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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【キックス編】
664/1098

Step 02 -表の表、裏の話-

a,a,ah~

ワーウルフの丘と呼ばれるこの近辺一帯を見渡す事が出来る小高い丘。今は魔物の群れが丘を覆い尽くすと言う、この先の街にとっては世界の終わりとでもいうべき光景が広がっている。

――その更に“上”にその男と女はいた。


一方は何処にでもいそうな男だった。美形と言う訳でなければ醜男と言う訳でもない。特徴を上げるとすれば非常にへたれっぽい雰囲気以外は至って普通である事が特徴か。ただしこの場合は場所が場所だった、“普通”である事自体が“異常”となる。

もう一方は、そういう意味ではこの“異常”な場にはこの上なく似合っていた。すれ違えば間違いなく、男女を問わず振り返り見ほれるほどの容姿に、流れるようなくすんだ銀髪の髪、スタイルどころか身にまとう雰囲気までもが神様が差別化したとしか思えないほどにヒトを惹きつける何かを放っていた。

……ただ、服装は何故かメイド服だった。




「ん~、絶景かな、絶景かな」

「余り身を乗り出しますと落としますよ?」

「……うへぇ、落ちるんじゃなくてお前が落とすのかよ」

「当然です」



ついでに、彼女の両手は既に男の背中にロックオンだった。



「じゃあ、身を乗り出すのは止めておく」

「是非身を乗り出してくださいませ」

「……」



男は半眼で睨みつけるが、睨まれている方の女はどこ吹く風。澄ました無表情のまま、僅かに首を傾げた。

何でもないはずのその仕草がバカみたいに様になっているから、美人は心底得だと思う。――中には例外もいるが。具体的には目の前の、このメイド服。



「余り見つめられると照れてしまいます」



少なくとも目の前にいる女は彼にとってはその例外だった。

慣れていても時々その仕草にドキッとする、なんてことは本当に稀にしかない。



「見詰めてねぇよ。睨んでるんだ、バカ」

「存じております」

「ああ、だろうよ。お前はそういう奴だよ、ほんと」

「勿体ないお言葉」



仰々しく女が頭を下げる。



「だから誰が褒めたかっ!」

「照れずとも宜しいのですよ?」

「誰が照れたか、誰がっ!!」

「本当に心が狭いですね」

「お前に言われたくはない」

「何を仰られますか。私ほど心の広いモノはこの世界広しと言えどもおりません」

「……ふぅ、俺にはなんだか世界ってとっても狭いもののように感じるよ。お前程度の心の広さの持ち主なんざ、ごろごろ転がってるわ!」

「それはないかと。それに私が旦那様以外には心が果てしなく広いのは本当の事に御座います」

「一番! 性質悪いから、それ!! 他のを狭くして俺に対する心をもっと広げようぜ、なあ!?」

「余り御無体な事を仰られても対応に困ってしまいます」

「無体? つか、どの辺りが?」

「旦那様の存在自体が」

「そっか、俺の存在自体かぁ、それなら仕方ねえよなぁ、あははは」

「うふふふふ」

「――って、んなわけあるか、俺の存在自体が無体ってふざけんなっ!! ……あと、無表情無感情のまま笑い声出すのとか、止めようぜ? 滅茶苦茶不気味だから」

「私は一切ふざけてなどおりません」

「……真顔で言いきる、ある意味こっちの方が性質が悪いか?」

「それはそうと旦那様?」

「なんだよ」

「助けには行かれないので?」



それは、彼女の言葉は眼下に広がる光景に向けて発せられていた。

一帯を埋め尽くさんばかりの漆黒の魔物の群れと、その端にちょこんといる三人の影。衝突――と言うよりもこの光景から言えば魔物の進軍に巻き込まれ、踏み潰されるのは時間の問題だった。



「は、何で?」



男は心底不思議そうに、眼下を見下ろして言う。



「あいつらがそれを選んだっていうのなら俺はその意見を尊重するぞ?」

「尊重するもなにも目に見えて劣勢ですが?」

「大丈夫だろ」



そこで、魔物の先頭と三人の影のうち一人とがぶつかった。

この場所からでは点のようにしか見えないが――三人のうちの一人の少年と、カニのような魔物がくんずほぐれつ状態っぽい。



「苦戦しておりますね」

「そうみたいだな」



と、言うより少年が手に持った何かを突き出したが、呆気なく魔物の甲羅に阻まれていた。苦戦と言うよりも無謀と言った方が近いかもしれない。

しかも魔物の後ろからはさらに大量の魔物が今も彼らの元へと押し寄せてきている最中である。



「あれは確か旦那様が私撃退用に渡したモノでしたか?」

「そうだ」

「あの程度の装甲にも穴一つ空けられないなまくらがですか?」



言外にそんなモノが私の撃退用ですか、と女は問う。男は彼女が無表情の中僅かに見せた拗ねるような感情に少しだけ苦笑して、答えた。



「そりゃ、元の素材は単なる木の枝だしなぁ。そんなことを期待されても困る、つーか、折れたり砕けたりしてないだけ凄いと褒めろ」

「すごいですねー……と、旦那様」



などと話している間に眼下では追いついた後続の魔物が、更に少年へと向かって襲いかかっていた。



「新手の登場ですね」

「ふっ、なんつー無様な戦い方だか」

「そうですね。旦那様なら既に逃げの一手のはずです」

「当然だ」

「――で、真面目な話、本当に助けには行かれないので?」

「お前も心配性だなぁ」

「いえ、そういう訳では……」

「少なくとも今は未だ助けにはいかない、行く必要性がない」

「……では、いつでも向かえる様、準備はしておきます」



僅かに腰を落とし、いつでも向かえるようにと女が眼下を見据える。

男はそんな彼女の様子に、やはり苦笑を浮かべていた。



「んな張りきらなくても良いが……ま、そうしておけ」

「はい、旦那様」

「でもなぁ、本当ならキックスにくれてやったアレをあいつが使いこなすのが一番手っ取り早いんだけどな。そうすりゃこの程度の数、どうってこともないのにさ」

「どうとでもない、ですか。旦那様は何をお渡しになられたので?」

「そういうお前の方は?」

「私は昔、片手間で創ったもので、名を“芙蓉”。効果は周囲の魔力を取り込み、使用者に循環するマジックアイテムですね」

「ツェルカは魔法無効化とか言ってたな、そう言えば」

「その効果はおまけですね。意図しなければ周囲の魔力を無差別に取り込むので常人程度の魔力では即枯渇を起こして魔法が使えなくなるだけです」

「常人て……お前の基準で常人とか言ってたら、アレを前に魔法使える奴とかいなくならないか?」

「そうかもしれません」

「……なんつーもんを渡してるんだよ、お前は」



男が心底、呆れた様子を見せる。

アイテムをランク付けするとして――ギルドが取り扱うランクで言えば間違いなく最上級、Sランクに相当する品である、それは。



「いえ、その程度はなければ旦那様に抵抗はできませんから。あれでもまだ足りないくらいですが……旦那様が欲情に駆られて襲いかかった際の時間稼ぎ程度にはなるでしょう。その間に私が駆けつければよいだけですので」

「つか、誰が欲情に駆られて襲うか。俺は野郎相手とかそんな趣味はないと言っている」

「そうなのですか?」

「そうなんだよ。ここは有無を言わず納得しとけ」

「了解いたしました、旦那様」

「ああ」

「それで旦那様が渡されたモノはどのような代物で?」

「ん? ああ、俺も詳しくは分からねえんだけどな、何か“聖遺物”の欠片っぽいモノを拾ったからそれをちょっと改良してみた」



ちなみにその“聖遺物”、本体を≪ユグドラシル≫と言って暴食の権化なのだが――この時は二人もまだ知らない事である。



「旦那様自らが、ですか? ……それは珍しい事で」

「まあ、興が乗ったつーか、確かにな」

「それで結局はどのような代物なので? 旦那様に限って把握しておられない、とは思いません」

「ズバリ、愛と友情、努力と根性の結晶」

「それは、――旦那様」



女の雰囲気が、気の所為かもしれないほど微かに変わる。男の方も打って変わり、僅かに冷めた目で眼下を眺めていた。



「……――ビンゴ、だな」

「ええ、そのようで」



眼下では真っ二つに割れた丘があった。街へと続く一方では三人の影があり、対岸では魔物たちの群れが怨讐の声を響かせている。



「元凶は彼女でしたか。……旦那様、如何なさいますか?」

「俺は女子供には優しいからな。取り敢えずは傍観で」

「……宜しいので?」

「問題ない。いざとなったらキックスとツェルカが奮闘してくれるさ。それにツェルカの方には断片とは言え情報を渡してるんだ。ま、何とかなるだろ」

「はい、そうで御座いますね、旦那様」

「おう、……お、飛竜だ」

「おや、【小厄災】など珍しい。やはり他の魔物と同様にアレに引き寄せられてきたのでしょうか」

「だろうなぁ」

「ランクは……今の基準では確かA+でしたか。キックス様には少々手の余る相手と存じますが?」

「成せばなる。俺とお前がやった魔具があるし」

「――そう言えば先程は話の途中になってしまいましたが、結局のところ旦那様がお渡しになられたアレは、どのようなものなので?」

「だから、言ってるだろ? ――愛と友情、努力と根性の結晶だって」



男は爽やかに――そう何か企んでいそうな顔で笑った。


【アルとレムの二言講座?】



「……アル」


「れ、れむ? どうしたの、そんな真剣そうに……何かあったの!?」


「――アルーシア」


「う、うん。なにかな?」


「……もっと構ってくれよぉ~」


「――」


「――」


「えいっ!」


「痛っ、な、何をするか、酷いじゃないか、アル」


「レムこそ、どうしてそんな子供っぽい事するの!? わたし、本当に何か大変な事があったんじゃないかって心配したんだからっ!」


「それは……悪い、アル」


「反省してくれればそれでい―よ。それで…………レムは今って、ヒマ?」


「おうっ、当然のごとく暇だ!」


「ん~、それじゃあ私にちょっと付き合って……お散歩でも、行こうか?」


「よしっ、それじゃあ早速――」


「あ、待って。シロちゃんクロちゃんもつれてくるから」


「……えー、あいつらもぉ」


「もぅ、そんなこと言わないのっ」


「へーい、んじゃ、待ってるから早くなー?」


「はーいっ」



【お終い】



取り敢えず何の反響もなかったので続けてみることに。


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