19. きょうかんしゃ
へたれに共感されるのは落ち込みます。
☆☆~ファイの場合~☆☆
(ファイ:料理部、料理の(逆)天才)
「――むむっ?」
「どうした、何かあったのか?」
「うん、このお料理、どうやったらこんな風にできるのかなって思いまして――」
「いや、俺が思うに普通にお前にゃ無理じゃないか?」
「そんな事は……でも今回、私台所に入れてもらえなかったし。料理部なのに、私」
「……やっぱ、その様子じゃ無理なんじゃねえの? 多分、一生」
「失礼なっ! 私だって本気を出せばこれくりゃひぃぃぃぃ!!!!」
「お前の方こそ失礼な。俺の顔見て奇妙な悲鳴上げるんじゃねえ」
「れ、レム様!?」
「おう。俺以外にこんな良い男はいないぞ?」
「あ、いえ。いっぱいいました、……よ?」
「……、えぇい、そういう悪いコト言うのはこの口かっ、この口なのかっ!」
「ひひゃい、ひひゃいへふ、へひゅひゃひゃ(痛い、痛いです、レム様)」
「どうだ、こんな良い男、他にいないだろう?」
「へー、ひひひゅひょー(えー、いますよー?)」
「この状況でもまだそんな事をほざくとは、本当にいい度胸だな、ファイ?」
「ふぇ~ん、ひひゃ、ひひゃひへふー(ふぇ~ん、いた、痛いですー)」
「なら言ってみろよ、ほら、俺以外の良い男っ、どこにそんなのがいるっていうんだよっ♪」
「ひゃ、ひゃひょへはひろふほーひ、ひょは(たっ、たとえばリトル王子、とか……)」
「あれは全身タイツの変態男だろうがっ」
「へもっ、ひへいへひはっ!!(でもっ、美形でした!!)」
「……ふんっ、だ。男ってのは何も容姿だけが全てじゃないんだよ。美形? ああ、そりゃよかったな、でも俺の方がどこからどう見ても断然いい男なんだよ、あんなヘンタイ野郎に劣っててたまるかよ」
「う、う~、頬っぺたが痛い。痕になったり、しないかなぁ?」
「その程度で痕ができたりするか、馬鹿」
「……レム様、酷いです」
「そういう奴に限って自分の方が遥かに酷い事をしているということに気づいてないんだ。……若干一名を除いて」
「う~、でもレム様だって、私が一生こんな料理を作れないなんて言ってバカにしてました! 私忘れてません!!」
「……いや~、――普通に無理だろ?」
「そんなことないもんっ!!」
「なら、お前が料理初めて何年だ? そしてどの程度上達した?」
「う゛、そ、それは……わっ、私は大器晩成型なんですぅ!!」
「ほぅ、それはそれは。そのまま目覚めることなく一生終えないように気をつけろよ?」
「そ、そんな事にはならないから大丈夫です」
「どうだかなぁ」
「……うぅ、レム様、何でそんな酷い事を言うんですかぁ」
「酷い、ってわれてもなぁ。俺が見込んだ限りじゃ、多分あいつを除けば身体能力及び魔力の潜在能力って意味においてお前が間違いなく、それもぶっちぎりで一番だぞ?」
「え、それって本当ですかっ?」
「……まあ。ちなみに俺の――というよりもあいつも同じ見解だったんだけど、その潜在能力が開花する可能性は皆無だと考えている」
「な、……なんででしょうか?」
「んー、多分、それもある種の才能か何かじゃねえか?」
「そんな才能は要りませんよぉ!?」
「ま、良い意味でのイイ才能を持って生まれた事を感謝するんだな。――と、言う訳だからお前に普通の料理なんて無理だって」
「そ――そんな事はないはずですっ、頑張れば……一生懸命頑張ればきっと報われることだって……」
「ん? 俺の顔に何かついてるか?」
「……いいえ」
「なんだよ、急に俺の顔見て沈んだような表情しやがって」
「いえ、そう言えば一生懸命頑張って報われないヒトの実例が目の前にいたな、って思いだしまして……」
「本当に失礼だな、おい」
「だってレム様って……報われてます?」
「……多分、きっと、恐らくは、報われたりもしてるんじゃね?」
「……ふぅぅぅぅ、なんだか希望がはかなく散っちゃったみたいですぅぅ」
「――ほんと、少し見ない間に良い性格になったもんだな、ファイよぉ?」
「え?」
「シャトゥと一緒に旅に出てから、俺に対する態度が明らかに変わってるのは勘違いじゃないよな? 前はもっと畏まって、……俺に対して畏怖とか敬愛とかを抱いてただろ?」
「いえ敬愛は……それに、だって私、気づいたんです」
「気付いた? 何に?」
「偉いって思ってるヒトでも、そんな敬う必要って実はないのかなぁ……て」
「――……まあ、シャトゥを見ててその結論に至ったというなら納得だけど。アレは例外だろ」
「えー、そんなことありませんよー」
「いや……どの辺が?」
「シャトゥちゃんは凄く偉いんですよ、レム様?」
「それは知って――……、いや、だからどの辺が?」
「他の人たちだってシャトゥちゃんにはへこへこって頭下げてたりにこにこと気持ちの悪い愛想笑いしたりしてましたし、……その分、なぜか私が陰から色々な事をされてた気もするんですけど、きっと何か私の勘違いだと思います」
「お前も苦労してるんだよなぁ、ファイ」
「でっ、でももう解放されました――!」
「ふっ、だからお前は甘いという」
「な、何をですか。それはまさか、経験者は語るという奴では――っ!?」
「その通りだ。そうやって自由になった、私は自由だー、なんて思うのはな、実は一度持ち上げて、それから奈落へ落とすための布石だ。俺が言うんだから間違いない」
「そ、そんな……」
「ま、希望を持たずに頑張れ。そうすればその内きっといい事が……、……あればいいんだけどなぁ、はぁぁぁぁ」
「ちょ、レム様!? 何を縁起でもない事を仰っているんですかぁ!? 後そのため息、実感籠りすぎですよぅ!!」
「でもなぁ、……ファイさ、現実って見るのは辛いけど、やっぱりそこそこは見た方がいいと俺思うんだ。現実逃避もそれなりに必要なことだけど」
「……うぅ! レム様にそう言われると、言葉以上の重みが――!」
「ま、結局はなるようになるさ。そしてだからこそ好きなようにやればいい、ってのが今のところの俺の結論だったりするんだけどな」
「……私、一体どこで間違えちゃったのかなぁー?」
「そう思った時には既に手遅れだ」
「ですよねー?」
「それに、そういうのは生まれたときから間違い――あるいは、とらえ方の違いなだけで実は間違いじゃない、なんて事もあるかもしれないな」
「レム様は前向きですねー。……それとも後ろに進みすぎちゃって、逆に前に出ちゃった、なんてことないですよね?」
「――ふっ」
「私、レム様みたいにはなりたくないです」
「残念。シャトゥに気に入られた以上は間違いなく、時間の問題だ。既にこうやって俺に対する態度もめちゃくちゃ砕けちまってるし」
「……れ、レム様。本日は大変好い御天気で御座います。今回の催しものは楽しんで頂けてますでしょびゅっ!?」
「今更丁寧を取り繕おうとしても遅い、つか、そこで噛んじまう辺りファイももう末期だな」
「しょ、しょんな……」
「まあ、お互い頑張ろうぜ、なっ!」
「――!! れ、レム様に励まされてしまいました。こんな、こんなことって……私は一体どこまで堕ちれば」
「いや、多分どちらかと言えば堕ちる方向じゃなくて昇ってるぞ、お前。まあ、天に向かって堕ちていく、と言った方が妥当かもしれないけど」
「……うぅぅ~」
「しかし……うん、よしっ、ファイ、お前を俺の癒し係に任命しよう!」
「い、癒し……係、それもレム様の……全然嬉しくないです」
「いや~、ファイを見てるとすっげぇ和むなぁ。つか、共感ってやつ?」
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」
「そういう悲観的なところも、俺は分かるぞ、うん」
「レム様なんて、レム様なんて――こうです、えいっ!」
「うん? ……って、これなんだ?」
「私が作った飴玉三号です!」
「……そうか、ファイが作った飴か。まあ、どちらにせよ口に入れなきゃ何の問題も……ふぁれ?」
「うわあああああん、レム様に共感されるのだけは、一緒の扱いだけは嫌だよぉぉぉぉぉぉお」
「――ま、ましゃか、バカにゃっ!? 口に入れずとも効果を発する、だとぉぉぉ!!?? くっ、やば、意識が遠の……く――」
頑張れ、ファイ。
めげるな、ファイ。
きっといいコト……ないさ、多分。
と言うわけでまだまだお祭り継続中。
次回からはようやく館以外の住人が……? 多分ですけど。