ど-371. 地下
秘密とかのダンジョンっぽいもの
「痛いよぅ、身体の節々が痛いよう」
「えい」
「だから痛いって言ってるだろうがっ!!!」
「申し訳ございません。つい出来心が働きました」
「全く、よう。ふざけるのは良いけど、ちゃんと時と場合を考えろよな」
「はい、旦那様。しかし、如何されたのですか?」
「あ? だから全身が痛いって言ってるだろう」
「いえ、それは分かっておりますが。そうではなく、旦那様がそのようになるなど実に珍しいことであると思いまして」
「……いや、普通だろ、てか五体満足で生きてる事自体が凄いことだぞ」
「そうなのですか?」
「ですか、って……お前、まさか自分がしでかした事を忘れたなんて言わねえよな?」
「旦那様を地下洞窟の下層――地下ダンジョンに騙し落した事ですか? それとも地上へと騙し落した事ですか? はたまた湖の底へと重り込みで騙し落した事でしょうか?」
「ハハハハハ」
「何かおかしな事でも御座いましたでしょうか、旦那様?」
「いやー、お前の発言はいつ聞いても愉快だなぁと思ってなっ!」
「そうですか? 旦那様にお褒め頂けるのでしたら、それは幸いな事に御座います」
「褒めてねぇよ!」
「存じております」
「俺の今の状態になった原因は全部だが、敢えて言えば地下へ突き落されたことだよっ!!」
「そうでしたか。ですが旦那様ならば、地下ダンジョンへ落とされた程度でその様になるとは思えないのですが?」
「あーいうのを魔窟っていうんだぞ。普通の奴なら単身で落とされりゃ、普通は死んでる」
「旦那様はご存命に在らせられます」
「当然だ。俺の場合は逃げて逃げて逃げて、徹底的に逃げ回ってきてるからな」
「偶には勇敢な旦那様が見たいです」
「却下。つーかお前は俺をそんなに殺したいのか」
「――まさか。在り得ません」
「……いや、まあ、うん。急にそんなマジになって答えられても、反応に困るんだけどな」
「私が旦那様を害そうなどと考えるはずが御座いません」
「うん、そうだよな。ついでに言うとお前の凄いところは別に俺を傷つけるつもりが一切なくっても、ああいう風に俺を騙してどこかに落としたり、酷い目に遭わせたり、碌でもない事に巻き込んだりしでかしてくれる所だものなっ」
「当然です」
「当然……当然なぁ」
「しかし旦那様。そうであるならばいつも通り逃げ回って来たのでは御座いませんか? そのような……御労しいお姿になってる事の理由にはなっていないように思えるのですが」
「それは……てか、労しい姿って何だ。身体が痛いとは言ったが別にけがとかはしてないから俺はいつも通りだぞ」
「……、よく見てみればそうでした。いつも通りの、お労しい限りの旦那様で御座いました。失礼を」
「うん、確かに失礼だよな、今のは」
「はい。ですから失礼を――と、申し上げました」
「だよなー、お前は分かっててそういう発言してるんだろうからな」
「引き際は見誤りません」
「俺としては引く前に押してこないでくれると嬉しい……じゃ、なくてだ!! あそこっ、地下のダンジョン!! 前から少し思ってたけど、あそこどう考えてもおかしいだろっ!?」
「そうなのですか?」
「なんで三頭竜とか八又龍とかドラゴンゾンビとか、はたまた死神っぽい幽霊っぽい変な幽体とか、地獄があったらそこに居そうな門番ぽい奴とかがごろごろと転がってるんだよ!? つか、明らかにこの世界の奴らじゃねえだろ、特にドラゴンの辺りっ!!」
「八又龍、ですか? その存在は初耳ですね」
「俺も今日初めて遭ったよ!! お陰で心底本気で死ぬかと思ったし、八又龍なんてのが十匹も同時現れた時は笑いすら込み上げて来たよ!? おかげで全身が痛くて堪らない、この有様さっ」
「良くご無事で、旦那様」
「つか、そもそも――なんで俺一人で行く時に限ってあそこは出没する怪物が神レベルの化け物になりやがりますか!?」
「私にそう申されましても……あの地下ダンジョンは原初の白龍ルーロンが趣味と実益を兼ねて創ったとされているモノであって、それこそ私が生まれた時から存在しているのですから、ダンジョン内部の仕組みや生態がどのようになっているかなど、残念ながら私も詳しいわけでは御座いません」
「碌でもない奴だよなぁ、おい! 俺はルーロンとかに会ったことはないけどさっ!」
「私としては旦那様も同程度か、もしくはそれ以上であると考えておりますが?」
「俺は至って平和主義でヒトサマには迷惑をかけたりしない凄くいい奴だよ!! 本当だよ!!」
「流石にそれは違うと、口を挟ませて頂きます」
「……いや、まあ今のは少しだけ誇張しすぎたかな、とも思うけどな。てか、真面目な話あそこのダンジョンはやっぱり考えものだろ」
「皆様の良い訓練場になるので重宝しているのですが。もう一つ言わせてもらうのならば、私にもよい運動場になっているので非常に助かっているのですが」
「お前がいい運動になるって言ってる時点で既に滅茶苦茶拙い場所だろうが、あそこは」
「ですが地下に入らない限りは実害は御座いませんし、旦那様や、私が一人で入らない限りは対処できる相手しか出没は致しませんので。問題ないのではありませんか?」
「まあ、そうだけどさ。今みたいについうっかり落ちちゃいました、とかってあるかもしれないだろ。そう言う危険は何とかしないとなって」
「うっかりではなく意図的では御座いますが」
「……」
「旦那様? 目が少々怖い事になっておりますよ?」
「身体の痛みが引いたら覚えてやがれよ、この」
「はい、旦那様。旦那様が覚えておられたのでしたら――私に何なりと」
「……あー、身体が痛い。ついでに腹も減った」
「畏まりました。ただいまお持ちいたします」
「あと、指一つ動かすのも痛いから、食べさせてくれるとそれなりに嬉しい」
「――畏まりました、旦那様」
たいくつぅー
あの娘に聞く!~あなたにとってのレム君は?~
-十九人目【シャルマーサの場合】-
「ご主人様は私の大切な恩人……であると同時に、私の欲求を満たしてくれる大切なお方なのです。……でも、ファイが来てから私の料理、食べてくれなくなっちゃったしなー、ご主人様。せっかく体の良い実験体――もとい、試食してくれてたのになぁ」
補足:『シャルマーサ』料理部長。珍味を使った料理や創作料理が好き。料理狂とも言う。登場話、ど-79,353とか。