ど-352. 支え
るんぱっぱ、るんぱっぱ♪
「あのー」
「何でしょうか、旦那様」
「そんなにくっつかれると歩きにくいんだが?」
「問題御座いません」
「いや、問題があるから指摘してるんだが。特に周りからの視線とか」
「問題御座いません」
「でもなぁ、これだけ周りから注目されてて、問題ないってのも……」
「問題御座いません。それとも旦那様は……私にこのようにされるのはお嫌ですか?」
「嫌つーか、歩きにくい」
「それはつまり嫌と言う事ですか? 『今すぐ俺様から離れろこの雌豚がっ』と罵ってらっしゃるのですね?」
「んなこたぁ誰も、一言も言ってないぞ?」
「……長い付き合いですから」
「そんな、何もかもお見通しです、みたな言い方は止めろ」
「ふふっ、照れてらっしゃるのですか?」
「いや、と言うよりもそう言うセリフを吐くならせめて俺の内心を言い当ててからにしろ」
「いやー、さっきから腕に胸が当たってるんだが何考えてるんだ、こいつ。あと周りの視線が痛い。いや、別に嫌ってわけじゃないんだけど、こうして注目されるのも見世物になったみたいで余りいい気分しねえよな」
「……」
「何か間違いがあれば御指摘くださいませ、旦那様」
「……」
「ぐぅの音も出ないくらい間違ってねぇよ。つか、何でこいつ此処まで的確に俺の思ってる事言い当ててるんだ? もしかしなくても俺の心、読まれてる?」
「いやいやいやっ、それはもういいからっ!!」
「そうですか?」
「ああ。……と、言うよりも本当に俺の心の中を読んでたりしないよな、お前?」
「滅相も御座いません。私は旦那様のお顔に現れているモノを常日頃の旦那様の行動、嗜好、性癖をもとに予測しているに過ぎません。まぁ的中率は100%以上はあると確信しておりますが」
「わー、相変わらず無茶苦茶な事を平然とやってのけてるのな、お前」
「このような些事、誰にでもできます」
「いや出来ないだろっ!?」
「? 異な事を仰います。“隷属の刻印”を刻まれた方々――館に居る皆様ならば全員、例外なく、少なくとも今私がした程度の事は可能のはずですが?」
「……はぃ?」
「旦那様などお顔を見れば考えておられる事のおよそ十二割は想像がつきます。……ちなみに二割は身も蓋もある旦那様が内心に秘められているであろう妄想です」
「その二割は間違いなく、云われのない中傷だな」
「日頃の旦那様を見ていれば誰でもそう思いますっ!」
「え? なんで急に怒ってるの? つーかココで怒るのは俺の方だろ、俺の内心とか勝手に散々読みやがってっ。俺の人権とか、色々な権利を返しやがれっ!!」
「旦那様には旦那様である事以外の権利など存在し得ないので、お返しする様な権利は何一つ御座いません、と日頃から申し上げているではありませんか。それを、何を今さら仰いましょうか」
「……そういやそんな事も言ってたよね、お前」
「はい、旦那様」
「てかな、そこまで俺の考えている事をお見通しなら、今俺がどうして欲しいか分かるだろ?」
「流石に、このような街の中でそれは……恥ずかしいのですが?」
「何を考えていらっしゃる!? てか恥ずかしいってんならこんな街中で腕組んで歩いてる時点で十分恥ずかしいよ!?」
「私も耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでいるのです」
「しなくていいよそんな無駄な事っ!? 恥ずかしいって思ってるなら耐えるとかしなくていいから、今すぐ離れい!?」
「……実は私の胸が腕に当たって嬉しい癖に」
「そーいうどうでもいい事は言い当てなくていいんだよっ!」
「そもそも旦那様、そのように興奮されるからこそ、より注目が集まるのです」
「――む?」
「ですので、こうしていて当たり前、当然だ、何を恥入る必要がある、と思っていれば他者の視線など問題にはなりません。……そもそも旦那様には今さら気にする外聞も何もないでしょうに」
「それを無くしたのはお前ですがねっ!! ――っっ」
「……もう、旦那様。まだお身体の方が万全ではないのですから、そのように余り興奮なさいませぬよう。だから、私がこうして支えているのではありませんか」
「……お前なら、別にこうして支えてなくても、今みたいに俺がふらついた瞬間に支えに入る事くらい楽生な気もするけどな」
「それはそれ。どうせならば偶にはこのような行いも良いでは御座いませんか」
「腕組みとか?」
「……はい」
「まー、良いけどな。つか、やっぱり歩きにくい」
「我慢してくださいませ、旦那様」
「……仕方ねーのな」
「はい、仕方がないのです、旦那様」
引き続きリハビリ中の旦那様と、それを支えるメイドさん。
仲がよさそうで何よりなのです。そして一応は平穏無事な旦那様。
……むぅ、と言うよりこの後書きで何か小話的な事を……思いつきませんかねー?