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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【キックス編】
663/1098

Early X. キックス-20

やっひゃい!!

「――こほっ……げほっ、げほっっ!!」



目の前で、突然ノノーツェリアが血を吐いた。

鮮血を大地に垂らして、何度も苦しそうに咳き込み、その度に口から鮮血が溢れだす。



「……ぇ?」



何が起きているのか、良く分からなかった。

ノノーツェリアが苦しそうに、地面に血を吐きながら蹲っていて。


その隙を狙ってか、更なる魔物が殺到する。今度は真っ黒なカエルのような魔物が十匹ほどで――ただし大きさはヒトの倍は優にあり、正に視界一面を生々しい漆黒と不気味な黒い瞳が埋め尽くしていた。

反射的にキックスはノノーツェリアを庇うように彼女の前へと立ちはだかっていたが、高々人一人が盾になったところで目の前の魔物たちをどうにかできるとは到底思えない。

――だとしても、反射的に動いてしまったものはどうしようもなかった。



「っ、ノノ――」



だがそれでも。



「尊大にして寛容なる慈悲の元、尽くを奪いつくせ――アース・ブレイク」



魔物が飛びかかってくる直前、彼女の言葉が響き渡る。そしてそれに応えるようにして――大地が喚起の音を上げた。


大地が、文字通り口を開いた。

キックスとノノーツェリアのすぐ手前、こちらと魔物たちを隔てるように、大地が割れていく。


先頭を突進していた、数重にも及ぶ魔物たちは止まれずに大地の中へと落ちていき、直前で止まれた魔物たちも後続の魔物たちに押し出されてやはり崖の中へと落ちていくか、それとも踏み潰されて圧死する。

その更に後ろにいた魔物たちは割れた大地の中に落ちこそしなかったものの、突如出来た崖に困り果て――少なくともこちら側にわたってこようとするものはいなかった。もしくは出来ない、か。


ただ、数百にも及ぶ断末魔――もしくは苦しみの叫び声が空気を震わせる。




『Ohoooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!』




◇◆◇




キックスは目の前に広がるその光景を見て、凄――としか思う事が出来なかった。と言うよりもそれ以外の表現が思いつかないほどに、それは圧倒的な殺戮の力だった。


だから、魔物たちの叫び声にかき消されてすぐ傍で聞こえたその音を聞き逃しそうになった。

ぱたっ、と誰かが背後で倒れる音――いや、“誰か”など決まっている。



「――?」



それでも分からない振りをして、振り返ると目に映ったのは血溜まりの中に倒れこんでいるノノーツェリアの姿。

魔物たちの地獄のような光景に目を奪われていたのがどのくらいの長さだと言うのか。少なくとも、血溜まりが地面に出来るほどの長さではない。

いやそんな事よりも――血溜まりが出来るほどの血を吐き出すなど、尋常の事ではない。



「ノノ!?」



慌ててキックスが抱き起こす――より先に、ツェルカが彼女の身体を抱き起こしていた。



「――うん、大丈夫」

「ツェル姉、ノノは!? ノノは大丈夫!?」

「キーくん、少し落ち着いて」

「でも――!」

「良いから。落ち着きなさい。彼女は取り敢えず大丈夫だから」



顔も上げず、ただじっとノノーツェリアを見詰めながら出した、いつもよりも少しだけ低い声。そこには有無を言わせぬ迫力と、不思議と安心できる響きがあった。

自分が今とりみだしていた事を自覚して、大きく一つ深呼吸をする。



「……落ち着いた?」

「――んっ、ごめん、それとありがと、ツェル姉」

「うん、流石キーくん、それでこそお姉ちゃんとしても鼻が高いよ」



ようやくノノーツェリアから視線を外して、見上げてくるツェルカの笑顔に何だかほっとする。



「……それでツェル姉、ノノは大丈夫、なの?」

「うん、最初に言ったけど、取り敢えずは大丈夫。でもかなり無茶したよね、この子も」

「どういう事?」

「だってほら、私たちの魔力はまだ回復してなかったし、魔力がないって事はその代わりに使うのが何になるか、分かるよね、キーくん?」



魔力の代わりに使うモノと言えば、例えば魔石のように魔力を秘めた媒体とか特殊な“刻印”が刻まれた魔具とか、そうでなければ――命そのもの、とか。



「……生命力?」

「うん、正解。良く出来ましたっ」

「って、え、それじゃあノノは――」

「だから最初にも言ったけど、大丈夫だから慌てないで」

「……ほんと?」

「うん、お姉ちゃん、キーくんに嘘つかない。呼吸と脈は正常、取り敢えず安定してるみたいだから大丈夫なはずだよ」

「でも――血をこんなにっ」



吐き出して無事な訳がない、――そう言おうとして、だがノノーツェリアの様子を見てはそれ以上の言葉が続かなかった。


これなら確かに、ツェルカが大丈夫と言った事にも納得が出来る。


つい先程まで病人のように青白かったはずのノノーツェリアの顔色が、今はもう赤みが差すほどまでに良くなっていた。今も“目に見えて”彼女の顔色や体調、呼吸が落ち着いていくのが分かる。

一目で大丈夫だと分かった。だが、これは――


判断を仰ぐようにツェルカの顔を見ると、やはり険しい顔をしていた。睨んでいる、と言っても良い。



「……ねえ、キーくん。彼女、一体“なに”?」



キックスの方を見るでもなく。ツェルカは“何者”ではなく、“なに”と聞く。モノとして扱わず、未知の存在として扱うように。

それに、何故かキックスは吐き気のような錯覚を覚えて、



「僕も、良く知らないけど……」



本当に。

初めて会ってから一日も経っていないのだ。その割には随分と振り回せれた気もするし、お互いの気心も知れていた気がする。色々と大変で、今まで自分の命がこれだけ危険に晒された事も余りなかった気がする。



「でもノノはノノだよね?」



それだけは――例え彼女が何だろうと変わる事はないと願う様。

ツェルカはそんなキックスの声色に感じ入るものがあったのか顔を上げて数秒、苦笑を隠すように溜息を一つ吐いた。



「……ね、ツェル姉?」

「それもそうだね。それに――これなら確かに彼女がノノーツェリア・アルカッタ本人だって言われても納得ができるよ」



何せ魔力がほぼ枯渇した状態であれだけの大魔法を使って、しかもその代償に使ったのが自分の生命力。にも関わらずこうして“生き生き”している……意識は失っているが。

たかが病弱、たかが死に掛け。今の状況の方がよほど拙いくらいには彼女の行為は危険極まりないもの――だったはずなのだ。

だから、ノノーツェリアが今も頬に赤みを差して生き生きしているのであれば、これが“病弱”なノノーツェリア・アルカッタ第二王女様と言われても納得できてしまう。


――ちなみに、ツェルカには先程ノノーツェリアがやったような芸当は不可能である。命をかければ出来る出来ないの問題ではなく、根本的に無理。刻まれた“隷属の刻印”が――何より彼女の主がそれを許しはしない。

そうでなければキックスが危なくなった瞬間に、誰彼構わず後先も考えず魔法を放っている。



「……ノノ」

「さっ、最初の予定とはちょっと違っちゃったけど、これで目的は達成だね」

「うん、そうだね」



作られた崖の向こう側を見てみると、まだ百は下らないほどの魔物の群れ。だがこちら側に渡ってくる事は、そんな飛翔能力を持った魔物はいないようで、対岸で唸り声を上げているだけだった。



「でもキーくん、情けなくて私はちょっと悲しいぞ」

「え、何が」

「キーくんが初陣なのは知ってたけど、ちょっと緊張し過ぎ」

「ぅ」

「それにちゃんと頭を働かせなきゃ。どんなモノにだって弱点は――」

「?」

「……まあ多分あるんだし」



何となく、言い淀んだ先にくすんだ銀髪のメイドさんの姿が思い浮かんだ。

彼女の弱点って、何だろう? ……少なくともキックスには思い浮かびそうになかった。



「逃げ出すの早過ぎ。勇気が足りない」

「うぅ」

「無謀よりは勇気が足りない方が良いんだけどね? でもこうして女の子に守られて」

「ぅく」

「しかもその子の看病は今お姉ちゃんがやってます」

「じゃ、じゃあ僕が――」

「駄目。女の子の身体はデリケートなんだからキーくんには扱わせませんっ」



自分で言っておいてキックスが伸ばした手をひょいと避ける。

そして『よいしょっ』とノノーツェリアを背中に担いで立ち上がる。



「じゃ、キーくん。一度ここから離れようか。いつまでもいたい場所じゃないし、それにノノーツェリアの身体も綺麗にしてあげなきゃ」

「……それもそうだね」



一度、自分が吐いた血溜まりに倒れこんでいるのでノノーツェリアの全身は真っ赤だった。傷は一つも負っていないはずだが、これは確かに早く血を洗い落してきれいにしてあげた方が良い。

何より見ている側の心情的にも余りよろしくはない。



「それじゃ僕が綺麗に……とか言い出したら私はキーくんを軽蔑します」

「言わないよ!? と言うよりツェル姉、僕の事どんな目で見てるのさっ!?」

「えー、でもキーくんだって年頃の男の子だし、そういうことに興味が出てきても仕方ないと思うし、……そういうのには理解がある方だよ、私?」

「そっ、そういうのは今は関係ないでしょっ」

「うん、ご主人様みたいな開放的すぎるのは駄目なんだからね、キーくん」

「いや、流石にご主人様みたいなのは……僕には無理、っていうか嫌だ」

「だよねっ! でも、キーくんが見たり触りたくしたくなっちゃったらすぐに私に言ってね? お姉ちゃん、頑張るからっ♪」

「……言わないよぉ」



と言うか、言えない。言ったら本当に見たり触ったりとさせてくれそうだし、その後の事とか先の事とか、色々と未知で怖すぎる。


だから半分くらいは照れ隠しに上を向いたのは――偶然だった。



「――ツェル姉!!」

「ッ」



キックスの一声で理解したのか、ノノーツェリアを背負っているとは思えない俊敏さでその場から飛び退くツェルカ。慌ててキックス自身も後ろへと大きく跳ぶ。

明らかにキックスよりも早い反応速度だったのは御愛嬌だ……と言うよりも元より近接戦闘でもキックスよりも彼女の方が抜きん出て強い。


一瞬まで三人がいた場所を炎が舐めた。


空を見上げると見えるのは身体を漆黒に染めた、空を駆る生物。と、言う事は先程の炎はブレスか何かか。



「ワイバーン――の、魔物!? ちっ、厄介な……!」



本来――魔物とはそれ自体を差すのではなく、【厄災】に堕ちた生物の事を総称して『魔物』と呼ぶ。時折、生粋の生物でもヒトに害をなすものを魔物とするケースはあるにはあるのだが。


兎に角、そこにいたのは龍種の亜種とも言われる生物の、魔物。ギルドのランクで言えばSランクに届かないまでもAの上位、といったレベル。間違いなく大玉であった。

対してこちらは――気絶一人にそれを背負っているので戦力外が一人。残るは初陣の男手が一人と、やや心許ない。けれど漆黒と世界への殺意に染まったその瞳はこちらを逃がしてくれそうにはなかった。



「……キーくん」

「……なに、ツェル姉」

「私は、煽てるとか色眼鏡とかそういうの一切抜きにして――キーくんはやればできる子だって本当に信じてるから」

「――」



ここで、弱音を吐く事は出来なかった。

身体は鱗におおわれていて先程キックスが戦ったカニやオオカミ型の魔物よりも硬そうだったし、何より相手は空を飛んでいる。

武器はしょぼいし攻撃は通らない、なのに相手は攻撃し放題。勝て、と言うのは土台無理な話だった。




でも、引くわけにはいかないし――何より引かせてくれそうもない。


どうせ先程、一度死にかけた命だ、と思うと少しは気が楽になった。

キックスはもう一度、手にした木の枝にしか見えない貧弱な“武器”を構えて、空を見上げた。


その身体に震えは、……吹っ切れたとか自棄になったとかそういう訳ではなく、ない。むしろ、心が震え立っていた。


「……来い。お前の相手は――僕だ」


【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】



「あ、鳥」


「……」


「ごめんなー、アル。でもアレは食べモノじゃないから、我慢してくれ」


「……」


「よしよし、本当にアルは偉いなー」


「……」



「――何勝手なこと言ってるのよ、このアホ。誰も食べたいとか言ってないわよ。あとキモイわ」



「黙れよ、レアリア」


「……(ふるふる)」


【お終い】



流石にそろそろ長くなってきて、でも終わりが全く見えないのでこのキックス編、一時中断しようかと考えている今このごろ。何か本来のこの話の趣旨と違ってきてる気がするし……。

このまま進めた方が良いのと、一時中断と、どっちの方が良いんでしょうねぇ?


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