13. ごしゅじんさま
御主人様は命令できます!
だって、御主人様ですからっ
☆☆~キリルの場合~☆☆
(キリル:料理部副部長。ツィートル(イカに似た生き物)に目がない娘っ子らしい。)
「全部」
「……ズバッと言ってくれるな。――キリル、か」
「はい、御主人様」
「一応聞いておくが、何が全部なんだ?」
「御主人様の態度、行為、仕草、その全てが悪かったです。あの二人が逃げて行ったのはその所為です」
「そうなのか」
「はい、御主人様」
「で、どこから見てたんだ?」
「御主人様の事をバカ呼ばわりして走り去って行った時からです」
「って、殆んど見てねえんじゃねえか。それでどうして俺のやったこと全部が悪いなんて言ってるんだよ」
「御主人様は御主人様ですから」
「それか、またそれなのかっ」
「だって……それに例え御主人様が魔法抜きで空を飛んだとしても、御主人様だからで済ませられると思いますよ?」
「いや、それは無理。俺の身体は空を飛べるような構造になってないから」
「でも御主人様ですから」
「……何か便利な言葉だよなぁ、それって」
「そうですね。一家に一つあって邪魔なものと言えば御主人様。何か不可解な事を言い表す時に用いる言葉は御主人様。よく言う表現です」
「それって“ご主人様”全般を指してるとかじゃなくて、明らかに俺個人を指して言ってる言葉だよな?」
「当然ですよ。私たち以外の――他の方々のご主人様とは格が違いますから、御主人様は」
「その格ってのは当然良い方面の意味合いでの格が違うだよな、な?」
「それは流石に自意識過剰というものでは?」
「んなこたねえよっ!? 俺は凄く立派なご主人様だよ、理想的なご主人様だよ、もうこれ以上ないってくらいに最高のご主人様だよっ!!」
「自分で自分の事を御主人様と呼ぶ光景は見ていて引きますね? あと自画自賛って惨めですよ、御主人様?」
「……くぅ、どうして俺の素晴らしさがこうも伝わらないっ!?」
「まあ、ですが、他の方々がどうかはさて置いて、少なくとも私にとっての御主人様が最良の御主人様であることだけは確かですよ」
「――ほんとかっ!?」
「ええ。まあ、立派、理想的、最高……とそれはないですけど」
「……まあ、最良だけで良しとするか」
「そう言っていただけると幸いです、御主人様」
「……それはそうとキリル、さっきから気になってたんだけどな、」
「はい、どうなされました、御主人様?」
「その俺の事を御主人様とか、言い方硬くね?」
「そうかもしれませんが、私にとって御主人差は何時であろうと御主人様ですから」
「ん~、でもなぁ。今日は折角の無礼講だ! て感じで盛り上げようと思ってるだが……もう少しくらいは砕けた態度でもいいんだぞ? 砕けすぎるのは考えものだけどさ」
「御主人様は人気者ですから。この機会に勇気を振り絞って……ということで少々砕けすぎになってしまうモノもいるのではないですか?」
「そういう理由ならまだいいんだけどなぁ。明らかに俺の事舐めてるだろ、お前、とかいう態度が普通に見え隠れしてた気がするんだけどな」
「それは別に舐めているという訳ではないと思いますよ?」
「なら何だっていうんだよ」
「ただ単に、御主人様との距離の取り方が分からないだけかと。かくいう私も、御主人様を御主人様ではなく、例えば……そうですね、仮にレムさんとお呼びしろと言われても、どのような態度をとればよいものか困ってしまいますから」
「そういうものか?」
「はい。御主人様はもう少し、御自分の御自分らしさを信じてみてもよいと思いますよ……っと、不仕付けな物言いでした。失礼を、御主人様」
「いや、そういう率直な意見は言ってくれた方が助かるから。別に気にするな」
「……はい、分かりました御主人様」
「んで、今の流れからするとお前は俺の事をレムさんと呼ぶのには抵抗があると、そういう訳か」
「そうですね。抵抗があります」
「でもなぁ、俺としては少なくとも今日今この時くらいはもっとくだけたフレンドリーな感じでやってみたいと思ってるんだけどな。……どうにかならないか?」
「抵抗があるだけで……その、嫌という訳ではないのですが」
「なら試しに一度呼んでみてくれ」
「……レムさん」
「ふむ」
「駄目です嫌ですやっぱり駄目です凄い違和感がっ!!」
「ん~、俺としては悪くない感じだったんだけどなぁ」
「やはり駄目です」
「仕方ない、か。――よし、キリル」
「何かそこはかとなく嫌な予感がするのですが……何でしょうか、御主人様?」
「命令だ、俺の事はレムと呼べ。敬称つき、御主人様、その他の言い回しはすべて却下」
「わ、私がここに来て初めての命令が御主人様と呼ぶな、だなんて酷いです、ごしゅ――……れむ」
「なんたって俺はご主人様だからな。これくらいのわがままは、偶にはさせてもらうさ」
「……酷い御主人様です」
「御主人様、禁止」
「……酷いれむです」
「まあ、言葉が砕けてないのは良しとしておこう。とりあえず俺はこれで満足」
「――もういい。もういい、こうなったらとことん、とことん……開き直ってやるっ」
「は? えっと、……キリル?」
「なに、れむ?」
「あれ、さっきまでの敬語は?」
「もういいの。もー、れむの事は御主人様って見ない事にするから。酷いれむは御主人様だったけど、御主人様じゃないから」
「ん~、ここって俺、喜ぶところ?」
「知らないっ」
「まあ喜ぶところか。んじゃ、気軽になったところでキリル」
「……なによぅ」
「今日のこの騒ぎ、ちゃんと楽しんでるか?」
「そういうれむは?」
「俺? 俺はそれなりに楽しんでるぞ。たとえば今こうして、キリルと楽しく会話、とかな」
「れむ最悪! 最低!! 酷い酷い酷い!!! 私をダシにして楽しむなんてそれはヒトとしてどうかと思う!!!!」
「いや、別にダシにしたりとかはしてないんだけどな。ただこうやって、ゆっくりと話し合うような機会も好きないしさ。俺としてはお前たちのいろんな顔を見ることができて結構楽しいわけなんだよ、これが」
「……私も」
「ん? 私も?」
「……私も、――れむが凄く酷いヒトだってことに一票入れる!!」
「はあ?」
「………でも、れむの事は嫌いじゃないけど」
「そりゃありがとな。……ところでキリル、さっきから食ってるそれって――」
「ん? ツィートル」
「だよな。俺にも少しくれ」
「んっ、口あけて、れむ」
「……俺にそれを食えと?」
「そう。ヒナ鳥みたく私が与えるツィートルを食べるの。れむは酷いから、それ以外だとコレはあげない」
「……まあいいか。それじゃ、遠慮なくいただきますっ、と」
「――ぁ」
「んむ。美味い美味い。やっぱりツィートルって言ったらこの歯ごたえだよなー。何というか、この食感は他の食材じゃ出せないんだよな」
「……食べた。本当に、食べちゃった」
「ん? 食べたらダメだったのか? ……というか、まさか実は毒が持ってあって俺の事を試してました、とかないよな? 直前までキリル自身も食べてたんだし」
「毒は……ない。でも少しだけ中毒性はあるかも」
「毒はないけど中毒性はある? どういう意味だ、そりゃ?」
「……れむ、もうひとつあげる。はい、口あけて」
「え、でも俺が食いすぎるとキリルの食べる分なくなるだろ? そりゃ流石に悪いから、ツィートル置いてある場所を教えてくれれば俺取りに行くぞ?」
「――いいからっ。早く口をあける!」
「……まあ、くれるっていうのならもらっておくか」
「そう、それでいい。……はい、どうぞ、れむ」
「んじゃ遠慮なく――……、ん~、やっぱりいいなぁ、この歯ごたえ。それに薄いけどこの味付けもなかなか」
「……ありがと」
「ありがとって……これキリルが作ったのか?」
「うん。皆、ツィートル捌くの苦手だから、私が作った。だからツィートル使った料理は私が持ってる分だけ」
「何だよ、それなら益々悪かったな。自分が食べたいから態々捌いたんだろ? それなのに、」
「いい。れむだから……御主人様だったとか、そういうのじゃなくてれむだから許す」
「そうか? そりゃ助かる」
「……もうひとつ、いる?」
「いや、これ以上はさすがに悪いしな。遠慮しておく」
「…………悪くはないのに」
「始まったばかりで食ってばっかりなのもアレだしな、てこともあるし。まあいいや、それじゃ、キリル、ちゃんと楽しめよ~?」
「あ、れむ……」
「――あぁ、それとな、なんつーか、畏まってる時よりもそうして砕けてる時の方がやっぱりいい表情してるぞ、キリル。少なくとも俺はそっちの方が好きだ」
「ぇ」
「って事で、また後でな、キリルー。ぁ、これは俺の我儘だけどもう少しツィートルの料理作っておいてくれたりすると嬉しいかな? んじゃ――」
「……、えと、……、……うん、ちょっとだけ、ツィートル捌いてこようかな? なんとなくそんな気分」
やはり休日は寝過ごすことが多いので更新が遅れ気味になるなぁ……という言い訳をして置いてみる。
と、いうことでお祭り開催ちゅ~
別にレム君、館の皆に嫌われてるとかそういうわけではないのです。