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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【キックス編】
655/1098

Early X. キックス-12

バトル……ばとる?


「……あら?」



不思議そうに首を傾げるノノーツェリア。

小憎らしいほど可愛い仕草の彼女を見上げながらキックスは――あぁ、そう言えばそうだったなぁ、と今更ながらに思い出していた。

自分が――今こうして城の兵士に抑えつけられている、その理由を。


――そう言えば、ノノーツェリアに付く悪い虫だって思われてるんだったなぁ


ついでに言えば、見慣れないものが平然と門をくぐろうとしていればそれは不審者以外の何物でもない。それを何を平然と城の門をくぐろうとしていたのか。

ノノーツェリアが余りに自然に『今日も御苦労様です』みたいな素敵な笑顔で門を通過したものだから、つい笑顔に見惚れながらその後を阿呆みたいに付いていってしまっていた。


その結果がこれである。お陰で逃げるどころか受身の一つも出来ずに石畳の上に叩きつけられた。


ノノーツェリアが微笑みながら、戻ってくる。

助けてくれる……と思ったのは実に儚い希望だった事を思い知った。



「楽しそうですね、キックス♪」

「全然楽しくないよっ!? これのどきょぶっ!!」


「――貴様っ、姫様に対して何たる不遜な物言いかっ!!」



押さえつけていた兵士に思い切り押し潰される。

石畳の意思と冷たい口づけを交わしながら、キックスは久しぶりに『そう言えばノノーツェリアってお姫様なんだったなぁ?』と、その事実を思い出していた。



「だ、そうですよ? この無礼者♪」



心底楽しそうな声が頭上から聞こえて――あぁ、この世界はなんて不公平なんだろうか、とキックスは今更ながらに世界の真理へと辿り着いていた。

日頃のご主人様の受けている仕打ちを見ていれば、それとなく気付きそうなものなのに、である。



「……全然楽しくないので助けてもらえないでしょうか、お姫様」

「つーんっ」



何か無視されました。

ワザとらしくそっぽを向いている仕草に無駄に目を惹かれるのが悔しかったりする。おまけに何故かちらちらとこちらの様子も楽しそうに見てくるし。


普通に、可愛いかった。

客観的にも、キックスを取り押さえていた兵士も彼女の仕草に頬をだらしなく緩ませていたりしたので、やはり可愛いのだろう。

ついでに言えば拘束力も緩んでいて、逃げようと思えば逃げられた。もっともそんな事をすれば結果は火を見るより明らかで、碌なことにならないのは分かり切っているから行動に移す気など微塵もなかったのだが。



「あの、お姫様?」

「つーんっ、私の事を他人行儀に“お姫様“なんて言うキックスなんて知りませんっ」

「……」



ならどうしろと言うのか。親しくするのも無礼で駄目、畏まるのも他人行儀で駄目と来た。

試しに押さえつけている兵士を見上げて、キックスは見なきゃよかったと即座に後悔した。怨みとか嫉妬とか怒りとか殺意とか色々な負の感情が入り混じっている、すぐにでもヒトを殺せそうな目で爽やかに微笑みかけられた。


仮にここで『ノノ』なんて呼べば、もう命はないだろう。

心なしか、石畳の冷たさが先程までよりも一層身に染みた気がした。



「……ん?」



と、言うよりも自棄に冷たかった。もう、凍傷にでもなりかねないほどに。

これはおかしい、とキックスが思う事が出来たのはほんの一瞬の事だった。



「――っ」



実にすばらしい反応速度で兵士の手を振り払って、一気にその場から飛び退く。近くにいたノノーツェリアも目を剥くような動きだった。

――いや、


氷の柱が石畳から立ち上り、先程までキックスを抑えていた兵士の四肢をその場で氷漬けに縫い付ける。そしてその氷柱ひょうちゅうはツララとなり、ノノーツェリアへと牙剥いていた。

ノノーツェリアが目を剥いたのはキックスの動きの良さではなく、“敵”からのこの攻撃が理由に他ならない。



「風よ――」



詠唱破棄。

風がノノーツェリアの周りを巻きあげて、牙剥く氷柱を切り落とす。

ノノーツェリアの視線が瞬時に周囲へと奔り、



「――そこっ!」



氷柱を斬り落としてまだ止まらぬ風の刃は、更にその勢いを増してノノーツェリアが睨みつけた方へと軌道を変えた。



「ちょこざいなっ!!」



風の刃が向かった方向から――まだ姿は見えないが声が聞こえ、ヒト二人の大きさはあろうかと言う程の氷塊が宙に現れて、風の刃を押し潰す。

こちらも、詠唱破棄。


地面へ衝突した氷塊は砕け散り、そのまま飛礫となってノノーツェリアへと飛来する。それをノノーツェリアは足元の石畳を盾となるように再構築して防ぎきる。



「「――」」



一瞬の、しかし流れるような攻防からノノーツェリアは、そしてまだ見ぬ“敵”も相手の実力を理解したのだろう。

石畳を元に戻して、先程声の舌先を睨みつけるノノーツェリアと、その先から発せられる射るような視線。


どちらもが緊張感を漂わせて、正に一発触発な中。



「……えーと、ごめん」



声を挟んだのは少しおどおどとしたキックスだった。

ノノーツェリアが油断ならない瞳のまま睨みつけてくるのを軽く流して、彼女の視線の先――恐らく今の襲撃の犯人がいるだろう方向へと視線を向ける。


そして。予想通りと言うべきか、視界の端に見慣れたモノ――身体は隠していてもそこから溢れ出る魔力の流れまでは隠しきれないようで、“それ”が視えるキックスは知った流れに、無意識にため息をついていた。



「一応、間違ってたら申し訳ないんだけど……ツェル姉、だよね、そこにいるの」

「……――ツェル姉?」



ノノーツェリアの怪訝な声が後ろから届きかけるも、その疑問はそれ以上の叫び声によってかき消されていた。



「キーくぅぅぅぅぅぅんっっっっ!!!」



避ける間もなく抱きつか――、タックル――、捨て身張りの体当たりをされて、キックスはもう一度地面にたたきつけられていた。

先程よりも地面が冷たいからか、単に衝撃が強かったせいか、悶絶しそうなほどに後頭部が痛かった。


けれど、そんな暇すら与えてはもらえない。

何か、柔らかいものに埋もれた。具体的には抱きしめてきたツェルカの胸に。



「私が来たからにはもう大丈夫だからねっ! キーくんの貞操は、そこの性悪女なんかには絶対渡さないから、だから安心してっ!!」

「誰が性悪女ですかっっ」

「ふんっ、私にはちゃっっっんと、全部分かってるんだから! キーくん、大丈夫だった? お姉ちゃんが来るまで、この性悪女に何かひどいコトされなかった??」

「お姉……? と、言う事はキックスのお姉さんですか?」



半分くらい窒息しかけて、ようやく呼吸出来た――と、思ったら理不尽な理由でノノーツェリアがこちらを睨みつけていた。



「ゃ、ツェル姉は別に――」



息絶え絶えで言い訳しようにも、また強く抱きしめられて、胸の中で窒息する。



「そうだよっ、私とキーくんは血の絆以上の強い絆で結ばれてるんだからっ!!」

「……――私は今、あなたに聞いたのではなく、キックスに聞いているのですが?」

「それがどうしたっていうのよ、この性悪!」

「……性悪性悪と言いますけど、そちらの方がよほど性悪なのではありませんか? それにこんな公衆の面前で臆面もなく男の方を押し倒すなんてはしたない」

「私とキーくんは特別だからいいんですー。それよりあなたの方こそ、さっきから何様のつもり? ちょっとキーくんに対してなれなれしすぎないかな、この性悪」

「――私は、キックスの主です……仮ですけど。そういうあなたの方こそ、私の所有物にそんな事をして、一体何様のつもりですか?」

「ふふんっ、聞いて驚けっ。私はっ、キーくんのキーくんによるキーくんのためのお姉ちゃんなのだ!!」

「……なんですか、それは」

「誰が主とか所有者とか、そういう情けないきずなとは違って、キーくんが最後に帰るところは私、キーくんの全部はお姉ちゃんのモノってことだよ。性悪はそんな事も分からないの?」

「――そうなのですか、キックス? ……それといつまでそんなところに顔を埋めているつもりですかっ!」



ノノーツェリアがキックスの襟元を掴み、力ずくでツェルカから引き離す。びり、と何処かが破けた音がした。



「――っは……」



一張羅のたてた音に泣きたくなりながらも、取り敢えず窒息死寸前の所を救ってくれたノノーツェリアに感謝――しようと思ったけど形相が怖かったのでそっぽを向くことにした。



「酷いっ! キーくんになんて事するの、この性悪!」

「あなたの方こそ、分かってます? その胸の所為でキックスが窒息しかけていたじゃないですか」

「ふふんっ、持たざるもののヒガミだね、それは」



見せつけるように腕を組んで胸を強調するツェルカに、ノノーツェリアの柳眉がつり上がる。

……いや、決して彼女のソレが小さいとは言わないのだが、そこは女としてのプライド云々があった。決して譲れない何かが。



「っ――言わせておけばっ、色々とつけあがって!!」

「正体を現したね、この性悪! そんな性悪は私が退治してやるんだからっ!!」



二人の魔力がまた凄い勢いで膨らんでいく。

暴力的ですらある魔力の有様をありありと見せつけられた――おまけに二人のちょうど中間に座り込んでいたキックスは、もう泣きたくなった。

城の奥の方から、騒ぎを聞きつけたらしく結構な量の足音と魔力の塊がこちらに向かってきているのにも今の状況に拍車をかけていた。


今までの経験からして――はっきり言おう。

もし仮にこの場にこの国の兵士とか騎士とか魔法使いとかが駆けつけてきたとして、間違いなくツェルカが力ずくで一掃する。『キーくんを虐めるのはこの私が許さないんだからっ!』とか何とか叫んで。もう間違いなく。

そうなってしまえばもはや泥沼、と言うか一国に対してケンカを売った様なものである。




◇-◇




悪魔があらわれた。



『にげちゃえよ!』



天使があらわれた。



『諦めましょう』



早速、悪魔と天使の口論が始まった。



『人生、諦めたらそこで終了だぜ!』

『なら今が諦め時なのです。潔く諦めましょう』

『いーや、違うねっ! 漢なら今こそヤル気を見せるんだ!!』

『それが逃げる事ですか。情けない限りですね』

『ぅ、それは……でもその辺りが限界だから仕方ないだろうがっ』

『それもそうですね。限界を見極める事は大切です』

『だろう? だから早く逃げようぜ!』

『ですが忘れていませんか? ノノーツェリアから一定以上離れられない以上、逃げ道はないのですよ?』

『あ』

『ですから諦めましょう、と言っているのです』

『……仕方ないな。よし、諦めろ』

『ええ、諦めましょう』



結論が出た。と言うか今回も悪魔が言い負かされてた。




◇-◇




「あぁ、僕の人生、儚かったなぁ」



人生を振り返ろうにも、何の感慨も浮かんでこない。

空を見上げると――素敵なくらいの青空だった。


【アルとレムの二言講座(ツッコミ役:レアリア)】



「……暑いな。アルは大丈夫か?」


「……」


「汗が滝のようだ……てアル? 我慢してないで、本当に大丈夫か!?」


「……」


「ほら、アル。遠慮せずに水だ、さあ飲んでくれ、お願いだからっ」



「――アルに水飲ませるのは賛成だけど、まず方法が間違ってると思わないわけ? そんな手で掬わずに、普通に水袋渡しなさいよ」



「……ええー。アルが俺の手の中から水を飲んでくれるのが嬉しいんじゃないか。なあ、アル?」


「……(ぷいっ)」



【お終い】



戦々恐々。


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