07. ひどいひと
レム君は悪人です?
☆☆~ハカラ&フェルトマの場合~☆☆
(ハカラ:清掃部。アメリアの同室の子。)
(フェルトマ:清掃部。花壇のお世話をしております。)
「――と、思ったら中央に連れ出した途端に二人とも連れ去られたわけだが、どうしてだ? まあ、皆で一緒に騒ぐっていうのならそれに越したことはないし……ストファーもスターカスも二人とも、連行(?)される時に捨てられる子犬みたいな目をしてたのが少し気になるが、まあいいか」
「あ、ご主――レムさんっ!!」
「おう? 俺をレムさんと呼ぶのはどこのお嬢さんだ?」
「わたしです!」
「そうか、フェルトマか」
「はいっ!」
「うむうむ。せっかく今日は無礼講って言ったのに他の奴ら全然態度が硬かったからな。感心感し」
「――だ~れだっ♪」
「……、ふっ、俺を侮ってもらっちゃ困るぜ、子猫ちゃん。つーかこれでもご主人様なのは伊達や酔狂じゃないから。――ハカラだろ?」
「おお、正解。凄いよ、レムさん」
「もっと褒めていいぞ」
「レムさん凄~い」
「……なんか駄目だ。そういうことを言われると馬鹿にされているようにしか聞こえない」
「えー!」
「ぅ~、レムさん、私のこと忘れてる。せっかく勇気だして声かけたのに」
「あ? ああ、フェルトマのことも忘れてないぞ」
「……本当ですか?」
「と、当然だ!」
「レムさん、レムさんっ、私のことも!」
「ああ、分かってる……って、なんかちょっとだけ感激かも?」
「「?」」
「いや、な。こういう状況だと俺が凄く好かれてるみたいで気分がいいなと思っ、て……」
「「……」」
「……うん、ごめん。ちょっと調子に乗ってみただけだから。二人してそんな微妙そうな表情を浮かべないでくれ。というか、本当に微妙な感じで、正直落ち込む」
「ぁ、ごめんなさい、レムさん。そんなつもりじゃ、なかったんだけど……」
「私も……ついいつもの癖が」
「つまり二人ともそれが本心ってことですね。ええ分かってる、そんなことはわかってたさっ!!」
「れ、レムさん元気出して」
「そうだよ、元気出してっ!」
「うぅ……そもそも落ち込ませたのは誰だって話だよ」
「「ごめんなさい」」
「いや、別にいいけどな。今更だし、何の問題もないけどなっ! ……俺の心情以外」
「「――」」
「?」
「「うわぁ」」
「……どうかしたのか、二人とも」
「いや、なんていうか、ねぇ?」
「私に聞かないで、ハカラさん」
「でも、ねえ?」
「うん、まぁ、言いたい事は分かる、けど……、分かるから」
「だから、一体何がどうしたっていうんだよ?」
「ううん、ただちょっと……」
「お姉様の気持ちが、なんとなく分かるかな、って」
「あいつの気持ち? なんだ、そりゃ」
「「何か、レムさんの落ち込んでる姿にグッと来た」」
「……、うん、それはきっと病気だ。あるいは悪しき教育の賜物――洗脳と言い換えてもいい。早急に対処することをお勧めする、というか俺が対処する」
「な、何されちゃうつもりですか、私」
「せ、せめて最初は二人きりが……」
「何の話ですか!? ハカラは両腕抱いて後退ろうとするの止めろ、そして言葉が変だ」
「これでもレムさんにこれからされる仕打ちを考えて緊張と恐怖に震えているんです!!」
「いや、俺は別に何もしないから。するとしたら精々が俺に対する偏見を取り除くために暗示かけるくらいだから」
「暗示、ですか。そして終わった時にはコトの次第を全然覚えてないって言う事態に……」
「ないない。それにフェルトマ、お前はお前で何想像してやがる?」
「な、何って……その、色々と?」
「ふーん。で、その色々ってのは具体的に?」
「そんなの言えるはずないじゃないですかぁ!!」
「レムさん酷いっ!!」
「なんで俺が怒鳴られなきゃいけないんだよっ!? つか逆切れするなっ!!」
「レムさんが悪いんです」
「そうです、レムさんが悪いんです」
「ぐっ……お前ら、いつでも何でもかんでも、俺のせいにしておけばそれでいいとか思ってたりしないか?」
「そこまで思ってませんけど……」
「でも、ねえ?」
「ねえ、って。何だよ、その続きの言葉は」
「「大体、その通りだし」」
「……、一応聞くけど、その通りって?」
「「最終的に悪いのはレムさん」」
「何だよその暴論っ!? つか俺は信用ないですか! いや、ある意味信用ありますかっ!?」
「「うん」」
「だー!! どこまで俺の評価はガタ落ちなんだっ、つーか、その十割方が実は嘘っぱちですとか、その辺り具体的にどうなんだよっ!?」
「だって?」
「ねえ?」
「「レムさんだし」」
「……おーい、俺の信用ってどこまで低いんだよ」
「えっと、」
「う~ん、」
「ど、どうなんだ?」
「「やっぱり――底辺?」」
「よし、お前ら。ちょっと今すぐそこになおれ」
「「いやです」」
「大丈夫だ、全然痛くないから」
「「……」」
「いや、ほら、ほんのちょっとだけだし? すぐに終わるし。なっ?」
「ね、ハカラさん」
「うん、言いたい事はわかる。凄く分かるよ、フェルトマさん」
「レムさんって、ある意味凄いよね」
「うん、凄く……凄い」
「え? 何? 俺が凄いってようやく認めてくれた? つか今の流れで何故に?」
「「……」」
「な、なんだろうな? 凄いって言われてるはずなのに、不思議と褒められてる気が全然しないぞ? あれー、ふしぎだなぁ~」
「……やっぱり、レムさんてすごいよね」
「……うん、凄いね。だって――」
「「此処まで、喋れば喋るほど信用を擦り減らせるなんて」」
「――……、分かってたさ。分かってましたさ。ちゃんと、褒められてるとかじゃ全然なくて、むしろ俺、貶されてる? みたいな空気だったってことは」
「あー、うん、レムさんっ、元気出してっ。ねっ?」
「レムさんっ、ふぁいとっ?」
「二人の言葉が骨身に染みる。……それで、二人とも。何か用事で俺に話しかけてきたんだろう? まさか俺を貶すためだけに声をかけた、とかじゃないよな? もしそうなら流石の俺もちょっとだけ生きる気力がなくなるぞ」
「ううんっ、違う違うっ!!」
「私も違いますっ、全然、断じてそんなつもりはっ!!」
「……で、それで二人は一体どんな用事で、凹ませるとかじゃなく俺に声をかけたわけですか?」
「あ、……と。その、……わ、私は後でいいからハカラさんから先にどうぞっ」
「え、私から!? で、でもレムさんに声をかけたのはフェルトマさんが先で……」
「うん。どっちが先でもいいから。それともやっぱり俺をへこませてやりたいとか日頃の仇を返して一矢報いてやろうとかむしろ『私のお姉様をとらないでっ』みたいなノリで俺邪魔な存在ですか? とか、そういうことなわけ? いや、分かってはいたけどね、はは、はははは」
「そんなことありませんっ!! ご主人様は私にとってとても大切な方なんですっ、本当です!!」
「わ、フェルトマさん、大胆」
「……うん、やっぱりなんでかな? 俺のこと好きとか、俺の事大切ですよぉ、とか、そういう言葉を言う時に限って俺のコトご主人様呼ばわりしてるのは何でだろうな? ……やっぱりこれって本心が表に出てる証拠みたいなものだよな?」
「ほほ、……ほんしん、なんて、そんな、その……」
「ふふ、その通りだと思いますよ、レムさんっ。私もフェルトマさんと同じですけど、良かったですねっ♪」
「……、そういうハカラは、何か俺に恨みでもありますか?」
「? ないですよ。ないに決まってるじゃないですか」
「ふふ、ふふふっ、つまりナチュラルに毒吐くってわけか。うおおぉぉぉ、あんにゃろめっ、どこまで手の込んだ刷り込みをっ!!!!」
「あんにゃろ? ってのはお姉様のコト、だと思いますけど……どちらかと言えば毒されてるのはレムさんな気がします」
「いやっ!? 俺は正常だよ! 俺は正気ですよ!?」
「……、え?」
「――うわあああああああんっ、俺はっ、俺はっ……俺は間違ってなんかないやいっ!!!!」
「ぁ、レムさ、…………行っちゃいました。でも、あんなご主人様も可愛くてステキかも?」
「……、ぁ、ごしゅ、じん様?」
「フェルトマさん、正気に戻りました?」
「……もっと、ご主人様とお話ししたかったのに」
「泣いて逃げちゃったけど、ああいうところ、ご主人様って卑怯ですよね、フェルトマさん」
「折角の、無礼講、だから……」
「あれ? もしかして私の話聞いてない? おーい、フェルトマさん???」
「勇気、だしてご主人様に話しかけたのに……やっぱり、ご主人様は悪い人なんてですねっ!!!!」
「……うん、こういうところ、ご主人様はやっぱり卑怯で、酷くて、とっても悪い人だと、私も思います」
怠けるのはいけないことだと思います。
と、自分に言い聞かせてみる。