26. おみず
別に、お水のお仕事とかいう意味ではない。
☆☆~コトハの場合~☆☆
(コトハ:薬師の娘さん。妖精族の一種で戦闘種族、鬼族の子。でも戦闘はそれほど特異ではない様子。キスケのお弟子さん)
「お、コトハはっけーん」
「……あ、レム」
「よっ! と言うか、さっきのシルファもそうだったけど、どうしてこんなところに一人でいるんだ?」
「わたしが此処にいちゃいけないって言うのですか?」
「いや、そんな事は言ってない……って、何だか機嫌が悪そうだな」
「レムに会ったからでしょう?」
「そんな事とは関係なく機嫌悪そうではあるが、それよりも何してるんだ?」
「……ユーちゃんに水やっているんです」
「ユーちゃん?」
「≪ユグドラシル≫の事」
「あー成程。≪ユグドラシル≫のユーちゃんね」
「と、言うかレム。この場所にいて、じょうろを持ってるんですから気付いているんですよね?」
「ま、一応は。と言うよりも≪ユグドラシル≫に水やりとか、果てしなく無駄なことしてるなぁ」
「ユーちゃんだって木なんだから、水やりは無駄じゃない……んじゃないんですか?」
「確かにそれはそうだけど……こっちの方が早いって。おい、ユグドラシル」
『レムに呼ばれて起こされた。寝起きなので何か食べモノを所望する』
「よし、俺の力を少しだけなら喰っても良いぞ」
『御馳走様です!!』
「――と、言う具合にエサやりした方が≪ユグドラシル≫も喜ぶし、満足もしているはずだぞ?」
「……あの、レム。頭からがぶりといかれてるけど大丈夫、なの?」
「ああ、≪ユグドラシル≫って別に実態があるわけじゃないから――てか流石に頭の上でチューチューとかされてるのは絵的にまずいな。おい、≪ユグドラシル≫」
『んー、美味しいっ!!』
「おい、聞け≪ユグドラシル≫」
『大丈夫、ちゃんと聞いてる。そしてもっと食べる』
「もっと食べるのは、そろそろ止めて欲しい所ではあるが。それよりも≪ユグドラシル≫、噛みつくなら責めて頭じゃなくて腕とかにしておけ」
『分かった。だからもっと食べる』
「……余り食い過ぎるなよ。俺の方が持たなくなる」
『大丈夫。御馳走を食い潰したり、愚かなまねはしない』
「そう願うぞ」
「あの、ね? わたしが言いたいのはそういう事じゃなくて、ユーちゃんに食べられてるみたいなんだけどレムは大丈夫ですか、という意味……だったんだけど」
「大丈夫だ。日頃から鍛えてるし、それにその辺りはちゃんと≪ユグドラシル≫も考慮してるはずだし」
「……その割には顔色が悪くなってきてますし、心なしか死相が見える気が――」
「――って、おい、≪ユグドラシル≫。そろそろ止めろ、いい加減きつくなってきた」
『……もっと所望する』
「駄目。これ以上は俺が無理だから。今のところはこれで終いだ」
『ぷーぷー』
「文句垂れても駄目」
『みゃーみゃー』
「啼いても駄目」
『不貞寝する』
「そうしておけ。お前寝てた方が世界は平和っていう証拠だ」
『またご飯の時に起こして』
「了解。んじゃ、お休みな、≪ユグドラシル≫」
『――お休みなさいませ、我が主様』
「って、事で。悪い、結果的にコトハのやってる事を取っちゃったか」
「あ、いえ。ユーちゃんも喜んでるみたいだったし、大丈夫です」
「そか。ならよかった。でもよ、コトハ。本当に、こんなところで何してるんだ?」
「だから水やり……レムに仕事とられたけど」
「いや、そういうことじゃなくてだな。折角皆が俺を労わるためにお祭りを開いてくれた……てことは知ってるよな?」
「はい、それわたしも手伝いましたから」
「だって言うのに、何でコトハはこんなところで一人でいるんだ、ってことだ。もしかしてコトハもシルファみたいにヒトの熱気にあてられたとか?」
「そういう訳じゃない。確かに小人族の皆さんがいっぱいいるっていうのはちょっと苦手ですけど……」
「ならどういう訳だ?」
「わたし、あそこにいても良いのかな、って」
「はぁ? 良いに決まってるだろうが。つかどうしてそんな事を思うんだ?」
「だって、あの騒ぎには師匠が――」
「だとしても、だ。迷惑掛けてるのはコトハの師匠――キスケであってコトハじゃないだろ? それを何で後ろ暗い、みたいなこと考えてるんだよ」
「だって、師匠が迷惑かけたなら弟子のわたしが謝罪をしなきゃ……」
「良いって、良いって。それにさ、コトハの事もそうだけど、多分キスケの事も気にしてる奴はここには一人もいないぞ?」
「そんな嘘は……わたし、分かってますから言わなくても良いです」
「いや、嘘じゃないって。実際に戦ってたのは護衛部の奴らって話だし、あいつらならその程度で怖がったり恨み持ったりするほどやわな鍛え方はされてねぇよ。仮にもあいつが直々に鍛えてるんだ」
「でも……」
「兎に角、だ! そういうのは思ってても表情には出すな。表情に出しちまうとあいつらの方としても遠慮しちまうから、悪循環になるだけだ」
「レムが、そう言うなら……」
「ああ、だから――俺が言いたいのはつまりだな、コトハもめいいっぱい楽しめって事だよ。やっぱりコトハは笑ってる表情が素敵なんだから」
「また、レムってばそういうお世辞を恥ずかしげもなく言う……」
「世辞じゃないぞ? それに、コトハに限った話じゃなくて女の子ってのは笑ってるのが一番――……悪い、やっぱり今のは撤回する。例外もいたか。笑って魔法ぶっ放してきたりナイフ突き刺してきたり延々と追い回してきたりする奴とか」
「やっぱり、わたしなんて全然可愛くないですから……」
「いや、撤回したのはソコじゃなくて女の子は誰でも笑ってるのが一番って事だけで。コトハはやっぱり笑ってるのが一番可愛いって!!」
「かわっ――だからそういう事は軽々しく言わないでって何度言ったら聞いてくれるんですかっ!!」
「そう照れるなよぅ~?」
「恥ずかしげもなくそんな事を言うレムがいけないんですっ」
「ま、なにはともあれ元気も出てきたみたいだし良かった良かった」
「……むぅぅ」
「そうやって膨れてるコトハも可愛いぞ?」
「だっ、だからそういうことは――」
「軽々しく言うな、だろう? 大丈夫だ、別に軽々しく扱ってるわけじゃなくて、俺がコトハに対して思った事を率直に伝えてるだけだから」
「ょ――……余計に性質が悪いですっ!!」
「ははっ」
「っ――わたし、失礼させてもらいますね! これ以上レムにからかわれるのは御免です!」
「ああ。でもちゃんと皆の所に行って、精一杯あの騒がしい空気を楽しんでこいよ?」
「レムのあることない事、皆に言いふらしてやるんだからぁぁぁ!!!!」
「――や、それはマジで勘弁……それとも今更か? う~む、迷うところだが……≪ユグドラシル≫はどう思う?」
『今更だと思う』
「そか、それもそうだよな。もう噂の類はあいつに散々言いふらされてるし、これ以上悪く膨らむことはないはず――少なくともあいつ以上の悪評をコトハがたてられる、とは思いたくないものだ、うん」
『もう私寝ても良い?』
「ああ、起こして悪かったな」
『……ご飯』
「さっきやったからそれは駄目」
『けちっ。それじゃ、お休み』
「ああ、今度こそ静かに休んどけ。……さて、と。俺も次んところ行くか」
……さて、もうそろそろこのお話も締めに入らねば?
そう言えば今日、お気に入りの件数が200を超えてました。嬉しい事です、なむなむ。