5. どれいとお休憩
時間がないのに…!
「あーねむ」
「……(こくり、こくり)」
「もう休まね?」
「……(こくり、こくり)」
「って、あなた達、出発してからまだ一刻も歩いてないじゃない!山一つも越してないじゃないの!?」
「……(こくり、こくり)」
「いや、俺虚弱体質だし」
「……(こくり、こくり)」
「そんなのはあの盗賊たちに相手もせずに逃げた時から判り切ってるわよっ!!それでももう少し根性ってものを見せなさいよ。ほら、まだ小さいアルだってちゃんと頑張ってるじゃない」
「……(こくり、こくり)」
「…いや、アルは疲れて眠ってるぞ」
「……(こくり、こくり)」
「ちゃんと歩いてるじゃない。どこが寝てるのよ?」
「……(こくり、こくり)」
「ああ、俺も最初見た時は驚いたね。実に便利な特技だと思うんだけど。レアリアはどう思う?」
「……(こくり、こくり)」
「どうって……うわ、本当に寝てるわね」
「……(ぱちっ)」
「あ、起きた。アル、おはようなー?」
「……」
「うぅ、やっぱり俺には何も反応してくれないのね。まあそれはいいとして。休もうぜ?」
「だからっ、まだ一刻も経ってないのよっ!?それを一々休んでたらアルカッタに着くまでにいったい何日かかるのよ?」
「いや、ぶっちゃけ俺転移魔術使えるし」
「…て、あんた、魔法使いだったの?」
「おう。他称、天才魔導師のレム様とは俺の事だ」
「他称って誰が呼んだのよ?」
「さあ?まあ、とにかく疲れたんだ。休もうぜ」
「……まあ、あんたが転移魔術を使ってくれるって言うのなら急ぐ必要もないし、別にいいか」
「ちなみにアルカッタまで歩いて行くからそのつもりで」
「って、転移魔術はどうしたのよっ!?」
「…あのなぁ、そもそもの俺の目的を忘れてないか?俺はアルに世界を見せる為に色々と周るつもりなんだぞ。それを転移魔術なんて使ってたら本末転倒じゃないか」
「なっ、なら…休むんじゃねー!!!!」
「……」
「な、アル。怖いお姉さんだよな。つーわけで俺の方が優しいお兄さんだよな?だから頼みますから俺にも何か反応してくださいよそろそろ寂しいのですよぅ?」
「……」
「うぅ、やっぱり無反応なのね」
「あ、あんね。私を無視しないでくれる…?」
「…?……ああ、レアリア。心配する事はないよ俺はこう見えても博愛主義だから。さあ、遠慮せずに胸に飛び込んでごふっ!?」
「誰があんたの胸になんか飛び込むかっての。……それにしても奴隷と主人ってここまで自由な関係なの?正直奴隷になった感覚もないし、拍子抜けなんですけど」
「ちなみに一般の主人奴隷の関係なら今のレアリアの飛び膝蹴りは予備動作の時点でアウトだな。身体の機能を止められて下手すりゃ死んでるところだ」
「……それ、本当?」
「ああ、本当も本当。だからこそ俺は破格のご主人さまなんだよ。………おかげで毒殺されかけたりしてるけどね、ふふふっ」
「まあ、私としてはこれで不自由ないんだから別にいいか。……ん、何アル?」
「……」
「ああ、飴が欲しいのね。――ほら、早く出しなさいよ。うん、よしよし。……はい、どうぞ」
「……(ぱくっ)」
「どう、おいしい?」
「……(ころころ、ころころ)」
「そう。よかったわねー」
「……おかしい。絶対的におかしい。どうして俺に一向に懐いてくれないくせにレアリアにはこうも懐いてるんだ。何か間違ってるんじゃないか?」
「具体的に言えばあんたの全部が間違ってるわね」
「……(こくん)」
「お願いします頼みますからアルさん意味も分からずにレアリアの言葉に頷こうとするのをいい加減にやめていただきたいのですよ俺のガラスの心はもうボロボロだぜぃってああそろそろ何言ってるのか自分でも分からなくなってきたきたひゃっほーいっ!!」
「アル、行きましょうか」
「……」
「待て、お前ら主人を置いていこうとするとはどういう了見だ。と言うより本当にそろそろ休もうぜー、なー?」
「本当にしつこいわね。…仕方ない、ならちょっとだけよ。それからすぐに出発するからね!!」
「ああ、ありがたい。助かる…って、なんでご主人さまである俺が下手に出てお礼を言わねばならない!?何かが間違ってる絶対間違ってるって!?」
「…これだけ騒げるんならもう休憩も必要なさそうね。それじゃ行く――」
「ぐてー」
「…実にわざとらしいんだけど。はぁ、仕方ないわね。じゃあ今日だけよ、本当に」
「ああ。…と、ちょっと薪でも拾ってくるけどアルの事任せていいか?」
「いいわよ…って、そんな体力あるなら休む必要なんてない――って、もういないわね。全く」
「……」
◇◇◇
「確かマレーヌ、だったな。何の用だ。定時報告にはまだ早いと思うのだが?」
「はい、主様。まずはこちらをどうぞ」
「ん…あぁ、金ね。そう言えばこの前から文無しになってたか。まあ別に現地で稼いでもいいんだが」
「それと、カティア様からのご伝言がございます」
「カティア…?あぁ、あいつの事か。一応教えておくけどそれ偽名な」
「承知しております」
「で、あいつ何だって?」
「新しく屋敷に来た者達の為に一度、正式にお会いしてほしい。この旅路にお時間がかかるようでしたら尚更早めに、との事です」
「あぁ、分かった。で、他に何か問題でも起きてるか?」
「いえ、特に……ああ、一点ございました」
「何だ?」
「料理部が大変な事になっています。主様のお食事係であったファイが今は暇していますので、その間に少しでも料理の上達を…と」
「で、惨劇が始まったわけだ」
「……仰るとおりです。あれは酷かった」
「まあ、あいつがいるから大惨事にはならないだろ。そのうち慣れてくるさ」
「…それを期待します」
「報告は以上?」
「はい。それで主様がすぐにお帰りになられないのでしたら、こちらを、とカティア様から預かっております」
「転移石、ね。んー、どうするかな」
「…主様」
「……、何だ?」
「あちらにいるお二方は主様の連れでしょうか?」
「ああ」
「それで主様は今何をしておいでで?」
「見りゃ分かるだろ。焚き火用の薪を拾ってるんだよ」
「…そうですか」
「何だ、もしかして嫉妬か?」
「いえ、そのような事は決して。…それでは、ご報告は以上ですので私はこれにて失礼させていただきます」
「あぁ、いや待て」
「…はい」
「次の街…そうだな、あと三日ぐらいでつくか。その時に一度時間作ってそっちに戻るから、あいつにそう伝えておいてくれ」
「承知しました。では――」
「あぁ…て、もういねぇ。うぅ、これはこれで寂しいものがあるなぁ。……と、とっとと戻るか。あいつら待たせるわけにもいかないしな」
◇◇◇
「……あの、これは何でしょうか?」
「見て分からないの、火よ」
「いや、それは分かるんだけど……薪要らないんじゃない?」
「いらないわね」
「どうやって起こしたんですか?」
「そりゃ当然、魔法で」
「お前、魔法使えたのか。…しかし、薪を拾いに行った俺の苦労はなんだったんだ?」
「無駄ね。ね、アル?」
「……(こくん)」
「ふぐぅ!?」
「まあ、御苦労さまとだけは言っておくわ」
「…うぅ、慰めなんて、いらないやい。……あ、でも少しでも優しくしてくれたら嬉しいです」
「っと、そんなに火に近づいたら危ないわよ、アル」
「……」
「そうそう。それとじっと見つめるのも駄目よ」
「……」
「無視ですか、そうですか。どうせ俺なんて…俺なんて……」
とりあえず、一区切り。