12. みいらとりのみいら
基本、この館の子たちって免疫低いです。同性ばかりですから。
そして数少ない(?)野郎どもの立場は彼女らの免疫以上に低いものと考えられ――
☆☆~マイチェ&リッテの場合~☆☆
(マイチェ:被服部。お花の好きな、女の子。レム君の観察が日々の日課。なのでレムとの遭遇率は結構高かったりする。)
(リッテ:処理部。好奇心旺盛な女の子。)
「「レム様っ」」
「ん? マイチェとリッテか。どうかしたのか?」
「ねえねえレム様レム様っ、さっきシャルアと何を話してたんですかっ、そしてやっぱりレム様が地雷を踏みましたか!?」
「なんだかシャルア、いい感じにテンパっていたみたいですけどー? レム様、何かしでかしちゃったんですか?」
「何で俺が何かした前提で話が進んでるんだよ」
「だってレム様だし……」
「それに相手があのシャルアですし、ねえ?」
「「これはもう、だよねぇ……」」
「……俺には何が一体、これはもう、なのか皆目見当もつかないんだが?」
「うん、この様子だとレム様が何かしでかしちゃったんだよ。間違いない」
「ですねー、絶対にそうだと思います」
「待て、話の流れはよく分からんが、とにかく俺が悪く言われているような気がするのだけは間違いないはずだ。一体、俺が何をしたと?」
「さあ? 私たちは遠くからレム様とシャルアの事を眺めてただけだから。レム様の方がよく分かってるんじゃないのかな?」
「流石はレム様ですねー」
「それはどういう意味だ、マイチェ。それにリッテも、お前の言ってることが全く分からないのだが?」
「……ねえ、レム様? 前々から思ってたんだけど、それって本当に分からないだけ? それとも分からない振りをしてるだけ?」
「――さあ? リッテ、お前はどっちだと思う?」
「……むぅ」
「私は本当に分かってないんだと思いますっ!」
「おいこらマイチェ、折角俺が、『実は全て分かってるんだけど分かってない振りをしてるだけ?』的な良い感じに見せようとしてるのに、ズバッとその流れを断ち切るんじゃねえ」
「え、でもレム様って、お花以外に興味がないお方じゃないですか」
「ああ、そう言えばレム様って“そう”だよねっ」
「……あれ、ちょっと待ってくださいよ? というかどこからそんな認識が?」
「だって、レム様って暇があればいつも花壇のお世話ばっかりしてるし。私の質問には答えてくれるけど、全然、全く、微塵もっ、私に興味ある素振りも見せてくれないしっ!」
「仕方ないよ、マイチェ。レム様はお花が恋人さんだから」
「いやいやいやいや。それ違う、大きく違うぞ、二人ともー」
「「何が違うっていうんですか?」」
「間違いなく、お前らの俺に対する認識のそのすべてが、だっ!」
「「間違ってない」」
「うん、間違ってないよね、リッテ?」
「うん、私たちは間違ってない。間違ってるとすれば……」
「「レム様の方?」」
「……なんつーか、俺ってお前たちとのコミュニケーションが不足してんのかな? 互いの理解に大きな溝が広がりまくってる気がするんだ」
「「でも、お姉様は――」」
「あいつは例外。ある意味じゃ俺の事は全部分かり切ったうえでああしてやがるから。お前たちみたいに洗脳されたりしてません、つか洗脳してるのがその本人だけどな」
「私たちはお姉様に洗脳なんてされてませんっ!」
「そうですよレム様っ、時々思うんですけど、レム様ってお姉様にちょっと冷たすぎませんかっ!」
「え? は? ……いや、何で?」
「レム様ってばお姉様のご寵愛をあんなにもいっぱい受けてるのに、まるでそれが当たり前、みたいな顔してて……何度か背中からぷすりといっちゃおうと思ったことだって」
「いやちょっと待てリッテ。いま大変聞き捨てならない事があったんだが?」
「背中からぷすり、の辺り? あ、それ私にもあるかも」
「そうそ……ってちょっと待てマイチェー!? お前もかっ、そしてそれは一体どういう意味だっ!?」
「だってレム様って、無防備すぎるというか、おバカさん過ぎるというか、何か色々と……時々襲いたくなっちゃう衝動に駆られちゃうんですよー」
「おっと、これは意外なカミングアウト――じゃ、ないよな。つか、なして? どうして? 俺、何にも恨まれるような酷いことしてませんよ? ……してないよな?」
「あ、うん。レム様は酷いコト……は、してないと思います、よ?」
「何か微妙に歯切れが悪いのが気になるところだが……」
「あのねっ、レム様」
「なんだよ、リッテ」
「レム様が悪いところがあるとすれば、それはきっと“何もしてない”ところだと私は思いますよ?」
「はあ?」
「そう、ですね。私もそうだと思います。レム様は何もしてないのが悪いんですっ!」
「マイチェまで……つーか、それはあれか、あれですか。もしかしなくとも俺の存在自体が悪で常に善行してないと生きていくのすら不許可ですよ、的な事なのかっ!?」
「「……レム様、へりくだりすぎ」」
「いや、でもなぁ。今の二人の言葉を他にどう取れと? 何もしてないのが悪ってんなら俺は一体どうすればいいって話だよ」
「それは自分で考えてくださいねっ、レム様」
「そうですよ。それくらいご自身で考えてくれないと……本当に花壇の事以外取り柄や存在意義のない人になっちゃいます」
「いや、俺の存在意義それだけじゃないですよ? ほら、他にもあるだろう? リッテも、何か言ってやってくれ」
「レム様の存在意義ですかぁ。深い話題ですねぇ……」
「レム様の存在意義、花壇のお世話、ステキなお花を育てることができる素敵なお方……それ以外何かありましたっけ?」
「マイチェ、多分あるんだよ、きっと」
「たとえばどんな?」
「うーんと、……何だろうね?」
「何でしょうね?」
「いや、何かしらあるだろお前ら!? とくにお前らの尊敬敬愛して止まないご主人様、とかさっ」
「あ、そう言えばレム様ってご主人様でしたよね」
「わわっ。私忘れてましたよ」
「私も、ついうっかり」
「それはついうっかりレベルの問題じゃないから。……と云うよりも今のは流石に冗談だよな? 本気で俺がご主人様とか忘れてるって事はないよな、二人とも?」
「「……」」
「二人とも?」
「流石にそれはないですよ、レム様」
「そうですよ。レム様がいくら全然偉ぶってなくて威厳もなくて命令なんて全然してくれなくてむしろ腰が低すぎてもう少し威風堂々としてくれたっていいのにそうすればもう少し恰好よく見えて私たちとしても鼻が高くて誇り高いこれが世界で一番の、私たちのご主人様なんですって胸を張って思えるのに――ってくらいにご主人様らしくないご主人様だったとしても、レム様がご主人様だってことを忘れるはずがないじゃないですか」
「うんうんうん」
「……さて、お前ら。ならその前の沈黙の意味をちょっと教えちゃくれないか?」
「「えっと、……演出?」」
「必要のない演出だな。はっはっはっ、でもそういう演出をされると流石の俺も本当に一瞬忘れられたりしてたのか、とかと焦ったぞ?」
「だからそれはないですってば~」
「そうですよレム様、流石にそれはないですよぉ~」
「だよなー」
「「「あはははははは」」」
「――で、本当のところは?」
「御免なさい、本当に一瞬忘れてました」
「私もです、ごめんなさい、レム様」
「うん、素直でよろしい。つか、俺ってばそこまで威厳とか、ご主人様らしくないか?」
「「ないです」」
「……はぁぁ。ならさ、真面目な話ちょっと聞くけど、俺ってもう少し偉ぶったり、何かご主人様らしい態度をした方がいいのかね?」
「それは――」
「えっと――」
「忌憚のない意見を率直に言ってくれていいぞ。何言われたって今更って感じだし。そもそも今日は無礼講だ。どれだけ酷い事を言われようと、俺の知らないショッキングな事実を知らされようと、涙を流して聞き流してやろうじゃないかっ」
「そこは涙をのんで、だと思いますけど、レム様?」
「うん。でもそこがレム様らしいというか……」
「「……」」
「で、二人の意見は? 俺ってやっぱり、もう少し立派に見せないと拙いかね?」
「……マイチェからどうぞ」
「いや、リッテからお願い」
「ううん、私はいいから、マイチェから」
「だから私は、リッテからで良いって」
「そんなこと言わずに、マイチェ」
「リッテの方こそっ」
「というか二人とも、互いに譲り合わなきゃいけないほど、俺の評価って実は酷いんですか?」
「「……」」
「おい?」
「そんなことは全然ないですよ?」
「はい、レム様の評価は全然低くないですっ。むしろ高いですからっ!」
「はいはい。お世辞でもそう言ってくれるのは嬉しいよ」
「……仕方ないです。それじゃあリッテ、二人同時に、言いません?」
「二人同時? でも言うことが違ってたら?」
「レム様の評価、私たちで違うと思います?」
「……思わない。むしろここに住んでる皆、同じ答えだと私は思う」
「私もですよ。なら二人同時に、せいのっ、ということでいいですか?」
「はい、分かりました。それじゃあせいのっ、ということで」
「……つかそこまでか。そこまで俺は悪く見られてるのか」
「レム様、ちょっと自意識過剰すぎます」
「むしろレム様の方が既にお姉様に洗脳済み?」
「ああ、それはあるかも」
「あるある、むしろ自分で言ってて納得です」
「……なーんか前にも同じようなことを言われた記憶があるけど、それはないぞ。俺はあいつに洗脳なんてされてないから。毒されてなんかもいない……はずだ」
「「……」」
「何だよ二人ともっ!? その目はっ!! 何か『ああはいそうですねー』とかって表面上だけ納得されている気がするぞっ!?」
「「その通りです、レム様」」
「……うっわ、落ち込む。俺は絶対、あいつに毒されてなんかいないのに。むしろ毒されてるのはお前らの方なのに。いつだって少数派は弱いとはこのことか」
「「そうですねー」」
「そういう言い方は、むしろされない方が気が楽だ。……んで、聞くのが次第に怖くなってくるわけだが、俺の評価とか、やっぱりご主人様らしく振舞った方がいいのか、とかの答えは結局のところどうなんだ?」
「「それは――」」
「……それじゃあリッテ、せいのっ、で」
「うん、せいの、で」
「「せーのっ、――レム様は今のままが一番いいですっ!」」
「……本当に?」
「本当ですよっ……いちおう」
「そうですよ、レム様……いちおう」
「何で一応とか、最後につけてるんですか二人して? 余計だよ、ソレ」
「ほ、本当ですってば。花壇のそばにいるとき限定ですけど、レム様の姿はとっても頼もしくて素敵に見えますしっ……それ以外じゃ見る影もないですけど」
「そうですよレム様っ、私もマレーヌから色々と報告を聞いてるけど、さすがレム様って思いますもんっ。女性に手を出すのが早いとか、その割に何時も結果が同じとか、それにそれでこそレム様って感じですしっ!」
「……うん、フォローをありがとう、と言えばいいのかどうか迷うところだな」
「「そんな事はありませんよぉ~」」
「二人とも図々しいよ!? つかまだ俺はありがとうとか言ってないからっ!!」
「「えー」」
「……まあ、二人の言い分は信じてやろう」
「「本当ですか?」」
「ああ。…………まあ、それだけ顔真っ赤にして今のままが一番、とか言われりゃ、そりゃ信じるしかないだろ」
「「っっ!!!!」」
「うん? どうした、まさか二人とも、気づいてなかったのか? ――その照れて焦った表情や、良し!」
「「――れ、」」
「レム様、最高?」
「レム様のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ――」
「レム様のいじわる間抜けドジ鈍感最低底辺アナスタシアにも劣るって本当の噂だったんですね根畜生デリカシーないですよ本当にどんな頭してるんですかぁぁぁ――」
「……ふぅ。逃げられてしまったわけだが――さて、今の俺のどこが悪かったのか、少し振り返ってみようか?」
お祭り開催中。
……というか、いちおう出てきた人数分は続けようと思っているわけですが、大丈夫ですかね?
何か本編(どこからどこが本編かは知りませんが)の続きの方がいいとかってありません? 恐らく、間違いなく、当分は欄外っぽいこういった話が続くことになると思うのですが……