ど-359. 拾った
ちきゅーがまるい。
……ふと思った事を書いただけです。
「思わず拾ってしまいました」
「って、お前それ」
「道端で『きゅ~』などと泣き叫んでいる様子が旦那様と重なって見え、気づいた時には既に私の懐の中に……」
「地竜の幼生じゃねぇか。親は?」
「いませんでした」
「それはお前が見逃しただけ、とかじゃないのか?」
「いえ、この子が迷子だと、自分で言っていましたので」
「って、お前そいつの言葉が分かるのかよ?」
「旦那様は分からないのですか?」
「さも分かるのが当然みたいに言うんじゃねえ。つーか、分かって堪るか。お前と違って、俺は至極普通のヒトだからな」
「至極、普通……」
「なんだ、文句でもあるのか?」
「いいえ。旦那様が赤と仰れば例え青でも赤になると言うモノ。旦那様がご自身を普通と仰るのでしたら、そうなのでしょう」
「当り前だ。何処からどう見ても俺はどこにでもいるような一般人じゃねえか。何を今更」
「はい、そうですね。旦那様以外のモノ達全てが異常であると言うだけで、旦那様のみが“普通”なのですよね?」
「……いや、それってつまり俺が異常だって言ってるようなものなんじゃねえ?」
「いいえ。旦那様が仰られたのです。旦那様はあくまで“普通”なのでしょう?」
「ああ、そうだが……何か釈然としないなぁ」
「旦那様が釈然としないなど至極当たり前のことではありませんか。そんな、起きた事象に対して自分だけは常に納得できるなどと言う世迷言を本気で信じておられるので?」
「そこまでは言ってないが……まあいいか。ってか態々お前に反論する必要もないよな。大体、異常の代表みたいなお前に何を言ったところで無駄だろうし?」
「そうですね。旦那様の世迷言など誰が聞いても左の耳から右の耳へと通り過ぎるに決まっておりますから、それは既に無駄無害を通り越して有害ではないでしょうか」
「もう良い。お前に反論するのは諦めたから」
「甚く賢明な御判断で」
「ああ、そうだな。俺もそう思うよ――っと。んで、その幼生の言葉が分かるってのは本気で言ってる?」
「はい。と言うよりも旦那様、本当に分からないのですか?」
「いや、分からんだろ、普通」
「そうなのですか。……と、言う事はもしやアダムやイブ、ルルーシアが何を言っているかも理解しておられなかったので?」
「そう言う言い方って事はお前は理解してたのね」
「はい。……以前、何かしらの折に旦那様にお伝えしませんでしたか?」
「んにゃ、初耳だな、多分」
「そうでしたか。それは大変申し訳ございませんでした」
「いや、良いけど。……って事は、もしかしてお前って他の、動物とか魔物とかとも意志疎通ができちゃうわけ?」
「旦那様は常識と言うモノを存じておられますか? そのような事、あるはずがないではありませんか。動物に意志を伝えさせることは可能ですが、言葉が通じるはずがないではありませんか。ましてや【厄災】に蝕まれた魔物など――。何を当り前の事を」
「いや、ね。ついさっきお前がその当たり前の事を否定したからな?」
「?」
「――って、あぁ、成程、そっかそっか」
「……何が成程なのでしょうか? ただいま、旦那様が不届き不快極まりない事を考えているような気がしてならないのですが?」
「いや、他の魔物や動物とかはダメで、地竜とか飛竜が大丈夫って事はつまりアレだろ、――」
「この様な愛玩生物と同類にされるのは、甚だ屈辱極まりないのですが?」
「竜を捕まえて愛玩生物て……そんな事言うの、お前くらいのものだと思うぞ?」
「所詮図体が大きいだけの変温生物では御座いませんか。愛でる以外何がありましょう」
「いや、普通竜って言ったら凶暴な――……ま、お前の方が怖いか。何かそいつも、ちょっとビビってるみたいだし」
「失礼な。この子は礼儀が正しいだけで怖がっているのではありません」
「お前がそう言うならそう言う事にしておこう」
「事実です」
「そうだな。たとえその幼生が何言ってようと、どうせ俺には分からねえしな。全部お前の口先三寸だよな」
「真、失礼な旦那様に御座いますね」
「そりゃお互い様ってもんだろうよ」
「……お互い様」
「あ、お前今、ちょっといい感じの響きかも、とか思っただろ?」
「はい、思いました。旦那様とお互い様な関係……魅力的ではありませんか」
「俺としては、マイナス方向じゃなくてプラス方向、お互い為になる事でお互い様な関係で居たいものだけどな」
「正に私たちの事ですね、旦那様っ」
「あー、……ソウデスネ」
「何やら気のないご返事に思えます」
「気のせいだ、そう言う事にしておけ」
「了解いたしました、旦那様」
「……んで、その地竜の幼生が迷子で一人ぼっちだったってのは一応信じてやろう。それでそいつ、どうする気だ?」
「…………どういたしましょう?」
「――お前なぁ。一つ、言っておく」
「……はい」
「こう言う時くらい、思った事をそのまま言ってもばちは当たらないと思うぞ? と、言うよりも俺が反対とかすると思うか?」
「いえ、全く思いません。旦那様ならば例え私がこの子を今晩の夕食の材料にしようと提案しても、涎に顔中を濡らしながらご賛同してくださる事でしょう」
「いや、それはしないぞ、流石に。あと、そいつ、もしかして言葉通じてる? 今のお前の一言で心無し、何か俺の方を睨んでるような気がするのだが?」
「利口ですね?」
「いやいや、だとしても何故俺を睨む? 今の発言は全面的にお前が悪いだけだろう?」
「……野生で生きる彼らにとって、序列は何かと重要なものなのです、旦那様」
「え? 俺、下? そしてもしかしなくてもお前は上ですか?」
「それでは旦那様、この子をこの地で飼わせて頂きたく、存じ上げます。無用な心配はいりません。私が“育て”ますので」
「その点に関しては心配してないけど……それよりもさっきの俺の言葉の答えは? なあ、こいつの中で俺たちの順位は一体どうなってるんだ?」
「それでは。旦那様の了承も得られましたので、私たちはこれで失礼させて頂きます」
「て、おいちょっと――」
「――あぁ、それと貴女も、ちゃんと旦那様に感謝しておくのですよ? ですからこのお方には噛みついてはいけません。何よりお腹を壊しては一大事です」
「――ってええええ、さっきの答えも気になるけど、今のはもっと酷いよ、つか酷くねぇ!?」
ルビーはルピー!
……シリコンって、光沢とかいい感じですよね?
ゃ、別にそんな事、私は一切思ってもいませんが。
あの娘に聞く!~あなたにとってのレム君は?~
-七人目【ミーシャの場合】-
「……憎らしいほど、憎らしいほど、憎らしいほど……――憎い御主人様だよ」
補足:『ミーシャ』元・護衛部。無口な子で、隠密行動が得意な子だった。時々処理部や料理部の仕事を手伝ったりしていたらしい、割と才能豊かな女の子。登場話、ど-9、Act XX.スィーカット-2、ついでにWildfire編のあたり。