ど-379. 小休止
……ふぅ
「……、うん、良いお手前で」
「有難うございます、旦那様」
「しっかし、つくづく思うけどお前って卑怯だよなぁ」
「……何がでしょうか?」
「いやさー、大体の事……と、いうよりも俺が把握している限り戦闘勉学芸術運動創作活動に人付き合い、全てにおいて卒なくこなすよな、お前って」
「そうですね。旦那様の仰られる通り、一通りの事は完璧にできる自信が御座います」
「それが虚勢とか、鼻にかけての事じゃないって言うんだからつくづく凄いよなぁ、お前」
「旦那様ほどでは御座いません」
「俺? いや、そう言う意味じゃ俺とお前なんて比べようもないだろ。つか、俺が明確にお前に勝ってる事って言ったら花と薬学の知識くらいのものなんじゃないか?」
「そうですね。さすがにその二つに至っては、私は旦那様に劣っております」
「ま、つーっても? 花の知識は別として薬学なんてモノはお前には必要ないモノだったんだから俺の方が勝ってて威張れるようなことでもないけどな」
「そうでもありません。たとえば私が旦那様を診るような際には、旦那様にお教えいただいた薬学の知識は大変役に立っております」
「でも逆に言えば、それだけしか役に立ってないだろ?」
「……そうとも言えるかもしれません」
「何にせよ美味いお茶だった。また淹れてくれ」
「はい、旦那様が望まれるのでしたら、いつでも」
「しっかしさ、お前ってどうやってこう言う知識を覚えてくるんだ?」
「こういう、とは?」
「いや。抹茶……っていうのか? こう言うモノの点て方とか礼儀作法とか」
「この抹茶は東の地方に伝わっていたものですね」
「ふぅん」
「ですが旦那様、旦那様がお知りになろうとしないだけで、このような知識は存外楽に覚える事が出来ますよ?」
「お前の“楽”と俺の“楽”は基準が違うからなぁ。パッと見のヒトからの態度然り、知識の吸収率然り」
「旦那様がやる気になれば、不可能な事など一切を以て御座いません」
「そう言う風に俺を買ってくれるのは嬉しいけどなぁ、第一に一番の問題がそのやる気だしな。お前が出来るんなら俺は別にいっか、って気にもなってくるし」
「……確かに。私が出来る事を態々旦那様にしていただく必要も御座いませんか。旦那様の身の周りにおいては私が行えばよろしいのですから」
「何かそう言う言い方を聞くと俺が何にも出来ない、お前に頼りっきりの情けない男に聞こえるぞー?」
「その通りでは御座いませんか」
「……少しはさ、躊躇いとか逡巡とか包み隠すとかいう技術を手に入れた方がいいと俺は思う」
「では少々訂正いたします。旦那様はどっしりと座り私どもに全てをお任せくださればよろしいのです。旦那様が何もできないようになってしまわれてもそれで私たちが離れていくことは御座いませんし、そこまで旦那様に尽くす事が出来ると言うのも幸せの至りに御座いますれば」
「なんか、お前のそう言う言葉を聞いてると全部を任せたくなってくるから嫌だよな」
「本当に任せて頂いてもよろしいのですよ?」
「止めとくよ。お前に全てを任せるとどうなるか、目に見えて分かる程度にはお前の事を信用してるしな」
「勿体無いお言葉」
「当然、良い意味ばかりじゃないけどなっ」
「心得ております」
「……んじゃ、またこう言う機会でもあったら気軽に呼んでくれ。雑学? っていうのか、中々面白いものだったし、良い休憩にもなった」
「いえ、旦那様にそう言っていただけるのでしたら嬉しく思います」
「それじゃあ俺はやり掛けてた仕事の方に戻らせてもらうわ」
「はい。私も道具を片付けたらそちらに向かいますので、旦那様も頑張ってくださいませ――館の修復作業」
「おうよ」
引き続き雑務中の旦那様。……何でこんな事してるんだか。
にっき・一日目
【ふと思いついて、少し日記をつけてみる事にした。こうやって一日の自分を振り返れば、少しは俺に足りないものが何かが分かる気がするからだ。俺の栄光な未来を切に願い
明日からがんばろう】