ど-385. 機密事項?
むふぅ~っ
「……見て、しまったか」
「見なかった事にします」
「そうか。……遂に見てしまったんだな」
「見なかった事にいたします」
「ふっ、見られてしまったのなら、仕方ない。俺の秘密の――」
「いえ、私は何も見ておりませんので、何も語らずとも結構に御座います、旦那様」
「ふふっ、しかしいつかはばれるとは思っていたが、不意打ちとは如何にもお前らしいな」
「私は一切、何も見ておりませんのでお気を確かにお持ちくださいませ」
「……そうだな。口封じ、秘密の共有、それとも出来るとは思えないが――俺の魔手から逃げきるか、さてどうする?」
「御自分で魔手、と仰いますか」
「今宵の俺は、一味違うぜ」
「違わないで結構です」
「今なら世界全てを敵に回したとしても怖くないってそう思えるんだ」
「思わないで下さい。せめてこのように些細な事でその様に大それた事、思わないで下さいませ。旦那様の余りのスケールの違いに涙があふれ出てきてしまいます」
「些細な事? 些細な事だと? ……お前にとっては些細だとしても、俺にとって重要な事ってのはあるんだ。そう、たとえば今お前が見た俺の――」
「私は何も見ておりません」
「まだ言い張るか。けど確かにバッチリと――」
「では見なかった事にします、と言い換えます。何も見ておりませんが」
「口では何とでも言えるさ。だがこればかりは、例えお前とあっても信用できない。むしろお前だからこそ信用できない」
「何も見ていない、何も知らない私が果してどうする事が出来ましょう?」
「そう言う、すっとボケてる発言をする時点で俺にとっては脅威以外の何物でもない」
「……では、私にどうしろと?」
「ふっ、この俺の魔手から逃れる事が出来ると言うのなら、以降はお前を信じて見逃してやってもいい」
「無実の罪で酷い扱いです」
「それをお前が言うか」
「?」
「いつも無実な俺の、凄惨な扱いを忘れたとは言わさない」
「例え九割九分九厘が無実であろうとも、旦那様の場合は一厘は有罪成分が入っておりますから」
「なら、今のお前もバッチリ有罪だ。当然、俺様裁判で」
「……仕方ありません、旦那様がそう仰られるのでしたら」
「逃げる準備はできたか? それとも無謀にも俺に立ち向かおう、とかしてるつもりか?」
「旦那様から逃げきれるとは思いませんし、立ち向かう気も御座いません。そもそも、旦那様に対して背中を見せるという行為自体が私どもの意義に反しますので、その行動自体あり得ません」
「ほぅ、と言う事はどうするつもりだ? 流石のお前も、まさか無抵抗に俺にされるがまま、って事はないよな? ……アレを見てしまったんだから」
「そこまで言う程……いえ、私は何も見ておりませんので、旦那様が何を言っているのかさっぱり見当も付かないのですが、確かに今の旦那様に捕まるのは得策でも上策でもないと心得ます」
「そうか。お前が何を企んでいるのかは分からんが……逃がしはしないさ」
「所で旦那様?」
「――何だ」
「それ以上、一歩でも私に近づけば――言いふらします。何を、とは申し上げませんが」
「だ、だが今ここでお前を捕まえておけば――」
「この場で言いふらす手段など、如何程でもご用意できます。何を言いふらす、とは言いませんが?」
「――」
「ご理解ご協力の程、感謝いたします、旦那様」
「ぅ、ぐ、ぐぅ……」
「では、私は失礼させて頂きます。――あぁ、それと旦那様。私は何も見ておりませんので、どうかお気になさらず」
「っ――、待てっ、やっぱり今ここでお前を逃がす訳にはっ……!!」
「判断が鈍い。遅いです、旦那様。――では、失礼を」
「甘いっ! 今日の俺は一味違うと言ったはずだぜ、容赦はしない」
「っ……旦那様、本気ですか」
「当然だっ!!」
「そう、ですか。……では僭越ながら私も、この戯れに本気でお相手いたしましょう、旦那様」
「誰にもバラさせはしない、ばらさせはせんぞぉぉぉ、俺の秘密の――」
「ですから、私は何も見ておりません」
「信じるものかぁぁぁ!!!!」
「……ふぅ」
やんごとなきお方。
メイドさんは何を見たのか……ふふふのふ
にっき・七日目
【眠れないので、ちょっと文を綴ってみている。俺に何が足りないのか、威厳ややる気や根性や気力やそのほか色々と、全てが足りないというのは分かっているのだが。
最近、あいつが世界征服世界征服とうるさいのだが、あいつの言葉を聞いていると何となくその気になってきてしまうので怖い。気が付くと王様になってた、ってことはないよね、俺?
王様になったらなったで、俺は素晴らしい国をつくると思う訳だけど
ああ、その事を考えていたら少しは眠気が差してきた。と言う事で今日はこのあたりで筆を置くとしよう。
王様
遂にあの計画を実行――】