ど-342. 疲れたら眠るのが一番、とは限らない
……最近、サブタイトルが長い気がします。
「…………燃え尽きた、ぽ」
「旦那様、お見事に御座いました。これで二階級特進も夢では御座いません」
「に、二階級特進て……それ、殉しょ……く……」
「旦那様が懸命に働いてくださったおかげで、当分の活動資金を手に入れる事ができました。ありがとうございます」
「そ、れ……俺ん金…………」
「はい、旦那様。旦那様の徒労は決して無駄には致しません。……しかし不思議ですね。かれこれ十日ほど、私の旦那様がこれほどぼろぼろになるまで働き詰めたと言うのに、ギルドランクがまるで上がらないとは」
「……」
「おや、旦那様? どうやらひどくお疲れのご様子。寝てしまわれたのですか?」
「……」
「旦那様?」
「……」
「……」
「……」
「……旦那様の寝顔、可愛らしいです。見ているとこうウズウズと、ちょっと悪戯したくなってきました」
「……」
「ちょっとだけ……いいですよね? 誰も見ていませんし、」
「……」
「……、では――」
「――だっせー!!!!」
「旦那様、お早いお目覚め。おはようございます」
「……今、何か身に危険を感じたぞ」
「気の所為では御座いませんか?」
「いや、気のせいじゃないはずだ。昔とある痴女に付き纏われた時と感覚が似てた。……ったく、ヒトが折角ゆっくり休んでたって言うのに」
「……もっとゆっくりお休みしてくださっていればよろしかったのです」
「あ? 何か言ったか?」
「――……、いえ、何も。それよりも旦那様、お身体の方はもう宜しいのですか?」
「いや、全然よくない。すっげぇ疲れてて今にも意識飛びそうな感じだ。でも目が覚めてるつーか、今倒れると襲われるかもって変な興奮してて目が覚めてる。俺は休みたいんだが……困ったんもだぜ」
「――なんでしたら私が今すぐ眠らせて差し上げましょうか?」
「ん? お前、何か怒ってるのか? 妙な気配が……」
「いいえ、怒ってはおりませんが。ただ、今だに私の旦那様という存在を少々侮り過ぎていたと痛感しております」
「俺を侮る? ……意味分からん」
「そうで御座いましょうとも。……それで旦那様、今すぐお休みなられますか? それとも今すぐお眠りになられますか? それとも今すぐぐっすりと深い眠りにおつきになられますか?」
「……、どれも同じ事じゃね?」
「では、旦那様は今すぐお眠りお休みになられるという事で宜しいですね? 心配には及びません、私がお手伝いいたしますので、間違いなくぐっすりとお休みになれる事を保証致しましょう」
「ゃ、遠慮しておく。何か休むって言う意味が違う気がするのは俺の気のせいじゃないはずだ」
「旦那様の気の迷いなどいつもの事では御座いませんか。気になさる必要もありません。では――」
「て、だから待て待て、ちょっと待てってば。別にお前に“眠らせて”もらわなくても大丈夫だって。この変な感じの興奮状態が収まれば今すぐにでも眠れるっての、今の俺なら絶対に!」
「そうで御座いましょうとも。そしてその御言葉があるからこそ私はお手伝いいたしますと申し上げさせて頂きましょう?」
「んー、やっぱりお前何か怒って…………いや、なるほど、そう言う事か」
「……何がそう言うことだと?」
「いや、な。お前が俺を襲おうとした犯人か。って、今思えばこんな事考えるまでもなかったんだよな」
「……旦那様に拒絶された気分で、大変悲しくなりました」
「そりゃ悪かった。ってか俺も本当にへばってたんで、つい体が反応しただけだ。別にお前から逃げたとか、そう言う事じゃないんだぞ?」
「重々、承知しておりますとも旦那様。そうでなければこの悲しみ程度で収まりがつくものではないでしょうから」
「……何にせよ、お前を悲しませたのは俺が悪かった」
「いえ」
「と、言う訳で、だ。お前がそんなに俺に甘えたかったというのなら仕方ない。さあ、存分に甘えさせてやるから、俺の胸に飛び込んでこいっ!」
「……、えー」
「いや待てよ!? その嫌そうな表情は一体何!? お前、俺に甘えたかった、そうだよね!?」
「一応、旦那様のご意向を立てて、そうであると申し上げて置きますが、だからと言って旦那様に言われるままに甘えると言うのも、それは……」
「……そうか。なるほど、様は堂々と甘えるのは照れるわけか。ふっ、まったく初心ちゃんには困ったもんだな」
「旦那様のその思考自体は既に困った領域を突破し切っておりますので、特に意見する事も御座いません。よかったですね?」
「うんうん、今の言葉も実は照れ隠しだって、俺はちゃんと判ってるからな」
「はい、旦那様。私の事を深く理解していただいているようで、大変嬉しく思います」
「応とも」
「と、言う訳ですので旦那様? 此処は私に一つご提案が御座います」
「うん? 一体何――」
「――寝ろっ!」
「……、けは?」
「ふぅ」
「――」
「……旦那様? ふむ、旦那様も困ったものですね? 急にこのような場所で眠られるなど、お風邪を召しても知りませんよ?」
「……」
「しかし、でも……やっぱり、」
「……」
「何時まで経っても、本当に憎たらしいほどの――寝顔ですね、私の旦那様は」
この物語は淡々と、あくまで平々凡々淡々と、が基本スタンスです。
そして青空の下では今日もレム君の叫び声が……、あれ?
愚痴ノート選抜
『ちょっと試してみたい新薬があると言う事で、拝借したそれを昼食に混入してみた。
ネコ耳が生えた。意外と似合っていて可愛かったのに、すぐに解毒したのが非常に勿体なかった。
今度、あの薬を作って保存しておこうと思う。』




