ど-372. 金欠
……ぶつぶつぶつ
ファイ・・・天災料理人さん。
アダム&イブ・・・飛竜の夫婦で、ルルーシアの両親。
シャーマル・・・マッド。
「旦那様、事件で御座いますっ」
「あー、そう。事件、事件……ね」
「流石は旦那様、落ち着いていらっしゃいますね」
「落ち着くってか、むしろ達観?」
「達観で御座いますか。実に旦那様にはお似合いではない言葉ですね」
「ほっとけ」
「はい、ではそのように。――放置ぷれいと言う事で」
「そう言う言い方をすると何か変に聞こえるよな」
「そうですか?」
「ああ……て、それで?」
「それで、とは?」
「だから、一体どんな事件が起きて、お前のさっきの言葉につながるわけ?」
「旦那様は何だと思われます?」
「何って、……たとえばファイがまた調理場を壊したとか、アダムとイブが俺の花壇を荒らし回ってるだとか、もしくはシャーマルが怪しげな薬の開発に着手してて部屋から異臭がするとかか?」
「半分外れ、半分当たりです」
「どういうこと?」
「旦那様が今仰られたことはすべて起こっておりますが、取り立てて事件と呼ぶような代物ではないと判断して、旦那様へのご報告は後回しにしておりました」
「うぉい!? それはちょっと――」
「当然、解決済みですので旦那様は心配なされぬよう」
「……あ、そうなのか。それならよかった」
「良くは御座いません。だから事件なのです、旦那様」
「あ? あぁ、そう言えばそんなこと言ってたよな、お前。それで、なら事件ってのはどんなことなんだ?」
「お金がありません」
「……え?」
「具体的に言えばお金がありません、抽象的に申し上げてもやはりお金がありません。その事実が発覚致しました」
「ん、と。……何時もみたいにお前の冗談とかそういうレベルじゃなくて?」
「はい」
「……どのくらいないんだ? たとえば明日食べるモノがないほど、とか」
「いえ、食物は館内のみで自給自足を行っているので貨幣と言うモノは必要ない――と言う事は旦那様もご存じで御座いましょう?」
「ああ、だよな。ならお金がないって、何のお金がないんだ? そもそもお金がなかったら何か問題があるのか?」
「まず、旦那様が“隷属の刻印”の刻まれた方々を買いあさる事が出来ません」
「それは一大事じゃねえかっ!?」
「……あと、処理部の方々等、地上の方で秘密裏もしくは大々的に活動して頂いているモノたちへの活動資金が御座いません」
「へー……てか、その地上での活動って何? 俺、初耳の様な気がするんだけど」
「初耳でしたか?」
「ああ、たぶんな」
「ではお忘れ下さいませ、旦那様」
「いや、無理だろ」
「無理を通してでも道理にして下さるのが旦那様であると私は信じております」
「俺は信じられるのならもう少し別のところで信じられたいなー」
「私は旦那様を全面的に信じております」
「それは嘘だろ!?」
「いいえ、本当です」
「……ぁ、そうか。お前の場合は俺を全面的に信じてるからってそれが行動に伴うとは限ってないのか」
「そうかもしれませんね?」
「ま、いいや。それよりも、どうしてお金がないんだ?」
「最近何かと入用でしたので。具体的にあげるならばスフィア王国への口止めを兼ねた迷惑をかけた事に対する賠償金、そして逃げたアレに関しての情報収集と各地でミーシャ様と同様の事が起きていないかの徹底的な洗いだし、と。……他にも細々とした事ではありますが、大きな規模で行う為にそれなりの金額が必要となった結果で御座います」
「あー、なるほど。納得」
「それで、如何いたしましょうか旦那様」
「でもさ、お前の事だから現状の解決案とかは何か思いついてるんだろ?」
「はい」
「ならそれでいけばいいんじゃないのか?」
「……宜しいのですか?」
「緊急ってんなら態々俺に確認取る必要もないぞ。お前の裁量一つで、大体問題なく収まるのは分かってるし」
「そうですか。ですが旦那様、私の案としては三つほどあるのですが、どれにいたしましょう?」
「三つ? 具体的には?」
「はい、一つ目は旦那様が馬車馬のように――」
「却下」
「……そうですか。では、二つ目は旦那様が寝る間も惜しんで――」
「却下。と言うか、俺が必死こいて何かする以外の案はもしかして用意してないのか?」
「良くお分かりになられましたね、旦那様」
「……てぇ事は三つ目もそれほど期待できるものでもないって事か」
「それは旦那様の判断に委ねております」
「期待……はあまりできないけど、一応聞いておこう。三つ目の案は?」
「はい、旦那様がご趣味で研究ならびに開発した薬のいくつかを、各国に売る事でそれなりの収益が得られると考えております」
「……なんだ、割とまともだな」
「当然、薬の選定は行いますし、旦那様が危険もしくは必要なしと判断したモノに対しては売り出しは致しませんが」
「だな。いくつかは危険なヤツもあるし」
「そうですね? 旦那様がおつくりになった薬……特に媚薬の類には危険なモノが大変多いですから」
「俺としては媚薬なんて代物、ひとつとして作る気はなかったんだけどなぁ……」
「偶然とは恐ろしいものですね? それとも旦那様の趣味の高じた結果でしょうか?」
「いや、その俺の趣味ってどんなだよ」
「それは旦那様が一番理解しておられると思いますが?」
「勝手に俺の趣味を捏造するのは止めようなー?」
「はい、心得ておりますとも」
「……どうだかなー」
「それで旦那様、旦那様がおつくりになった薬のいくつかを売ろうと考えているのですが、宜しいですか?」
「ああ、良いぞ。でもそれだけで解決ってわけでもないだろ。たかが薬の一つや二つ……」
「――そうですね?」
「ん? 俺、何か変なこと言ったか?」
「どうして、そう思われるので?」
「いや、お前の表情……てか雰囲気が何か、微笑ましいモノを見てるような感じになった気が」
「……旦那様は未だに、ご自身の力を侮っているところがあると思いますよ?」
「そうかぁ? 俺はいたって普通の、どこにでもいるような一般的な奴とどこも変わりないだろ。……うん、何の間違いもないはずだ」
「そうですね? ……――では旦那様、問題を解決してまいります」
「ああ、任せた」
「――はい」
……ふぅ。
あの娘に聞く!~あなたにとってのレム君は?~
-二十人目【マレーの場合】-
「え、レムって誰ですか?」
補足:『マレー』料理部なヒト。普通に料理してて爆発を起こせる、才能のある子。でもファイには敵わない? 登場話、ど-15。