ど-376. ……まるでゴミの様だ
上から目線で見てみる?
「民衆がまるでゴミの様だ。ふははははは」
「民衆がゴミなら旦那様は何ですか、ゴミ以下であるのだけは間違いないのですが――と言うよりも存在出来るのですか?」
「いや、俺は素敵な素敵なお前の旦那様って事で」
「ならば良しです」
「……良いのか、それで」
「はい。旦那様には私の旦那様である以外の存在理由など持ち合わせておりませんから」
「いや、それは流石に持ってるって」
「では例えばどのような?」
「んーと、……奴隷たちみんなのご主人様にして万人に慕われまくっている、憎いねこの男っ、的な素敵なジェントルメン、とか?」
「では万人に慕われている旦那様に、こちらを進呈いたします」
「ん? 手紙……誰からだ?」
「旦那様、お気を付け下さい」
「なに――をぶぼっ!? ごほごほっ! げほげほっ!!」
「毒煙の発生するトラップが刻まれておりますので、ご注意を」
「実に遅すぎる忠告だよ、おい!?」
「それでこそ期を狙った甲斐があるというものです」
「そう言う事を胸張って誇らしげに言うなっ!!」
「所で旦那様、毒の方は大丈夫で御座いますか?」
「……何を白々しい。日頃からお前にさんざんに苛めぬかれている俺が並大抵の毒で参ると思うなよ」
「旦那様もご立派になられました」
「そこ、まるで苦労した甲斐があった、みたいな演技は止めろ。無性にムカついてくるから」
「旦那様、日頃から思ってはいたのですが、少々沸点が低すぎはしませんか?」
「低くさせているのは何処のどいつだよっ!?」
「私です」
「……うん、流石良く理解してるよね、お前。んで、理解ついでに考えを改めてくれると俺は大変嬉しい」
「それが旦那様のお望みとあらば」
「望みます」
「……えー」
「何、その不満たらたらな声は!? 俺が望めばそうしてくれるんじゃなかったのかよっ!?」
「日頃は従順純真無垢素直な私が極々稀に少々の反抗心を垣間見せると言うのもそれはそれで有りだとは思いませんか、旦那様?」
「今のお前の発言、俺は何処から突っ込みを入れればいいと思う? それとも全部丸々否定すればいいのか? なあ、どうなんだ?」
「私は冗談を申し上げたつもりは一切御座いませんが?」
「ああ、だろうよ。何せお前が言ったのは冗談――よ・り・も、遥かに性質の悪いものだからなっ」
「その様な事……旦那様には敵いません。ふふっ」
「そうかそうか、お前も冗談が上手くなったのか? ははっ」
「ふふっ、私は冗談を言ったつもりは一切ないと先ほど申し上げましたが、もうお忘れですか旦那様? 本当に仕方のないお方で御座いますね」
「え、何? もしかしてお前冗談じゃなくて、今までの発言全部マジで言ってたの? え、嘘だろ?」
「――本当に、仕方のないお方」
「――そう言うお前もどうしようもない奴だと、俺なんかは思うんだけどなぁ?」
「……」
「……」
「所で旦那様?」
「あん、なんだよ?」
「先程から気になっていたのですが、旦那様の手の甲に何かが育成しておりませんか?」
「何か? ……なんだ、これ」
「見たところ苔の様ですが……旦那様は変わったモノに好かれるのですね?」
「いや、これは好かれるとかじゃないだろ。心当たりは……と、さっきの毒煙?」
「そう思われます。そう言えば先ほどの手紙にはどのような事が書かれていたのですか?」
「どのようなって……ただのトラップ仕込みの紙切れじゃなかったのか、と言うよりもお前が作ったんだろ、どうせ」
「いえ。私は何もしておりませんが。ただ、旦那様に届いた手紙がトラップ込みである事を確認し、トラップを発動させないように手紙を開封。内容を確認ののち再び初めの状態に戻し、それを旦那様の元へと届けたまでで御座います」
「手の込んだ事を……つか、一度内容を確認してるならそのままトラップといたヤツを俺に持ってこいよな」
「旦那様宛のお手紙を私が先にお読みするなど、そのようなはしたない真似はしかねます」
「いやいや、実際してるだろ、お前」
「証拠は一切残しておりません」
「や、普通に俺に告白してるから、さっき」
「ですが現状証拠がない以上、私が手紙の内容を確認したかどうかの真偽を確かめる術は御座いません」
「ふーん。……ところで、さっきの手紙にはなんて書いてあったんだ?」
「とある男性より、旦那様への恨み辛みを延々と。カイト・ダルートンと言うお方でしたが、心当たりは御座いますか?」
「カイト・ダルートン? いや、初めて聞く名前だな。お前は知ってるか?」
「……さて」
「ま、野郎の事なんてどうでもいいか」
「そうで御座いますね」
「つーわけで、お前の言質からお前が先に俺の手紙を盗み見してたって事が判明した訳だ」
「はい、そうですね。それが何か?」
「何かって……いや、そう言われると、別に手紙の一つや二つ内容見られたからって困るわけでもないんだが。と、いうか今更お前に隠し立てするような事もないだろ、って話だしなぁ」
「はい、旦那様の事ならば全て存じ上げております」
「……その言葉があながち嘘になってないから怖いんだよな、うん」
「不服とあらば、私の全てを旦那様にお教えいたします」
「いや。今更、それも敢えてお前に聞くような事もないだろ?」
「そうでしたね。旦那様は既に私の全てを存じ上げておりました」
「……そいう、勘違いされそうな恥ずかしい言動は控えるよーに」
「旦那様の、お望みとあらば」
「うん、控えてくれ。……って、言う事を今までも何とか言った気がするが、全然改善されてないと思うのは俺の気のせいか?」
「旦那様を困らせたくなる時もあるのです」
「……あ、そか」
「はい。……所で旦那様?」
「なんだよ?」
「先程まで手の平だけだった苔が……既に全身に、と申しますか旦那様が既に苔の塊になっておられるのですが?」
「……道理で視界が狭かったり、息がし辛かったりする訳だ」
「丸々として、まるでまりもの様です、旦那様」
「そろそろ、何とかしないとヤバいか。おい、医療部の方へ行って、カッタチルアの木の実とフィヨフィヨの草の根っこ、それとチークの葉を擂り潰して2:4:1の割合で混ぜ合わせたモノを持ってきてくれ」
「はい、ただちに。――と、旦那様。その前に一言、申し上げさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「……なんだよ?」
「旦那様が、まるでゴミの様です」
「――ほっとけ」
「…………では、行って参ります」
……今日も空が赤いなぁ
あの娘に聞く!~あなたにとってのレム君は?~
-二十四人目【ハッサラカの場合】-
「ご主人様は~、お姉様の次の次の次くらいには大切なお方です~。いつも私たち奴隷に優しくしてくれますし~、良い方、ではあるんですけど……ね?」
補足:『ハッサラカ』主計部。いつもにこにこ。登場話、ど-17。