11. てれやさん
照れ屋さん、とは少し違う気もしますが?
☆☆~シャルアの場合~☆☆
(シャルア:料理部。レムの事は結構好きらしい。)
「――っと、悪い」
「へ? ……、れれれれむひゃま!?」
「慌てすぎ。それに誰かと思えば次はシャルアか」
「ほっ、本日はお日柄もよろしく……良い天気ですねっ!」
「良い天気っつーか、この浮島の天候は結界の所為でほぼ全てあいつの気まぐれで決定されてるようなものだけどな」
「はぅ!? えっと、そのあっと、それじゃあ……レム様は今日も幸薄そうな表情をしてらっしゃいますねっ!」
「……悪かったな、幸薄そうで」
「はぅ!? ちょ、ちょっと……いえ、大分言い間違えました。今のは無しですリテイクお願いしますっ」
「……――よし、分かった。なら最初からいこう」
「はいっ、おねがいしまじゅっ!?」
「……大丈夫か?」
「ひた、かひはひたぁ(舌、噛みましたぁ)」
「いや、それは分かったけど。痛そうだな」
「ふぁひ」
「……、うん、それとはまったく関係ないけど、その涙目で見上げてくる表情はグッドだと言っておこう」
「ひょへ? ……、――ぁ、ぁりがとうございますぅ」
「いやいや、こちらこそ」
「……」
「って、何やってんだって話だな。よしっ、それじゃ改めて、だ。……誰かと思えばシャルアか」
「……」
「……、おーい、聞こえてるか、シャルア?」
「……」
「シャルア―? シャルアちゃーん? シャルア様~? シャルル~? シャルっち?」
「……」
「駄目だ、全く反応がねえ。……仕方ない、こうなったら――」
「……」
「――シャルア?」
「? ……っっっ!!!」
「ぁ、おい、んな勢いよく下がると」
「れれれれれれれしゃみゃ、いっちゃいにゃにゅ――にょ゛っ!?」
「こける――って、言おうと思ったんだが、もう遅いか」
「っ、っ、っ~~」
「ほら、シャルア立てるか?」
「……痛いです」
「そりゃあれだけ見事に滑って後頭部ぶつけてりゃ、相当痛そうだったよな」
「……はい。うぅ~、でもでも、あれはレム様が悪いんです。耳元であんな、囁くなんて……は、反則ですっ」
「いや、それは悪かった。俺としてはちょっとした悪戯のつもりだったんだけど、予想以上に驚かれたし。というより、何度呼びかけても聞こえてなかったシャルアが悪い」
「ふぇ!? ご、ごめんなさい……?」
「……何か少し、俺は今感動した」
「?」
「どちらかと言えば誰が悪かろうが原因だろうが、不思議と気がつくと俺が謝ってることが多いんだよなぁ。だから、今みたいなやり取りはちょっとした感動ものだ、と」
「えと、……ごめんなさい?」
「いや、それはもういいから」
「は、はい」
「それじゃ、改めてって事で。――よっ、シャルア。ちゃんと楽しんでるか?」
「は、――はいっ、こうしてレム様と楽しくお話しさせていただいておりますっ!!」
「いや、そういう訳じゃなくて、まあそう言われるのは悪い気はしないんだけど、じゃなくてだな」
「あ、あのあの、私何か気分を損ねることでも……!?」
「いや、そんなことはないぞ。どちらかと云えば非常に和んでる最中」
「和む……? はぁ」
「ま、そんな事はいいとして。ならシャルア、最近の調子はどうだ?」
「最高ですっ!!」
「……何か意思の疎通がうまくいってない気もするけど、そうか最高か。なら新作のお菓子作りの方は順調ってことか?」
「ふぇ? おかし、ですか?」
「ああ。俺の方にちょくちょく持ってくるヤツ、一応感想は毎回言ってるつもりだけど、普通に美味しいから。それに日々上達もしてるみたいだし。やっぱりシャルアはそういうの作るのが好きなんだよな?」
「??? ……、あ、ああ! そうですそうなんです!! 私はお菓子を作るの大好きですからっ!!」
「そこまで力説されなくても分かってるから。と、まあ俺としてはシャルアの作ったお菓子ならいつでも歓迎させてもらうんだけどな」
「ほ、ほんとうですか?」
「ああ、そりゃ当然。毒味でもなんでも、原材料不明の食べモノかどうかも怪しいもんを作ってきて俺に食べさせようとするお前のところの部長とは大違いだし」
「そっ、それじゃあ持っていきますっ、毎日でも毎日でも毎日でもっ、レム様にお菓子を作って持っていただかせていただきますっ!!!!」
「いや、そんな毎日である必要はないけど……」
「……そ、そうですよね。毎日なんて、迷惑なだけで」
「迷惑ってことはないぞ? さっきも言ったように、シャルアの作ったお菓子ならいつでも歓迎するし。……まあ、頼むから突拍子のない独創的なものだけは作ってくれるなよ?」
「独創的?」
「そう、一つ食べただけで神の僕でも毒殺できるような飴玉とか、天の声が聞こえるようになる暗黒物質とか、その辺り」
「そ、そんなもの作れるわけがないじゃないですかぁ。レム様、冗談がお、お上手ですね……?」
「……うん、冗談ならよかったんだけどな」
「??」
「ま、それも置いておこう。多分、シャルアならそういうのは作ってこないだろうと俺は信じてるから」
「は、はいっ、精一杯頑張りましゅ!!」
「それよりもさ、シャルア。さっきから思ってたんだが……」
「は、はいなんでしょうか……?」
「いや、そんなに怯えなくても良いんだけどな。ただな、せっかく無礼講って言ったんだから、もうちょっと砕けた態度で接しても良いんだぞ? シャルアの態度はいい意味でちょっと畏まりすぎてるかな、と思う訳だ」
「れっ、れむしゃみゃに気軽な口調、でふか」
「噛んでる噛んでる」
「……、」
「おーい、シャルア? どうかしたか、急に固まって」
「――あ、あのっ!!」
「おう、どうした?」
「きょ、きょきょきょきょきょ」
「挙動不審?」
「今日はいい天気だね、レムっ」
「ああ、そうだな。でもさっきも言ったけど、ここの天気はあいつの思惑次第だし、大体晴れだから」
「言っちゃった! 言っちゃった!! 言っちゃったぁ!!! レム様のコトをレムって、呼び捨てちゃった私っ!!」
「まあ、呼び捨ててたな。って、言っても別に気にすることはないぞ? と、言うよりもシャルアなら普段からもっと気軽に話しかけてくれてもいいかもしれない。他の奴らみたいに、何故か俺の事を見下さないし」
「どうしよどうしよどうしよっ!?!? 何かレムって、呼び捨てってステキな関係みたいでその、――あぁまたレムしゃまを呼び捨てにぃぃ!!」
「……、おい、シャルア?」
「きゃー、きゃー、きゃ~!!!」
「……ま、元気いっぱいそうだし、放っておくか。それじゃあな、シャルア、また後……落ち着いた時にでもな」
「――よ、よぅしっ、それじゃあ今度はもう少し冒険して、て……あ、あれ? レム様は何処へ?」
お祭り継続中。そしてレム君は徘徊中。
さてそのころメイドさんの暗躍は――?