10. こうきしんがころすもの
好奇心が殺すのは色々あると思います。猫とか、そのほかにも……
☆☆~シャーマル&シャルマーサの場合~☆☆
(シャーマル:医療部副長。若干、マッドサイエンティスト?)
(シャルマーサ:料理部長。珍味を使った料理や創作料理が好き。料理狂とも言う。)
「ふぅ……んで、お前らはそれで後ろをとったつもりか?」
「――流石、ご主人様」
「伊達に無駄な修羅場をくぐってませんね」
「無駄とか言うな、無駄とか。……まあ九割十割くらい無意味っぽくはあるけどさ」
「それでご主人様、一つお聞きしたいんですけどよろしいですか?」
「ああ、良いぞ、シャルマーサ」
「じゃ、聞きますけど、ササラーサから勧められた、ムッキーニエイドリッヒは如何でしたか?」
「は? むっきー……何だって?」
「ですから、ムッキーニエイドリッヒです。感想を聞きたいんですけど、どうでした? 美味しかったです
か? ちょっと癖が強く出すぎてませんでしたか? 触感は? それに後遺症とかは大丈夫ですかっ!?」
「まあ待て少し落ち着け。そして後遺症とかって何だそれは」
「む? そこから聞きますか」
「普通はそうだろ。つかそもそもにしてむっきー……なんとかってのは一体何のことだ?」
「ササラーサから勧められましたよね? そして食べましたよね!」
「だから少し落ち着け、そして取り敢えず、むっきーなんとかの外見を教えろ」
「白くて四角くててらってと滑っている美味しそうな正六面体の事ですっ!!」
「それは既に見た目が美味そうじゃない思う……て、あぁ、あれか」
「はいそれですっ!!」
「俺はまだ何も言ってない」
「でもそれなんですっ!!」
「意気込む意味がわからん。つーかアレな、あれは……――と、そう言えばシャーマル、お前はお前で何やってるんだよ?」
「いいえー、私の事は一切を気にしないでください。はい、私は空気ですから、ええ」
「空気とか言うならせめてもう少し存在感というか、その寒気のするヤる気を押さえてからにしろ」
「ヤる気ってナンノコトでしょうか?」
「それはシャーマルが一番分かってると思うが?」
「さあ~?」
「そんなことよりご主人様! 早く感想を!!」
「そうです、その通りです!!」
「……いや、シャルマーサはまだ分かるとして、何故にシャーマルはあれの感想が聞きたいと?」
「いえ、私は感想よりもむしろ後遺症……もとい、ご主人様は一刻も早く倒れてください!! 早く臨床試験がしたいんです!!」
「うん、なるほどね。そういうことか」
「そうなんですっ、だから早く――」
「「感想を!!」」
「――って言われてもなぁ、俺、そもそもアレ食べてないし」
「そんなバカなっ!?」
「馬鹿なといわれても……事実は事実だぞ?」
「そんなはずありませんっ、だってササラーサは……」
「いや、そのササラーサが欲しがってたからやったわけだが。ちなみに俺が見たときはムキなんとかは正四面体じゃなくて長方形だったぞ?」
「そんなはずありませんっ! あれは私がせいたん込めて、半日かけて綺麗な正四面体に整えたはず……!」
「いや、明らかに時間の無駄遣いだろ、それは。兎に角、だ。そういう訳だから俺は一切アレを食べてないから。シャルマーサはむしろササラーサに感想聞きに行った方がいいぞ。それにシャーマルも、少なくとも俺が倒れるのを待ってるのはそういう訳で無駄だから」
「……シャルマーサ、話が違います」
「御免なさい、シャーマル。……――全くもう、ササラーサったら。あれ程、あれ程ムッキーニエイドリッヒはご主人様に食べさせるように、自分じゃ決して食べないように、って何度も念を押したのにっ!」
「むねん」
「無念です」
「この場合、俺は命拾いしたというべきか? というより当のササラーサはそんな怪しげなものを食べて大丈夫なのか? 食べ物も止めてどこかに行ったけど」
「それは問題ないと思います。一応、念の為、最低限の保障として、ササラーサには事前にリヒッシュに作ってもらった『超消化促進剤ZX』を飲ませておきましたから」
「俺はその如何にも怪しそうなものを危うく食べさせられるところだったわけだが、ちなみにその『超消化促進剤ZX』を俺にくれる、という選択肢は初めからなかったのか?」
「なんでも材料が特殊――というより珍種みたいであまり作ってくれないんですよ。それにそもそもあの子、極度の気紛れですし」
「リヒッシュは処理部の中でも一番手際がいいんですよね。私もたまにお世話になります」
「まあ、若いながらに一応部長務めてるしな。……と、いうかむしろ、俺としてはその偶にお世話になる、って部分が気になったりするわけだが?」
「やん、ご主人様のえっち」
「えっち、じゃねえよ」
「なら仕方ないのでご主人様、こちらをどうぞ」
「……んで、それは何だ、シャルマーサ? 何かつぶらな瞳がこっちを見つめてきてるんだが?」
「エイドリアン四世です。一日ほど料理して気が付いたらこんなものが出来てました。形はちょっと削って綺麗に、小人さん風にしてみました」
「気がつくと、ねぇ。原材料は?」
「多分小麦粉です。後はマンドラゴラとか影の妖精さんとか、シュヘルバイトの若木の皮とか、その辺り……だと思います」
「少なくともいまあげた材料に変なものはないが、多分ってのが怖いな。……んで、何か裂けた口のようなところから『あ゛ー』みたいな音が聞こえるのは気のせいか?」
「いいえ、私にも聞こえます」
「きっとご主人様に食べてもらえるのが嬉しいんですよ」
「『ヴェ゛ー』って感じになったぞ?」
「「喜んでいる証拠ですねっ!」」
「……いや、これは絶対に喜んでないだろ。つかさっきまでつぶらだった瞳が目ぇ見開いて血走ってこっちを見てくるんだが?」
「もう、ご主人様ってばいやですね。ただの料理に目とかそんなのがあるわけないじゃないですか。ましてや勝手に形が変わるだなんて、そんな」
「ご主人様、少し意識しすぎだと思います」
「なら二人に問いたい。聞こえるこの音は何だ、と」
「きっと風が通り抜けるときに変な音を出しているんですよ」
「風の奏でる音色ってやつですね」
「風も何も、無風だが?」
「「そんな時もありますよね」」
「ねえよ!? つかなんだこの意味不明物体!? 食べなきゃ駄目? 俺が食べなきゃ駄目ですか!?」
「……折角ご主人様のために作ったのに」
「酷いです、ご主人様!」
「酷くない、俺は酷くない。むしろ女の武器とか使って攻めてくるお前らの方が酷いと俺は思う」
「それで、食べるんですか、それとも一気に飲み干すんですか!?」
「いやどっちも同じだからっ、てか何で俺が食べること前提になってるんだよ!?」
「ご主人様ならきっといけます!」
「なにその無邪気な信頼!?」
「大丈夫です、ご主人様! もし倒れても私が精いっぱい看病しますからっ! ……色々と、試してみたい危なそうなのがいっぱいあるんですよ」
「むしろそっちの方が危険!?」
「「――さあ、ご主人様!」」
「……仕方ない。俺も男だ」
「さすがご主人様です!」
「もし死んじゃっても可能な限り蘇生を試みますからねっ!」
「よしっ、それじゃあ……――あ、あそこで“お姉様”がお前らの事呼んでるぞ?」
「「え、お姉様が!?」」
「――いまだ!」
「誰もいな――って、あ、ご主人様!!」
「こらー、逃げるな止まれご主人様!!」
「いや逃げるよ、そして誰が止まるか。あんなものを食うのは、ファイが作った料理とかシャトゥが作った暗黒物質とかだけで十分だ。……あれ、もしかして俺って結構いけるんじゃね? あの程度なら食べても大丈夫だったんじゃ――って、迷うな俺!!」
「「ご主人様~!!!!」」
「悪いな、二人とも! 俺はまだ用事が残ってるんだ……と、いうことにしておこう」
と、いう訳でお祭り継続中。
……ふと思ったんですが、レム君が全然心休まってない気がするのは気のせい?
気のせいということにしておきます。




