ど-386. 平和な時間
何かしらの変化が欲しい、でも出尽くしてる気もする今日この頃。
「なにか珍しいことでもねえかなー?」
「平和平穏旦那様が大人しい、が一番です」
「いや、でもただ単に平たんな道のりってのも面白くないだろ?」
「ですから、旦那様を愛してやまない私としてはお望みどおりに日々旦那様に適度かつ刺激的な生活を提供しているわけですね?」
「アレは適度とは言わねー」
「そんな事は御座いません」
「そうか。お前にとっては死にそうな目にあったり、世間で言う所の外聞とかその他色々なモノがボロボロと崩れ落ちていくのは大した事じゃないと、そう言う訳か」
「両方とも旦那様には御縁のないものですね?」
「俺だって普通に死ぬ時は死ぬし、お前と違って世間体と言うモノを気にする至って普通の精神の持ち主だぞ?」
「普通のお方は夢はハーレムなどと主張なさったりは致しません」
「いや、男なら誰でも一度は思うだろ、絶対」
「私は男性ではないのでその気持ちは分かりません」
「それもそうか」
「はい」
「でもさー、平和もいいけど何か嬉し恥ずかしなハプニングってのは必要だと俺は思うだよな」
「――死にますか?」
「いや、そう言う事ではなく」
「刺激が必要、と仰っているのではないのですか、旦那様?」
「それはそうなんだが、何つーか俺が死にかける程度の事じゃ、ハプニングとも呼べない有り触れてる事だなーって感じで新鮮味とか面白味とかを感じられない訳だ」
「……もうそこまでとは」
「ソコまでって何だよ?」
「自身の死に何も感じられなくなれば、ヒトはそこで終わりであると聞き及んだことが御座います」
「御座います、じゃねえよ。これは……アレだ。悟りの境地って奴? どの程度で自分が死ぬか、死線が見える様になってきたんだ。最早、大抵の事じゃ動じねえ」
「その割に、いつも散々騒いでいるように思えますが?」
「動じるのと、ツッコミを入れたりイラっときたりするのとは違う」
「悟りの境地にはまだまだほど遠い様で。――それでこそ旦那様、とも申せますが」
「放っておけ。それにつっこんだり、些細な事で波風立てられなくなるような悟り方は俺は御免被るね」
「私もです」
「……お前の、その常時無表情で言われると説得力がないなぁ」
「誰の所為ですか」
「俺の所為……と言う訳でもないだろ。お前の問題、と言う部分も確かにある」
「それは確かに」
「だろ? ん~、でも本当に何か、サプライズとかハプニングとか、真新しい事ねえかなー?」
「……私としては、旦那様がそう仰られると本当にそのようなことが起きそうで怖いのですが」
「いや、俺が一言何かを言っただけでそれが本当になるとか、ないだろ」
「ないと断言できますか?」
「ああ、そりゃ――、…………何処かの傍迷惑存在が何もしなけりゃ、ないんじゃないかなーと思ったり思えなかったり」
「……ふぅ。では私はこれにて失礼させて頂きます。私は旦那様と違って忙しいモノで」
「ああ、引きとめて悪かったな」
「いえ。例えどのような時場合であろうとも、旦那様が旦那様であるというだけで――私達は全てを赦しますよ?」
「だから、悪かったって口にしていってるんだよ。解かれ」
「失礼いたしました、旦那様」
何か海に向かって『がうー』とかと叫んでみたい。
にっき・八日目
【皆の平和な姿を眺めながら、自分も平和平穏に過ごす事の何と素晴らしい事だと思う。
所で俺はどうして今日一日中、木に逆さ吊りにされていたのか。今こうして一日の終わりに日記を書いている時にも疑問が晴れそうにない。
俺、何かしでかしたか?】