ど-44. エルフとは、森の中で、…もう一言
純情可憐とか、ないのですよ?
「…あのさ、」
「はい、なんでございましょうか、旦那様」
「ちょーと珍しいものを見つけてそこに行った、つかエルフの隠れ里を見つけたから行ってみたのだが、何故か変な目で見られたんだよなぁ…?」
「そうですか。では私はこれで」
「いや、待て待て。そこで終わっちゃダメだろ、色々と!!」
「えー」
「ゃ、不満を平坦な声で言われても逆にどうすればいいのか迷うところなのだが?」
「仕方ありません。では、変な目と言うのはどのような?」
「…初めからそう聞けよな〜。で、だ。俺がレムって名乗り上げたとたんに若い奴からは怯えた目で、そこそこ年取った奴らからも怖がるような目で見られたんだよ。しかも誰一人俺と目線合わせようともしないし、子供家の中に隠すし」
「それは単に旦那様がお嫌われていらっしゃられただけではございませんか?そもそもエルフというのは旦那様のような人族を避ける傾向にございますし」
「まあ、確かに今の話だけだとそう取れるんだが、………何故か年寄り連中からは生暖かい目で見守られてたんだよ。こう、微笑ましい、つーか、妙に居心地の悪くなるような、さ。それに今考えてみると他の奴らの対応も別に敵意とか含んじゃいなかったしな。むしろ全体で言えばこう言えば好意的だったんじゃないか?」
「それならば単に旦那様が危ないイタいお方と思われていただけではございませんか」
「いや、それを断言されても非常に困るのだが。て言うより俺としては初対面の奴にそんな目線で見られるほどに知れ渡っているのか、って言うのが疑問なのだが?」
「なるほど。でしたら私に言いたい事があられるのでしたら何か仰られては如何ですか、旦那様」
「ああ、率直に言おう。そこの里長がお前によろしくだとさ」
「そうですか。…そのお方のお名前をお聞きしても?」
「クェトメルって言ってたぞ」
「そうですか。クェトメル様……、ああ。なるほど。あのお方ですか」
「で、だ。お前と里長が知り合いだって事を踏まえての質問なのだが、」
「ご安心ください、旦那様。クェトメル様とは単なる友人であり旦那様が心配なされるような事は一切ございません。……、…嫉妬でございますか?」
「そもそも誰もそんな心配はしていない」
「…そうですか」
「そこで落ち込まれても困るのだが…。それより最初の質問に戻るぞ。お前、あの里長に俺の事をなんて吹き込んだ?」
「吹き込んだ、などとは些か心外でございますが。私はただ単純に事実のみをお教えしただけでございます」
「じゃ、その事実ってのを俺の前で言ってみろ」
「仮に旦那様がいらっしゃられた際には女子供、特に女児は隠すように、と。旦那様の真実など一切含んでいない話術に誑かされる心配がございますので。それ以外は本当に一切の事は申し上げておりません」
「…お前、なぁ。つかそれだけじゃ逆に下手な印象もたれるんじゃないのか?それに、だな。そもそも“隷属の刻印”は人族専用の刻印でエルフには効かないって、お前なら知ってるだろ?だから俺が誰かを連れてくる事は――、…あー」
「ではお聞きいたしますが本日館内でエルフの女児をおひとりお見かけしたのですが、あれは?」
「……、エルフを狩ろうとしてた馬鹿な奴らに襲われてたところを助けて逃げたんだが、その後で何故か懐かれてな。そもそもとして何故か森の外をこそこそと歩いてたそいつを見かけたから隠れ里を見つけられたんだが」
「相も変わらず人外には縁がございますね、旦那様」
「認めたくはないが、まあ、確かに」
「それで旦那様。エルフを狩ろうとしていた、そちらの方々は如何なされたのですか?」
「ああ、まあ腕っ節だけのあいつら程度にエルフの隠れ里を見つけるのも無理そうだったんで、軽く幻覚を見せてそのまま放置してきた。しっかし、今の風潮は少し考え物だな。そもそも“隷属の刻印”は人族専用だってのに、一体どこのどいつだよ、他種族用に変に刻印の呪法をいじくりやがったのはっ」
「お怒りはもっともでございますが、過ぎた事を考えても仕方ございません、旦那様」
「…確かに。それじゃ、さしあたってはどうするか、だよなぁ?」
「あのエルフの少女の事ですか?」
「ああ」
「差し出がましいのですが意見を具申させていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ。言ってみろ」
「私としてはしばらくの間、様子を見られてはどうかと思うのですが」
「何だ、お前にしては珍しい意見だな」
「いえ。彼女の思惑はおおよそのところ見当が付きますので。エルフと言うのは本来森の中に籠もる種族ですが、その少女が里の外に出ておられたという事でしたら恐らくは好奇心旺盛なお方なのでしょう。一目見かけた際も大変活発なお方のようでしたので。旦那様に懐かれた、というのも恐らくはそのあたりの思惑があるのではないかと。ならばちょうど良い機会ですので、彼女の好奇心を満たして差し上げられれば、と思いまして」
「なるほど」
「つまりですね。私が申し上げたいのはあのエルフの少女は別に旦那様本人の魅力に懐かれたのではないという事です。言いかえれば都合のいい男。さあ、旦那様、事実を受け入れましょう」
「…考えないようにしていた事をズバリというね、お前」
「それで旦那様、いかがなさいますか?」
「まあ、本人の気のすむようにさせればいいんじゃないか?悪い奴でもなさそうだったし」
「分かりました。では通常通り私の方で何方を当てるかを選び色々と面倒を見る、という事で?」
「ああ。まあ決定に本人が嫌って言うんなら別に考えるけどな」
「では、そのように」
「あ、後な」
「…はい、なんでございますか旦那様」
「あの里長に俺の誤解を解いておいてくれ、心底頼むから」
「それは誤解ではなくまさに真実でございますので、無理ですね。事実、一人の女児をお連れになれらた旦那様からすればその印象を撤回なされるのは無理なのでは?」
「……はぁ。だよ、なぁ〜、ち、ちくしょう。俺が何したって言うんだよっ」
「存在しております」
「…、もういいっすよ」
「では、旦那様。私はこれにて失礼させていただきます」
「…、ああ。あぁ、くそぅめ」
「………、しかし、クェトメル様もまた厄介事を旦那様に押し付けられましたね。いえ、それとも旦那様の奇縁を悩めば良いのでしょうか?――次期里長候補の少女、ですか」
本日の一口メモ〜
登場人物紹介
クェトメル
エルフの里の長。男の人。
特にそれ以外は……。だって、野郎ですぜ?
エレム
エルフの少女。決して奴隷ではない。
…おぉ、何気に元or現・奴隷じゃない人物って初めてかも? などと言ってみる。
現在、社会勉強の意味も含めて、館に滞在中。
旦那様の今日の格言
「ヒトは知らないうちに罪を犯すんだ」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様は確信犯で御座います」