36. どれいと未知の物体
~これまでのあらすじ~
アルカッタのお姫様を救出したりして、アルカッタとカトゥメの戦争を止めようとしていた? レム君たち。でも気がつくと何故か海の上に居ました。そして助けを求めて呼んだミーちゃん(大蛇)は、レム君をごっくんと。……レアリアやアルはかろうじて逃げるが海の藻屑に……と、言う所で『点睛の魔女』スヘミアに助けられていました、という流れだったはず。
アルーシア・・・愛称、アル。でもアルーシアと呼ばれる事はほとんどない気がする。喋る事の出来ない、奴隷の女の子。
レアリア・・・レムに半ば強制的に奴隷にされてしまった、不運な奴隷の女の子。カトゥメ聖国の王子様の、父親違いのお姉さんだったり。
ミドガルド・・・愛称、ミーちゃん。通称、邪神フェイド。フェイドと言う名前は何処かのお偉いさんがつけたもので、本名はミドガルド。スヘミアのペットの大蛇。
スヘミア・・・点睛の魔女と呼ばれている、世界最高峰の力を持つ魔女。容姿はちっちゃい女の子。ちなみに子供扱いすると笑ってキレる。
ネルファ・・・カトゥメ聖国の血統書つき、お姫様。アルカッタ王女様のリリアンらぶ、なヒト。
エルシィ・・・リリシィ共和国の近衛の隊長らしい。若い。そして男! 何と言っても男!!
セイオー・・・カトゥメ聖国の聖王サマ。ネルファの父親。名前はまだない。
クィック・・・カトゥメ聖国の皇子様、ネルファの弟で……今回の戦争騒ぎの黒幕?
「――ん? ミーちゃん、ちょっと。これ食べてくれ」
アアアアア――……
「……あああ?」
「ふむ、こんなものか」
「ふむ、こんなものか?」
「ああ。ついでミーちゃん、ちょっと其処で大人しくしててくれな?」
「あー、ごはん」
「ああ、それはちゃんと後で獲ってやるから、少しの間だけ大人しくしてるんだ。いいな?」
「あー、……うん」
「よし、いい子だ」
「ふみゅぅ」
「……ったく、どこの誰かは知らねぇが随分と優秀みたいだな」
◇ ◇ ◇
「……おぉ、これはまた、身形の整った奴らがぞろぞろと。百ほどいるか?」
「――そこに居るのは誰だ?」
「ふっ、果して俺は誰に見える? ――いえ御免なさい、ちょっとふざけました。だから無言で槍を構えて囲むのは止めて」
「貴様一人……いや、その“少女”と貴様の二人だけか?」
「ああ。見ての通り、俺と“この子”の二人だけだ」
「何処の者だ?」
「何処のって言われてもな……ついさっき流れ着いたばっかりだからここがどこかも分かってねぇよ」
「流れ……? 旅の者、いや漂流者か?」
「ああ、そうだ。ちょっと乗ってた船が大変な事になってな。気づいたら此処に居た」
「そうか、それは災難だったな」
「ま、こうやって元気に生きてる訳だし、細かい事は気にしてないけどな」
「そうか」
「で、そろそろこのヒト達を何とかしてほしいんだが? 一体どういうつもりで俺らに槍を向けてるわけ?」
「……貴様は、随分と肝が据わっているようだな?」
「こういう事態は嫌なくらいに割と慣れてるんでな。まだお前たちがその槍を如何こうする気がないって事くらいは分かるんだよ」
「成程。修羅場をくぐってきている、と言う訳か」
「いや、修羅場っつーか、……性質の最高に悪い悪戯レベル?」
「なんだ、それは」
「何だと言われても、こうだとしか言いようがないわけだが」
「では質問を変えるが、」
「それよりも俺としてはお前さんが誰かを教えてくれると嬉しいな、って思うぞ。ちなみに俺の名前はレムでこっちのがミーちゃんな」
「……俺はリリシィ共和国、近衛騎士団長のエルシィだ」
「へぇ、その歳で騎士団長さんだとは凄いな」
「凄くなどない」
「二十代くらいに見えるけど、歳は幾つだ?」
「24だ」
「成程。なら凄くはなくとも苦労はしてそうだ」
「苦労など……」
「――団長」
「あ、ああ、そうだったな」
「世間話をしている暇はない、ってか?」
「そう言うことだ。……では、お前達はこの場所にどのくらいいる?」
「ついさっき流れ着いたばっかりだぞ。な、ミーちゃん?」
こくこく
「……そうか」
「そんな事よりもこの大所帯、何かあったのか?」
「近隣の街から邪神フェイドの姿を見たとの報が入ったのでな、我らはその真偽を確かめに来た」
「へぇ……その割には、引き連れてる人数が多すぎ、もしくは少なすぎると思うけどな?」
「――何が言いたい?」
「いや。ただ単に、お前達はその目撃情報が入る前から此処に向かってた気がするんだけどな?」
「……何故そう思う?」
「何故も何も、んな大部隊……百人くらいか? 連れてきてる時点でおかしいだろ」
「……どうしてだ?」
「だーかーらー、何で説明しなきゃ分からないんだ? もう少し頭使おうぜ、お前ら」
「――俺はどうしてだ、と聞いている」
「……いやね、その、ごめん。茶化さないから無言の圧力とか、主に槍の穂先を一斉にこっちに向けるの止めてくれない?」
「よし。ではどうして我らがおかしいと思ったのか、話してもらおうか」
「まー、普通おかしいと思うはずだけどな。だって、お前らが受けた目撃情報って悪名高き邪神フェイドのものだったんだろ?」
「そうだ」
「なら賢い選択はこうして所帯連れて討伐に向かうんじゃなくて、街の奴らの避難が先だろ、普通。それとも市民を守るのは近衛の仕事じゃないってか?」
「いや、そんな事はない」
「なら尚更だ。それに仮に部隊を分けてたとしても、それだとお前達は百人以上の大所帯って事だよな? しかもお前は近衛って言った。つまり駐屯してるってわけじゃないって事だ。なら近衛が此処に居るだけの価値がこの近辺にあるのか、若しくは命令を受けて派遣されてきたかって選択しになる訳だ」
「……成程、確かに貴様の言う通りだな」
「ああ、だからその人数で此処に居る時点でお前達はおかしな所ばっかりって訳だ。お前達は本気で百人程度の人数で国一つを滅ぼすような奴に勝てるとでも思ってるのか?」
「……いや、自分の腕の未熟さを曝け出すようで情けないが、あの邪神フェイドに勝てると自惚れてはいない」
「そか、そりゃよかった。……ちなみに俺の私見を言わせてもらえば、だ。お前らの感じからして、何かが起きる事が解かってた、けど何が起きるかまでは分からなかった。そんな感じの忠告を誰か――リリシィ共和国って事は巫女辺りか? に言われて、ここに来てたな? 邪神フェイドが相手って最初から分かってるなら、百人程度のはずもないからな」
「……」
「うん、その表情――ああ、あんただけじゃなくて他の奴らのも合わせてな、大体今俺が言った推理で合ってるって感じだな。さすが俺、冴えてるな」
「――成程、納得した」
「って、何を納得したんだ? と、言うよりも周りの方々が妙に殺気だっているように思えるのは俺の気のせい……だと思いたいのだが」
「貴様――レムと言ったな。大人しく我々に従えば手荒な真似はしない」
「えっと、つまり、状況がなんだかよく分かってないけど、仮に俺が反抗とかしちゃったりしたら?」
「……止むえまい」
「何を止まない気ですかっ!?」
「それは貴様が身をもって知る事だ」
「素直に従順に下僕の様に従うので許して下さい」
「……」
「えっと、どうかしたか?」
「貴様、従順な振りをして何を企んでいる?」
「じゃあ俺にどうしろって言うんだよ!? 此処で反抗的になって死ねと!?」
「ふん、まあいい。貴様が何を企んでいようと、それを打ち砕くのが俺の役目だ」
「……ちっ、格好よさげなこと言いやがってよぅ。大体、何で俺が悪役みたいな感じに取り扱われているんだよ。俺は何も悪い事してないっつーの、どいつもこいつも俺が悪いみたいに言いやがって、ったくテメェら一体何様のつもりだって」
「あー、レムレム」
「ん? どうした、ミーちゃん?」
「あー……うん、ごはん」
「ああ、そういやそうだったな。おい、ちょっと良いか?」
「……、なんだ?」
「素直について行く~とかは良いんだけどさ、こいつ腹減ってるから、できれば食べるモノを与えてくれると助かる」
「……分かった、用意させよう」
「助かる。こいつお腹がすくと見境なく暴れ出すかもしれないからな」
「我々もそのような子供を飢えさせるほど冷酷ではない」
「子供なー、まぁ、一応子供か。でもこいつお腹が空いてると狂暴になるからな、本当に頼むぜ?」
「分かった。心得ておこう」
「んな微笑ましそうに言われても……つい忘れてたとかじゃ冗談じゃなくなるんだけどなぁ」
「あー、ごはんは?」
「ああ、悪いけどあと少しだけ我慢しててくれな、ミーちゃん?」
「ふみゅぅ」
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
「で、君がセイオー?」
「……」
「ん~、ちゃんと答えてくれないと分からないよ?」
「……何が望みだ、『点睛の魔女』」
「いや、別に望みとかないんだけど」
「正面から城に乗り込み、兵士たちを蹂躙傀儡にし、国の機能を完全に停止させておいて望みがない、何の理由もないと?」
「理由ならあるんだけどね。そうじゃなきゃこんな窮屈な所、私好きじゃないし」
「ならば、この国の――カトゥメ聖国の壊滅を望むと言うのか、『点睛の魔女』」
「だから、違うって。私はね、ただ……んっと、ちょっと娘さんを届けに来ただけっていうか、だって先に攻撃してきたのそっちだよ?」
「悪名高き『点睛の魔女』が乗りこんでくれば当然の……いや待て、いま娘と言ったか?」
「うん。ネルファっていう娘、君の娘さんだよね?」
「確かにネルファと言う娘はいるが……姿が見えぬのは何故だ?」
「多分、自分の部屋でまだ寝てるんじゃないのかな? 目を覚まさなかったから通りすがりの人に聞いて、ついでに届けてもらったけど。……あぁ、ネルファの無事は保障するよ? ちゃんとネルファに危害は加えないように、ってそのヒトには“お願い”しておいたから」
「……その者が私の娘であるという証拠は?」
「ん? だって私ちょっとだけど見たことあるもん。だから間違いないと思うよ? さっき言った通りすがりのヒト――カイルって人も姫様って言ってたし、間違いないんじゃないかな?」
「カイルが?」
「うん。何となく偉そうな人だったけど?」
「……神官長だ」
「ふーん、あのヒトが……。神官長って言うと何かもじゃひげのおじいさんをイメージしてたんだけどな。まさかちょっと格好良い感じのお兄さんとは意外……想像とは違うものなんだね」
「アレは優秀だからな、特例だ」
「そっか、なら納得。――それで、私が連れて来た娘が君の娘さんだって事は納得してもらえたかな?」
「納得しよう」
「良かった」
「……では目的は金品か?」
「だーからっ、違うって。私はただ単にネルファを此処に届けに来ただけっ、ってそれだけの事がどうして通じないかな? ――あぁ、もう、レム兄様の気持ちが分かるなぁ!」
「……娘を送り届けただけ、と言うのならば礼を言おう。だがそれだけでないのなら――」
「それだけだよ? 少なくとも私の用事はね」
「私の用事、と来たか。と、すれば他に用事があるのはその後ろに居る娘のどちらかか?」
「うん。君に何か言いたい事があるみたいだよ? レアリア・ルーフェンス、って名前に聞き覚えは?」
「――ないな」
「ふーん」
「……何だ?」
「あのさー、使徒【点睛】って知ってるかな?」
「かつて滅んだ十二使徒の一角。その程度は知っている」
「うん、それでその【点睛】が司ってるのが嘘と虚言、現実の理だったりするんだけどね、」
「それがどうかしたか、『点睛の魔女』よ」
「――いい度胸してるね、キミ?」
「っ!!!!」
「うん、本当にいい度胸だよ、セイオー? 私に対して嘘吐くなんて、――そもそも通じるとでも思っちゃってるの?」
「っ」
「――レアリア・ルーフェンス。奴隷と貴族の間の……あぁ、この貴族は一族野党使用人に至るまで皆殺しにしちゃったんだね、色々と都合が悪いから、証拠隠滅の為に。結構ゲスいことするね、セイオー?」
「……」
「それで――あぁ、やっぱり良く知ってるみたいだね。この国の皇子様、クィックの父親違いのお姉さんで……都合が悪い、できれば消えて欲しい、何度か刺客を……いや?」
「てっ、――『点睛の魔女』ぉぉぉ!!!!」
「“黙って”」
「――っ」
「そう怒るものじゃないよ? いくら本心を暴かれたからって。でも、ふーん、こんな事考えてたんだ。いや、考えたのは君じゃなくて、皇子の方か」
「――」
「諸悪の根源、って奴だね。もういい、分かったよ。君は用済み、それにレアリアと話させる事も何もない。――とは言っても、これは君に見せてた幻影だったりするけどね。本人たちはまだ安静にするようにって、私の家で寝かせてあるよ」
「――」
「さてと、色々と事情も分かった事だし、それじゃ私はこれでお邪魔するね、セイオー? ……あぁもう、こう言う腹黒いところがあるからお城とかそう言う所は嫌いなんだよねー」
「――」
「……あぁ、忘れるところだった。私が行ったら、もう喋っても良いからね、セイオー? それじゃ、バイバイ。もう二度と会う事もないだろうけど」
◇ ◇ ◇
「うぅ、退屈だわ。でも体がだるくて、起き上がる気も……」
「……?」
「アル? どうかしたの、って手に持ってるそれは何?」
「……(ぺろ)」
「ちょ、そんなわけの分からないモノ舐め――」
「……(ぱたん)」
「わー!!! アル? アル!? ちょっとしっかり、しっかりしなさいよっ!?」
と、言う事でアルーシアピンチ(?)のまま次回に続く。
まえがきが長いなぁ、と思う今日この頃。
そして色々と気に喰わないところを直したり見直したりしていたら気づいたら遅くなっていた本日の出来事です。
やふぅ~!!




