ど-393. 指を切ったり
(良い意味での)傷の舐め合いっこ
「痛っ」
「如何なさいました、旦那様?」
「いや、ちょっと手を切った」
「そそそれは一大事に御座いますっ。今すぐ手は手をせねば旦那様の御命が――」
「……ただちょっと手を、指の端っこを切っただけで命の危険って、どんなだよ。つか、何のつもりだ?」
「それもそうですね。ちょっぴりうっかりさんでした、てへ」
「そう言うの、不気味だから止めろ。つーか、そう言うのを演技るんならせめて表情の一つ、声色の一つは変えろ」
「これは旦那様には不評でしたか、そうですか」
「不評とかそう言うのじゃなくてな、もっと根本的な問題として、ヒトには向き不向きがあって、お前にそう言うのは向かないから。どちらかと言うとそうだな……お前は『それは大変で御座います、お手を少々』とかいって傷口を抉るタイプだ」
「それは大変に御座います。旦那様、お手を少々……」
「えぇい、離せっ!! つか傷口抉られて堪るかっ!!」
「旦那様がお望みになられたと言うのに、何と理不尽な」
「なら言いなおす。こう、そっと歩み寄ってきてだな、『お手を……』とか言ってそっと手を取って、」
「――んっ」
「そうそう、そう言う感じに舐めて手当てを……て、行動早いな、おい」
「……軽い切傷ですのでもう血は止まりますね。旦那様、痛くは御座いませんか?」
「いや、痛くはない。どちらかと言うとくすぐったいぞ」
「そうですか。――んっ、」
「もう良いって。血も止まってるんだろう?」
「……もう少し」
「いや、だからくすぐったいっての。――って、痛」
「旦那様、血がまた……」
「そりゃお前が傷口を噛むからだ。おいこら、噛むな、傷口抉るな、ってその舌使いは止めろくすぐったい」
「名残惜しいですが血も止まったようですので、このくらいにしておきます」
「おー、痛。つか、結局、俺が最初に言った通りに傷口抉りやがって」
「……つい出来心が」
「出来心で傷口を噛まれて、抉られて、舐めまわされて――てのはまぁ許すとして、兎に角たまったもんじゃねえだろうが」
「このような軽傷、舐めておけば直ります」
「そりゃそうだろうけどな。実際のところ本当に指の先をちょっと切っただけだし、舐める必要もないけどな」
「その油断が命取りに――」
「なるかっ! ……なるかもしれないけど、少なくともこの程度の傷じゃ油断も何もあるかっての」
「それもそうですが……旦那様、残りの作業ではお気をつけてくださいませ?」
「分かってるっての。さて、と。んじゃ、仕事再開しますか」
「はい、旦那様。ですがその前に、少し休憩にいたしましょうか」
「ん? そうか? それじゃ、お前が言うんだったら」
「はい。では少々お待ち下さいませ、お茶を淹れて参ります」
「ああ、分かった」
「では――」
「……ふぅぅ。しかし、疲れた。えっと、何々……『新部創設、集え若人よ』? 何やってるんだ、てか何でこんな下らなそうなもんまで俺が処理しなきゃいけないんだ……って言っても始まらないけどな。ま、許可、っと」
こんな日常風景……ほのぼのですなぁ
にっき・十五日目
【在りのままの俺の方が好評の様な気がするけど、もしかして俺って実はモテてた?
なんて、書いてて空しくなるな。
ちょっと気が重いから今日はこの辺で……しかし、一体何がよくて何が駄目なんだろうな? 女心(?)は良く分からん】