ど-398. 館の地下にあったりする迷宮
とある風景。
のんびりくらりと……?
「どわっ!?」
「旦那様、お気を付けくださいませ」
「ああ、分かっている。今のはちょっと……何というか気が逸れただけだ」
「それが命取りとなる可能性もございます」
「それも重々承知しているよ。お前の方こそ気を抜くなよ?」
「当然です。私は旦那様のように気を抜いたり、何処かのドジっ子のように口にパンを加えながら『遅刻遅刻~』と走ったりなどいたしません」
「……何だ、そりゃ?」
「はて、何でしょう?」
「んな、俺に聞かれても知るかって。それよりも、ふざけるのとかは抜きにして本当に気を抜くんじゃないぞ?」
「心得ておりますとも」
「……でもなぁ、この作業って俺ら、いったいどのくらいやってるんだ?」
「さて、私も正確には覚えておりません」
「地下に隠れた迷宮――って、のはロマン溢れて魅力的なんだけどな。ここってどのくらいだったっけ?」
「地下迷宮の50,067階にございます」
「五万かぁ。つか、一体どのくらいの深さまで続いてるんだ、この迷宮?」
「もしかすると延々とループしているだけで終わりはないのかもしれません」
「かもな。どんな理由で作られたのかはさておくとして、まあいい暇つぶしにはなるもんな」
「そうですね。――旦那様、そろそろこの階層のマッピングも終了いたします」
「お、そうか? ……つーかよ、今更ではあるけど、そもそもとして広さ自体もおかしな空間なわけだ、この迷宮」
「明らかに『竹龍の地』以上の広さが御座いますので。しかしそれを申し上げるのであれば、そもそも五万階以上の地下、という条件自体がおかしなものとなりますことをお忘れなく、旦那様」
「あ、そう言えばそうか。じゃあここって一種の閉鎖空間……ある意味異世界って言ってもよくないか?」
「そうかもしれません」
「……はぁ。それじゃ、そろそろ次の階層にでも行ってみるか。誰かに見つかったら面倒だしなぁ」
「余り戦いたくはない相手ばかりですからね?」
「そうなんだよなぁ。迷宮、そしてそこに現れる正体不明のモンスター、“厄災”に侵されてる魔物ってわけでもないし、しかもめちゃくちゃ強いし、ここにいるようなやつらが仮に地上に一匹でも現れれば、世界滅ぶかもな、本気で」
「可能性はございます。ミドガルド一匹であの力を持っておりますから」
「……ま、気にしないようにしよう。いつぞや、ここで見つけた卵を持ち帰ったのは気の迷いだった」
「はい、旦那様」
「さて、それじゃ次の階層――次の迷宮の世界はどんなものなのかねぇ」
「寒い場所でないのを祈ります」
「俺はおっかないモンスターがいないことを祈ってるよ」
「それは難しい願いと心得ます」
「だよな。今までの経験からしても、やっぱり無理か」
「はい」
「……ま、精々逃げ回るとしよう」
「はい、旦那様。――それでは、次の階へまいりましょうか」
「ああ、んじゃ、行くか」
「はい」
――駄目だ! 何か本気で頭が働いていないっぽい気がするっ!?
にっき・二十日目
【色々と思うことはあるが、今日は疲れた、というか今日も疲れた。世界をぐるっと回って自分の部屋に戻ってくるとか、あり得ないだろ。そもそも何でおれは地上に落とされた?
まあ、そんなあいつの機嫌が悪い日もあるか。仕方ない
と、いうのが俺の悪いところ】