ど-345. 疲れた
メイドさんは全てを知っている。
ラントリッタ・・・メイドさんたちが今いる国の名前。湯治地帯が多いことで有名らしい。
「目が痛い」
「それは一大事に御座います旦那様!! 少々私にお見せ下さいませっ」
「ええいっ、寄ってくるなっ!」
「……そ、そんな」
「いや、お前、無表情のまま迫って来られたりすると怖いから。あと、足音とか気配も全然ないからさ、いや無駄に怖いんだよ」
「そうでしたか」
「ああ、だから別にお前が寄ってくるのがいやとか、それ以上こっちに近づくんじゃねぇ、今度は俺に何しようとたくらんでやがる、とかいう訳じゃ全然ないからな?」
「ええ、心得ました。旦那様」
「……本当かぁ?」
「勿論に御座います」
「まあ、一々疑うのも面倒だし、信じておいてやろう」
「有難うございます。……それで旦那様?」
「あん?」
「目が痛い、と言うことでしたが如何なさいました?」
「いや、如何って程じゃないんだけどな。ちょっと疲れでも溜まってるのかな? 何かちかちかするんだよな」
「一応、診てみましょうか?」
「ふざける気が一切ないならな」
「私は常に真剣です」
「それはそれで宜しくない気が……まあそれならちょっと診てもらうか」
「はい、では旦那様、少々失礼を」
「ん」
「……、……はい、ありがとうございました」
「ああ。んで、どうだった?」
「疲れですね。異物が混入した形跡も御座いませんし、組織の異常な働きも見てとれません」
「そか」
「はい。しかしながら旦那様、ひとつだけ御忠告させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「おお、何だ?」
「その様にお疲れになるまで、一体何を凝視されていたというのですか。それにそこまで凝視したいと仰るのならば、事前に私に仰ってくだされば私が代わりに……」
「いやいや待てって。お前は今、一体何の話をしてるんだ」
「先日の街には大きな温泉がありましたね?」
「ああ? 急に何の話を……て、まあ確かにあったな。ただ、ラントリッタの王宮御用達だったけど」
「そして驚くべき偶然ではありますが、先日ちょうどラントリッタの姫君様が湯治にあの街を訪れておりました」
「ああ、盛大なパレードだったよな……うん、お前の言いたい事が見えてきた」
「それは結構なことで。しかし旦那様」
「なんだよ、まだあるのか?」
「即、極刑で御座いますよ?」
「……言っとくが、俺は覗きなんてしてないぞ」
「誰も旦那様がラントリッタの姫君様に対していつも通りの欲情を抱いた結果、覗きを敢行したなどとは申し上げておりません。それともまさか、本当に覗かれてしまったので?」
「……、……、いや?」
「――ふぅ、時には諦めも肝心ですね、旦那様」
「待て! お前は大きく勘違いしている、そうに決まってる!!」
「で、あると仰られるのでしたら、先の僅かな沈黙の意味をお教えいただきたい限りですが?」
「それは、だな」
「そう言えば旦那様、先の街で別行動をしていた際に何やら騒ぎがあったようですが、まさか失敗して見つかってしまったのですか?」
「いや、だから違うって。ちなみに見つかったのは俺じゃない」
「つまり旦那様は覗きに成功した、と」
「それも違う。俺はただ、その覗きをしようとしてた奴らに偶然出くわしただけだ」
「……」
「……お、俺を信じられないって言うのか!?」
「いえ、私は何も申して居りませんが」
「そ、それもそうか」
「はい。しかし旦那様、宜しいでしょうか?」
「なんだよ、まだ俺が覗いたとでも言い張るつもりか?」
「いえ、そうではなく……その覗きをしようとしていた方々ですが、それは覗きではなくてラントリッタの姫君様を誘拐しようとしていたのでは御座いませんか、と申し上げたかったのですが」
「……」
「……旦那様?」
「ま、余り深く気にしない事にしよう」
「はい、旦那様がそう仰られるのでしたら。その覗きを敢行されようとしていた方々と一悶着あった際に不幸な幸運で姫君様の裸体を旦那様が凝視した事も含めて、私の胸の内にしまっておきましょう」
「……」
「……」
「ああ、目が痛い。目が痛いなぁ」
「……、大丈夫ですか、旦那様?」
ちゃられ!
奇声を発してみたい今日この頃。
愚痴ノート選抜
『先日、偶然見つけた蠢く野草を旦那様の寝所に投入してみたら、旦那様が触手(?)に掴まって言葉にできないような××に大変な事になった。
今度からはもう少し気をつける事にしようと思う。
あと、中々壮観な眺めだった。』