ど-341. ごー、ゆあ、ほーむ
主に連が罪とか、単純作業中……
「俺は――何の為に生きているのだろうか」
「はい、御託は宜しいのでつべこべ言わず、きりきり働きましょうね、旦那様」
「……なあ?」
「はい、何でございましょうか。それと口を動かすのは構わないのですが、口を動かすのならばその五倍の速さで作業の方を進めて下さいませ、旦那様」
「や、いくらなんでも五倍は無理だろ」
「成せば成ると申します。成さねば成させる、という言葉もございます」
「世の中、どうやっても無理な事がいくつかある」
「ですがこれは――『家を建てる』という程度、旦那様にとっての無理な作業では御座いませんでしょう?」
「無駄な作業ではある気がする。あと、やっぱりいくらなんでも五倍とかは無理だぞ?」
「そんな事は御座いません」
「いや……まぁ、そんな事よりも、だ。第一、俺は何でこんな事をしてるんだ?」
「働かざる者食うべからず。お金や食料とはそれに見合った労働をして初めて得られるものです。働かずとも得られるなど、それは愚かしい怠慢に過ぎません」
「いや、うん。今お前が言った事は分かるぞ。俺もその通りだと思うし。じゃ、なくてだな。どうして俺がこんな事をしているのか、って理由を聞きたいんですが?」
「理由も聞かずに行動で示してくださる旦那様は大変素敵で、お優しいです」
「ゃ、まあ、お前に頼まれた以上はこの程度の作業、別に命の危険とかもないし楽勝ではあるんだが……」
「そしてそれ以上に便利です。さあきりきり働きましょうね、旦那様」
「だからっ、働くこと自体に問題があるわけじゃない……とも言えないんだが。俺は一体全体、何の為にこんな事をやらされているのですか、それに何よりテメェ何一人だけ傍観してやがるそんな暇あるなら俺を手伝えよっ!?」
「か弱い女性に力仕事は不向きで御座います」
「誰がか弱い女性だっ!! 俺よりっ、力のあるお前に言われたかねぇよ!?」
「事実がどうという問題では御座いません。要は心の持ち様、という事です」
「ほー、ふーん……つまり、お前に任せりゃこんな仕事一日で終わるのに、それでも女にやらせるのは見栄えが悪いから六日ほどかけてでも俺にやらせる、とそう言う事か?」
「旦那様なら三日で出来るはずですっ!」
「……うん、不眠不休とかすればね。そりゃ出来るだろうよ」
「旦那様、ふぁいとっ。……私はここから生温かく旦那様の作業を見守っておりますので。――あ、お茶の方は如何ですか?」
「いらねぇよ! つか、お茶を入れてる暇があるくらいなら俺を手伝え」
「旦那様がギルドで引き受けられた仕事ですので、それに私が手を貸すのは問題が御座います」
「……そんな些細な問題よりもっ! 俺が知らない内にこんな仕事受けてたって方が吃驚なんですけどねっ!!」
「何時まで経っても旦那様のギルドランクがFという“欄外”扱いであるのは些か不憫であるかと思いまして、余計な事とは思いましたが、旦那様に代わり仕事を請け負ってきました」
「凄く余計だよな、おい」
「そんな、私は旦那様の為を思えばこそ……!」
「止めろっ、そこで泣きそうにするなっ、地面に座り込むなっ、俺は演技だって一目で分かるが他の奴らは……――ってかお願いしますからもっと俺の外聞を守ってください!?」
「――旦那様」
「な、なんだよ?」
「作業の方が予定よりも数工程、遅れております。お急ぎを」
「テメェのせいだろうがっ! いや、そもそもお前の立てた建設プランは何か一日で家建ててたしっ、何でもお前を基準にして考えられると思うなよっ!?」
「抜かりは御座いません。旦那様の作業速度に合わせて計画した建設プランがこちらに――ぁ」
「……」
「……」
「……おい」
「はい、旦那様」
「なんか、俺用のプランとかいう奴、飛んでいったぞ?」
「手が滑りました。てへっ♪」
「ワザとか!? やっぱりワザとなのかっ!?」
「いいえ。ついうっかり、手を滑らせてしまっただけで、意図したものでは御座いません」
「……怪しいもんだけどな」
「しかし困りましたね。あちらのプランが消失したとなれば……旦那様には最早こちら、『“え、一日でこんな豪邸が建っちゃうの!?”プラン』の方を採用していただく他ございません」
「御座いません、じゃないだろう。大体そんなプランなくったって家くらい建てられる……と、思う、たぶん」
「旦那様のマイホームではないのです。今建てている家は見も知らぬおしどり新婚夫婦のものなのですよ? 妥協は許しません」
「うおおおおおおおおお、俺の幸せがまだ全然遠いって言うのにどうして他の奴の幸せを手助けするような事しなくちゃいけませんかっ!?」
「仕事ですので」
「いや、まあ……それを言っちゃ身も蓋もないんだけどな」
「では旦那様、既に数工程作業が遅れておりますので、ペースアップを図りましょう」
「いやいや、それよりもお前が手伝えよ。それで作業の遅れとか、全然解決するだろう?」
「旦那様の作業がたった今より六倍の速度になります」
「いや、だから無理だっての」
「不思議な事に作業が遅れるたびに旦那様の大切なモノが失われていきます。――な、何とむごい仕打ちをっ」
「てっ、めぇ――」
「私に口を出す余裕があるとは、流石旦那様で御座いますね? さて、旦那様の一番最初になくなりそうな大切なモノは一体何でしょうね? アレでしょうか、それともあちらの方で?」
「……後で覚えてやがれー!!!!」
「はい、旦那様。例え旦那様がお忘れになろうとも、私は永遠に覚えておりますとも。……それにしても、」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「……流石旦那様。やればできるではありませんか――むしろ私が想定したよりも素早く、そして正確であられる」
旦那様、働いてます。
メイドさん、眺めています。
……うん、構図的におかしなものがあると思う、これは。
愚痴ノート選抜
『本日もまた精を出されている。私もすこしは植物に関して勉強した方がいいのかもしれない。
でも、理由は知っているけど、やっぱりあのヒトがあの花壇に向ける表情を見ていると胸がむかむかしてくるのは止められない。
本当に、どうしてくれようか』