ど-389. お早うの運動です
目が覚めたらそこは別世界――というのは往々にしておよくある事?
「……ふぅ、朝か」
「お早う御座います旦那様」
「ああ、お早う」
「良いお目覚めに御座いましたか?」
「――つか、此処どこだ?」
「一目見て分かるように、」
「いや分かんねえよ」
「森の中です」
「……それは分かる。でも俺が言いたいのはそう言う事じゃなくて、」
「仕方のない旦那様。では、此処はチュエトリア地方の西北西に位置している、【常闇の森】と呼ばれている場所です、とお答えすれば宜しいのですね」
「――あぁ、あそこか」
「はい」
「あの魔獣がうようよといて危険いっぱいな事で有名な、あの森か」
「はい、旦那様。その通りに御座います」
「で、今更ながらに訊ねておきたいのだが、自室で寝てたはずの俺はどうして目が覚めたらこんなところに居たんだ?」
「実は旦那様の寝相は想像を絶するほどに大変な――」
「いや、んな壮絶な寝相はないから。空の浮かんでいるあそこから此処までって一体どのくらいの距離があると思ってるんだよ」
「さて? 少なくとも近くは御座いませんが」
「だろう。それで、本当のところは?」
「ふと抱いた悪戯心を抑えきれずに私が連れてまいりました。旦那様を揺り起こさぬよう細心の注意を払いましたので、快眠の保証はできているモノと思われます」
「ああ、全く気付かなかったくらいだしな。実に良い目覚めだったよ。森だけあって空気も美味いしな」
「ありがとうございます」
「褒めたり礼を言った覚えは一切ない」
「そうなのですか。私はてっきり良いお目覚めをなされた褒美に何か頂けるものと意図的な勘違いをしたのですが」
「……まあ、お前がいる限り【常闇の森】とか物騒に呼ばれてても心配はないだろうけどな。所詮は魔物の巣窟だし」
「まるで私が魔物の総大将であるように聞こえますが?」
「似たようなものだろう?」
「完全な否定は致しませんが、それでは私がまるで悪の総党首にでもなっているようではありませんか。それはどちらかと言えば旦那様の役目です」
「んで、お前らはその悪の根源をやっつけてくれる正義の味方ってか?」
「……御冗談を。あまりお戯れにならないで下さいませ」
「それもそうか。大体、一度やったネタだしな」
「――旦那様?」
「っと、悪い悪いって。そう怒るな」
「――」
「そう睨むなって。凄い形相になってるぞ、お前」
「――では、旦那様もお目覚めになられたようですので私は先に館の方へと帰らせて頂きます。旦那様も、なるべく早いご帰還をお願いいたしますね?」
「って、ちょい待て! お前、俺をこんな魔物の巣窟に置いて行く気かっ!?」
「先ほど何と言う事はない、と仰っておられたでは御座いませんか」
「それはお前がいれば、の前提だ。俺一人じゃ、楽しい楽しい追いかけっこにしかならないぞ!?」
「では。近隣の村にてマレーヌ様に転移石をお預けしておりますので、戻るときはお二人でご帰還下さいませ」
「いやっ、だからちょっと待てと――!!」
「では――良い追いかけっこを」
「おまっ――……マジで行きやがった。思いつきでこんなことするか、普通? ……つか、あいつがいなくなった途端にびしばしと殺気を感じるとかって――……、うん、わき目もふらずに村まで走るか」
すたこらっさっさのへへんぷいっ♪
にっき・十一日目
【先ずは俺に対する印象を改善、と言う事で威厳たっぷりな姿を見せて回る事にした。具体的に言えばちょっとだけふんぞり返ってみんなに命令をしてみた。
何故か生温かいモノを見るような、そんな目で見られていた気がするのは気のせいか?】