ど-41. スフィア王国とは結構な大国です
初代女王、スフィアさん
「ところで聞きたいのだが?」
「何でしょうか、旦那様。私に解る事でしたら何なりとお答えいたしますが?」
「今日って何日だった?」
「はい、龍月の朧夜ですが。もうじき東方でヤニヤの実が美味しく取れる季節ですね」
「だよなぁ、そう言えばお前ってあの実が結構好きだったよな。…で、だ。だとすると俺の記憶は正しかったって事になるな」
「はい、確かにあの実は私にとって好むものではございますが。それで旦那様、如何致したのでございましょうか?」
「ゃ、何と無くな。そう言えばもうそろそろスフィアが人材を募集してくる頃だったなと思ってな」
「…もうそのような時期になりますか。航路も予定通りなら後十日程でスフィアのアルゼルイ教育機関上空近辺に御到着いたしますね。それで旦那様、今年度は一体どのようになされるおつもりでしょうか?」
「そう言や、去年って何やってった?」
「去年は確か魔道部長のミリアレム様、他数名を派遣なさいましたね。スフィアからの要請が魔術理論を教えられるお方ということでしたので、それにミレアレム様ご本人の意思も伴いまして、旦那様も確か外の様子を知る良い機会だと仰りご賛同なさっていたはずでございます」
「ああ、思い出してきたぞ」
「もっともこちらに帰還なされた方はおりませんので、果たして派遣という表現方法が正しいのかどうかは些かの疑問を挟む余地がございますが」
「そうだよなぁ。俺としてもスフィアに人材を派遣すること自体はやぶさかじゃないんだよな。あそこは珍しく奴隷にもある程度の権利が保障されてる数少ない国だからな」
「スフィア様、ナムト様がご建国なされた国でございますからね。それにお二人は灼眼であるラライ様とご交流がありましたから色々とご存じな事もあったはずです。あと、旦那様。奴隷ではなく“隷属の刻印”を刻まれた方々ですのでくれぐれもお間違えの無いよう」
「細かいこと気にするな。それにしてもな。俺としては派遣したやつ全員が尽く戻って来なかった事に軽い怒りを覚えているわけだが」
「皆様、寿解放なされましたからね。私といたしましては旦那様の毒牙にかからずに済んだ事をこの上なく嬉しく思いますが」
「黙れ」
「良しなに」
「くそっ、あの乳は俺のものだったはずなのに。収穫直前に掻っ攫われた気分だぜ」
「いい気味です」
「…お前、俺に恨み――いや、聞くまでもないよな」
「ええ。旦那様に恨みなど抱くはずがございません。ちょっとしたお小言ならばこちらに数巻ほどございますが」
「って、確かあの呪いの辞書は俺受け取ったよなっ!!なのになんでそんなにまた増えてるんだよっ!?」
「何を異な事を?」
「や、そこでこの人変なこと言って頭おかしいんじゃない、っていう如何にも不思議そうな顔をされると俺としては返答に困るというか」
「それで旦那様。海の底よりも深く下らない旦那様の汚れ尽した欲望の事情よりも此度の派遣はどのようになされるおつもりですか?」
「何か刺のある言い方だな…。まあ、それはそれとして。そうだな……よし、お前行ってこい」
「お断りいたします」
「即答か」
「はい」
「何故だ、理由を言え」
「そうしてお一人になられた旦那様は羽目を外すと、そう言うわけでございますか?」
「……」
「……」
「さて、そうだな。今年の要求ってどんなヤツだった?」
「武道関係ですね。強いてあげるのならば剣や槍、弓術などではない特異な形状の武器を扱える人材を御所望、とあります」
「…」
「…」
「お前、本気で行く気ないか?」
「そうですね。このような要求であれば確かに…。ならば少々条件付きでならば考えないでもありませんが、如何様でしょうか?」
「よし、言ってみろ」
「旦那様のご同行をお願いいたしたいのですがよろしいでしょうか」
「よしっ、却下」
「異議を申し立て上げます」
「つかお前は子供かっ、保護者同伴じゃないとダメって言うのかっ」
「…旦那様」
「ぐぐっ。そんな目をしても駄目だから。お前がなんと言おうと――」
「旦那様、ここで私に一つ提案がございます。昨年度はミリアレム様以下数名をスフィアに奪われてしまった訳ですがそれならば今年は逆に旦那様が直々にお出向きなさり生きの良い女生徒を勧誘・引き抜きむしろ拉致監禁なされるのはいかがでしょうか?」
「よし行くぞ」
「ご英断、感服いたします」
「よせやい。つか、お前、なんで女生徒限定なんだよ?」
「おや、何か不都合がございましたか?過去の統計から申しあげましても旦那様がお選びになるのはほぼ女生徒限定で決まりなのですが」
「偶然って怖いな」
「そうですね、旦那様」
「あとな、拉致監禁はしないぞ。先に言っておくがな」
「つまり引き抜きの方は既にやる気満々であると、そう捉えてもよろしいと言う事ですね?」
「…そうとも言う」
「では旦那様。そのように取り計らいますが、あと数人の同行者と旦那様がご不在の間のこの館の運営はどのようになさいましょうか?」
「まず、同行する奴は別として俺の不在はなしだ」
「つまり毎日無駄に転移魔術で館に帰還するのですね?」
「そうだ。お前ならそれも可能だろ?それと連れて行く人材だがな…そうだな、ミミルッポとパーセルゥ辺りに経験でも積ませてみるか。スィーカットのついでに」
「…旦那様、まだ旦那様に比較的ですが懐かれておられる方を選び予防線をお張りになりましたね」
「いや、あくまで久々に起きたスィーカットのやつの社会経験を積ませてやろうかな、という俺なりの思いやりだからな」
「まあ旦那様の愚にも劣る言い訳はそのあたりで良いといたしまして、残り…あと二・三名程ですがそれは如何なさいますか?」
「それは全面的にお前に任せる。別にスフィアの要望通りの護衛部のやつらである必要はない。お前が館の外での経験を積ませた方がいいって判断したやつを選んでくれればいい」
「了解いたしました、旦那様。ではそのように」
「ああ、頼んだぞ」
「勿体ないお言葉。では、私は色々と手続き並びにスフィアへの今回の派遣の意を伝えにまいりますので失礼させていただきます」
「ああ」
本日の一口メモ〜
スフィア
大きな国です。世界一の教育機関を所持する国として有名。この国からの人材は、学者・戦士・政治家・奴隷を問わず、質がいいとされている。
人物紹介
スフィア
スフィア王国の初代女王様。
ナムト
スフィア王国初代国王様。
でもまあ、割とどうでもいいことだったりするのでそれほど気にしなくても…
旦那様の今日の格言
「自由とは、束縛されないことだ」
メイドさんの今日の戯言
「旦那様の辞書に自由という文字はございません」