにも限界があると思うんだよ、ツェル姉!」
「そんなこと言って、死んでいったノノーツェリアの頑張りを無駄にするつもり?」
「ぁ、いやそれを言われると……」
未だ目を覚ましていないノノーツェリアの事を言われると強く言いだせな――
「と言うか、勝手に殺しちゃ駄目だよツェル姉」
「大丈夫大丈夫っ」
「全然駄目だと思うよ、ツェル姉」
「でもホラ、私たちだってもうすぐ死んじゃうかもしれないし」
「お願いだから縁起でもない事言わないで、ツェル姉!?」
「うん、そうだね。だからキーくん――信じてるからねっ♪」
「ぅ」
信じていると笑顔で言われて、しかもその瞳に一片の曇りもない瞳で見つめられると否とは言えなかった。
いや、実際問題無理だけど。
空飛んでるし、武器は通らないし、そもそも力負けしてるし速度負けしてるし総合力負けてるし、おまけに形相が怖いし。
兎に角、自分が何とかしなければいけない事は確からしい。
「……はぁぁぁ」
上を見上げてみる。炎が届かない事に痺れを切らしたのか、漆黒の飛竜がこちらに向けて突進してきていた。
「うおっひゃ!?」
爪が服を掠めていった。
一張羅が思い切り裂けてはだけていった。それを悔やむ間もなく、凶悪な牙と口を開いて迫っていた。
「っっ」
慌てて手にした“武器”を振り上げる。
飛竜の顎に掠ったそれはギリギリではあったが何とか、牙の軌道を変えてキックスの真横を通過していった。
心臓がバクバク言っているがそれどころではない。
すぐに打開策を考えなければもう死――
「しぃぃぃぃぃ!!!???」
隣にあった飛竜の頭を蹴って、反射的に背中に飛び乗る。何故そんな行動をとったかと問われば、混乱していたからとしか言いようがない。
邪魔なモノが自分の背中に乗ったと分かると飛竜は当然、振り落とそうと暴れ出す。
キックスとしてもそれに振り落とされるわけにはいかない、と言うよりもこのまま振り落とされでもしたら自分の結末が簡単に想像できてしまうのだからそれはもう必死にもなる。
「やめ、やめえっ、しっ、死ぬから止めてお願いだから大人しくぅぅぅ!!!」
己の背中に乗っている敵にそう言われて大人しくするバカはいない。抵抗はますます激しくなるばかりだった。
もう手が痺れてきて保たない――と思った瞬間。
「やめっ」
反射的に、手にずっと握っていた“武器”をくびきのように飛竜の背中へと突き立てようと――
あ、そう言えば意味がないんだった――と思い出しても手が止まるわけではなく。
そうなると今片手で飛竜に捕まっている不安定な体勢じゃ長く続かない事は明白で、飛竜の鱗に弾かれた後に確実に振り落とされるだろう自分がどうなってしまうのかはもう答えが出てしまっているわけで。
――
ずぶっ、――と。
ギャアアアアアアアアアアアアア
まるで空気でも突き刺すように何の抵抗もなく、キックスが握りしめていた“武器”は飛竜の背中へと突き刺さった。
「……え?」
何が驚くって、突き刺したキックス自身が一番驚いていた。何せ先程までは確実に通らなかった攻撃が、今の今になって驚くほど簡単に通ってしまったのだから。
と、言う訳だったから、驚いたキックスが飛竜に抱きつく力を緩めて、ついでに痛みに全力で暴れ出した飛竜によって当然のごとく振り落とされていた。
驚きの所為もあり無様に地面を転がるだけだが、飛竜の次の一手はなかった。
「よしっ、キーくん流石っ!」
ツェルカの、ご機嫌そうな声だけが、やけに耳に残った。
【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】
「アル、大丈夫か!?」
「……」
「疲れてないか? 足は? 身体は大丈夫? 何なら俺がおぶろうか??」
「……」
「辛くなった言ってくれよ? アルの事は俺が抱きあげてあげるからっ」
「……」
「――っていうか、わけのわかんない集団に追われてるの、どうせあんたのせいでしょうがレムのバカ!!」
「バカ言う方がバカなんだ!! ……あと、否定はできないけど一応否定しておきたい。俺の所為じゃないやいっ」
「……(ふるふる)」
【お終い】
………………む?