17. おあしす
心の球速を求めてーー!!
☆☆~ハッサラカの場合~☆☆
(ハッサラカ:主計部。いつもにこにこ。)
「――ん? 今、何か怨念めいたものを感じたような……?」
「あら~、呪われてしまいましたね~、ご主人様~」
「縁起でもない事を言うな。そして、ようっ、ハッサラカ。元気してるか?」
「は~、私は元気ですよ~? ご主人様は……駄目っぽいですけど?」
「いやいや、俺は全然元気だよ?」
「じゃあ疲れて見えるのは日頃の賜物ですね~」
「……俺ってそんなに疲れて見えるか?」
「むしろ憑かれてますか~?」
「そりゃあもう、色々なものに憑かれていると言えば憑かれまくってるぞ。“なんちゃって♪”女神とか、周囲アンド俺の迷惑を考えない超従順な箱入り娘ズとか、俺にべったりしがみ付いてきて離れようとしないだけの生殺しお姫様とか、会うたびに私と戦えとかトチ狂ったことをぬかすバカ強い戦闘狂とか、あぁ、そういえば最近は俺を熱狂的に追って迫って殺しにかかってくるファン、なんてのも出来た気がするなぁ」
「それは~、楽しそうですねっ?」
「どこがっ!?」
「賑やかで楽しそうですけど~?」
「――ふっ、賑やかで楽しいだけならどれだけ良いことか」
「ご主人様~、哀愁が凄いことになってる気がします~」
「それ程でもないけどな。……むしろそれ程でもないと胸を張って言いたいんだけどね」
「わわっ、ご主人様の周りがセピア色に~???」
「いや、流石にそこまでは……現実に影響を与えるほどには至ってないから。そのはずだ」
「はい~、ご主人様の哀愁漂う背中に見えた目の錯覚でした~」
「あれー、おかしいなー、今日って俺の事をねぎらってくれるために開いてくれたドンチャン騒ぎじゃなかったっけー?」
「そ~ですよ~?」
「でも、おかしいな? 俺って皆と話をするたびに、どんどん気疲れというか精神的ダメージというか、肉体的ダメージもややだけど、色々と失っている気がするのは気のせい?」
「ご主人様~、可哀想です~」
「止めてっ!? 今慰めは止めて!? それじゃあまるで俺が今可哀想な立場に立たされてるみたいじゃないかっ!!」
「違うのですか~?」
「違うっ――はずだ。第一、俺はこの時間でリラックスして、気が楽になって、のびのびと気分をリフレッシュ♪ みたいな感じにならなきゃおかしいはずだ。いや、むしろそういう為の時間なんだからそうなるべきだ」
「そうですね~、ご主人様の言うとおりです~」
「……、よし。俺はこれからの時間をめいいっぱい、全力で楽しむんだ。大丈夫、俺はやればできる奴だから、楽しめるはずだ、イヤ楽しい時間になる、むしろしてやるんだ」
「ご主人様、その意気です~」
「――よっしゃぁ! それじゃあハッサラカ、景気づけだイッパツいくぞ!!」
「え~」
「なんでだよっ!? そこは頼むから俺の勢いに乗ってくれよぉ!! 折角上げたテンションが一気にガタ落ちになるじゃねえかよぉぉ」
「だってご主人様、イッパツって……私~、そんなの嫌ですよ~」
「……マテ。ハッサラカ、お前は一体何を勘違いしている?」
「? イッパツ、景気良くお酒を飲むんじゃないんですかぁ~? 私、お酒は飲むとすぐ酔っちゃうので嫌ですぅ~」
「……まあ、何か飲みモノで景気づけに一気のみでもしようかな、とは確かに思っていたけど。別にそこはお酒じゃなくても、果実を搾った奴でもいいだろ? 少しくらいは俺に付き合えよ」
「ご主人様、横暴です~」
「ふふっ、これくらいで横暴とか言ってるハッサラカはまだまだだな」
「そ~なんですか?」
「理不尽、ってのが真の意味でどんなものなのか、教えてやろうか?」
「遠慮しておきます~」
「そう言わずに、な? お前と俺の仲じゃないか、遠慮はいらないぞ?」
「きゃ~、ご主人様に襲われます~」
「いや、別に襲わないから……って、その表情じゃ、いまいち緊張感がないな」
「え~」
「不満そうな声出されてもなぁ。にこにこした表情で、え~なんて間延びした声を上げられえも普通は緊張感なんて持てないだろ?」
「そ~でもないですよぉ~?」
「お前はそうかもしれないけど、少なくとも俺は持てそうにない」
「ぷ~!」
「……それは怒っていると判断していいのか?」
「私、怒ってますよ~!」
「……悪い、無理」
「ぷ~!」
「はいはい、俺が悪かったって。だから機嫌を直せ、な?」
「誠意が感じられません~」
「と、言われても」
「でもご主人様なので仕方ないのです~」
「――よぅし、底まで言うのなら俺の誠意って奴を見せえてやろうじゃねえか」
「わ~、本当ですか~?」
「ああ。それで誠意見せるって言ったらハッサラカ的には何したらいいと思う?」
「やっぱり~、お金、ですかね?」
「……わー、随分とシビアな所きましたねー」
「さあご主人様~、お金出しやがれ、です~」
「そして一気に遠慮という言葉がなくなったな、ハッサラカよ」
「え~、でも貰えるモノは貰いたいですし~……あ、ご主人様の愛、とかは別ですよ~?」
「それは態々言わなくても良い」
「でも~、言っておかないとご主人様から無理やり渡されちゃうかな~、と。ご主人様の押し付けがましい愛は私、要らないですし~?」
「え、俺の愛、押し付けがましくないよ?」
「そんなこと~、ありますよぉ~」
「ないない。そもそも、無理に迫ったりとかは俺の信条に反するし」
「ご主人様は~、嘘吐きです~」
「吐いてねえよ! ……少なくとも今の範囲ではだけど」
「でも~、色々なヒト達から恨まれたり追いかけられたりしてるのは~、きっとご主人様が嘘吐きだからです~」
「きっと、すれ違いという名の悲しい誤解の産物だな、それは」
「ご主人様ってすれ違わない事があるんですか~?」
「……、あれ、おかしいな? あるって言えないよ? 俺の人生、もしかしなくてもヒトとすれ違ってばっかり?」
「ご主人様は~、誤解の塊ですね~」
「理解者が欲しい、と切に願う。……あいつは例外としておいて」
「元気を出してくださいね~、ご主人様っ」
「ふふっ、そういうハッサラカは俺の理解者には――」
「無理ですよぉ~。だってご主人様ですし~。お姉様に恨まれたくもありません~」
「いや、そのくらいで恨むほどあいつの度量は狭くないぞ?」
「そ~ですかね~?」
「そうだと……思うんだけどなぁ。俺の事を抜かしてさえ考えればあいつは多分、かなりの人格者じゃないのか?」
「ご主人様の事を入れても~、お姉様は素晴らしいお方ですぅ~」
「……それはないだろ。いつもの俺を思い出してみろ」
「ならお姉様は~、ちょっとだけ愛情表現が苦手なだけなんです~」
「苦手? あいつが? そんな訳があるか。あいつが苦手なのは俺の知ってる限り寒さだけだぞ」
「ご主人様は~、乙女心を分かってません~」
「乙女? どこのど――、……、……」
「ご主人様~?」
「いや、乙女云々は置いておくとして、俺は男なんだから乙女心なんて分かるはずがないだろうが」
「ご主人様、暑いんですか~? 汗が凄いです~」
「ある意味、寒い。そして余計な事は言わないに限る」
「? そうですね~」
「……はぁ、それは兎も角として、そう言えば今更だけど俺の理解者っているのか? ――いや、“なんちゃって♪”とかその辺りは除くとして」
「いませんね~?」
「いや、そんな事は……まああるんだが。もしかしてもしなくても、俺の心休まるところってないんじゃないのか?」
「それは大丈夫だと思います~」
「なんでだよ?」
「ご主人様は図太いので、どこでも休むことができますよぉ~」
「……まあ、否定はしない。そもそもがじゃないと俺の身ってもってないはずだから」
「ご主人様も大変です~」
「そうなんだよ、俺は大変なんだよっ! そしてそう思うのなら少しは俺の苦労を分かれっ、ハッサカラに限らずこの館の奴ら全員!!」
「え~」
「なんでそこで今までで一番嫌そうなんだよ?」
「ご主人様は~、苦労してこそ輝いていますよ~?」
「そんな輝き方は嫌!?」
「御愁傷様です~」
「御愁傷じゃねえよ!? 諦めたらそこでお終いなんだから、俺は絶対に諦める事をしないっ!!」
「わ~、ご主人様、恰好良い~」
「……うん、まあ、自分で言っておいて、何バカなことで盛り上がってるんだって気持ちもないわけじゃないけどな」
「ご主人様、素敵です~」
「いや、それはもういいから、ハッサラカ」
「え~、折角ご主人様をおだててるのに~」
「おだてるとか言うな、口に出すな」
「じゃあえっと、……手玉に取る?」
「それも違いますー。くそっ、これ以上お前と話してたら変になりそうだ……と、言うよりも心のオアシスを切に願う」
「潤いは大切ですよ~?」
「ああ、そうだな、その通りだよな」
「はい~」
「……ふぅ、俺の心のオアシスって、何処にあるのかな?」
「わ~、ご主人様の哀愁のセピア色が~、また凄いことに~」
「俺のオアシス……まさか、もうないとかはないよな、流石に」
「う~ん、どうしましょう~? ご主人様~? 一人だけの世界に閉じこもっちゃいましたか~?」
「いや、そういう訳じゃないけど……俺、ちょっとだけオアシスを探してみることにするよ」
「大変そうですけど~、頑張ってくださいね~?」
「ああ。もし見つからないとしても、折角お前たちがこうして祭りを開いてくれたんだから少しくらいは心労を和らげないとな、もしくはそのための手段を早急に見つける、とか。……案外一人で籠るのが一番良い手段な気もしないでもないんだが」
「ご主人様~」
「――あん?」
「元気、出してくださいね~? ご主人様は~、哀愁漂っていても笑っているのが一番だと、私は思います~」
「……ま、そうだな。笑わないよりは笑ってるに限る。んじゃ、ハッサラカ、また後でなっ!」
「はい~」
お祭り~、……ふぅ。
次回からはようやく主要?人物辺りのお話しになるのかな? と思ったり、実は違っていたり。