メイドさん♪
今日はほんの少し、お休みで。
「ぶっちゃけ、メイドさんとは何か、お前に徹底的に叩きこみ直す必要があると御主人様は思う訳だ」
「自分で御主人様とか、頭の可哀そうなヒトに見えますね、旦那様?」
「俺が言ったのは間違いなく事実だし、そう思いたい奴には思わせておけばいい。俺、お前の御主人様、おっけー?」
「指摘させて頂くならば、御主人様とお呼びしたことは一切御座いませんが……」
「御主人様も旦那様も、それほど違いないだろう?」
「大いに御座います」
「……どこが?」
「“御主人様”と“旦那様”ではお呼びする重みが全く異なります」
「……その拘りが全く分からん」
「拘りと申し上げるよりも、格差をつけるまでもない純然たる事実なのですが……この違いを旦那様にご理解いただくのも無為というモノですか」
「まー、俺にとってはどうせ些細な差だろうしな」
「……――左様で」
「と、言う事で俺がお前の御主人様なのは確かって事だ。断じて頭の可哀そうな人とかじゃなくてな」
「はい。では旦那様は心の寂しお方、と私は思っておく事に致します。お労しや、旦那様」
「……うん、やっぱり一度お前にはメイドのなんたるかを叩き込む必要があるな」
「痛いのは好きではないので優しくお願いします」
「その発言自体が既に間違ってるよな、やっぱり」
「大丈夫です、旦那様。旦那様の存在以上の間違いなど、そうそう御座いません」
「一言会話を交わすたびに実感するよ。お前、メイドってモノが分かってない!!」
「つまり旦那様は分かっている、と言外にそう仰っておられるのですね」
「ああ、その通りだ。少なくともお前よりは、な」
「では旦那様? 僭越ながらこの賎しい私めにメイドの何たるかを叩き込み……可能な限り優しくしてくださると嬉しいです」
「いや、お前が賎しいとか言ってたら世界中の奴ら全員、一体何なんだよ、って話になるだろうが」
「……私も旦那様と同様、過去の栄光や名声、罵声雑言に拘る気は御座いませんが?」
「それもそうか」
「ちなみに前半のプラスっぽい賛美が私のことであり、後半のその他貶されているっぽいものは全て旦那様へ向けてのものですので悪しからずご了承の程を」
「……ふっ、その挑発的な態度、挑戦と受け取った!」
「いえ、今のは純然たる事実と単なる私の本心ですが?」
「益々挑戦と受け取った!」
「ではその様にしておきます。……、旦那様っ、私の全てを、受け止められますかっ!?」
「それこそ望むところ。くくくっ、本来の正しいメイドの姿をというモノをお前の網膜の下、脳裏の裏の裏まで刻みこんでやろう」
「ふふっ、啖呵だけは良い啖呵です。流石は私の旦那様」
「褒めたところで今更お前の受ける仕打ちが変わると思うなよ?」
「その様な下賤な思惑など一切御座いませんとも。私は純粋に思うままを口にしたまでの事……それとやはり可能な限り優しくしていただけると嬉しいです」
「ふふふ、それなら望み通り優しく、じっくりゆっくりねっとり調教し直してやろうじゃないか。覚悟しろよ――」
「はい、旦那様」
「じゃあまず初めに基礎の基礎から往ってみようか。お前――メイドとは何と心得る?」
「主人たる者の身の回りの世話をする女給ではないのですか?」
「それはあくまで表面的なモノに過ぎない。メイドとはすなわち身と心、その両方が備わってこそ初めて真のメイドたりえるものなんだよっ」
「その様なモノ、繕った笑顔と媚を売るような演技で十二分では御座いませんか?」
「……身も蓋もない事を。と、言うよりもお前に至ってはその両方すら微塵もできてないからな?」
「そうですね。朴念仁の旦那様ではそう感じてしまわれるのも致し方御座いません。私もそのあたりの事は重々承知しておりますので心配には及びません」
「何故に俺が悪い、みたいな言い方になってる!?」
「古今東西を置いて旦那様が悪ではなかった事が御座いますか?」
「……少なくともお前の中じゃなさそうだよな」
「そうでも御座いませんが?」
「いや、間違いなくそうだろ」
「余りご自分を卑下なされずとも宜しいのでは?」
「俺は自分自身を卑下したことは一度たりともないぞ。むしろお前が俺の事を卑下しまくってるからむしろそれが自然なのかも、と最近受けれてきてるんだが、それがかえって怖い」
「その調子で御座います、旦那様っ」
「何の調子だ、何のっ!!」
「旦那様の更生は順調なようで、何よりです」
「更生も何もないよ!? そもそも更生が必要なのはお前自身だ!!」
「その様な事を仰られていたことも御座いました」
「何勝手に過去にしちゃってるんですか!? つーか、今まさにお前の更生をしてるんだよ、俺たちはっ」
「痛くしちゃ……ゃ、です。でも旦那様なら、私は――」
「うん、じゃあ話を戻そうか」
「スルーですか」
「身と心が備わってこそ真のメイド足り得るってのはさっきも言った通りだ」
「放置ぷれいが板に付いてきましたね、旦那様?」
「では身とは何か、心とは何かを問うてみよう。メイドたりえる身とは何だ?」
「本来の仕事が身の回りのお世話ですので、家事スキルという事ではないですか?」
「そう、確かにその通りだな。メイドとは女給、即ちお手伝いさん。基本と言えば基本だが、メイドと家事の類は切っても切り離せない関係にあると言っていい」
「恐れながら旦那様、私は家事は万能であると自負もしていれば他負もされておりますが?」
「そうだな、確かにお前は家事は万能だ。だがそれだけじゃ、真のメイドたりえる身にはなり得ない。その事をお前は理解していると言えるか?」
「いえ。私の本能が理解したくもないしするつもりもないとただ今警告を放ちました」
「ノン、ノン、ノン! 甘い、甘すぎるっ。メイドたりえる者の基本態度とは即ち尽くす事。尽くして尽くして尽くして、それでもまだ足りず尽くし切る事こそが何よりも重要なんだっ!」
「はい、そうですか」
「そうなんだっ! ここは本来ならばメイドの心と切り離せない関係にあるが……今は心の事は置いておくとして、身だけの話をするとしよう」
「はい、そうで御座いますね?」
「家事……それも確かに重要な事だろう。だがそれだけじゃ足りない。足りな過ぎるんだよっ!!」
「……何が足りないのでしょうか? 旦那様は家事だけでは不十分である、と?」
「そう、その通りだともっ。家事だけをするメイド? ――はっ、そんなモノは吐いて捨てるほどいるだろうがっ!!」
「それがメイドの仕事ですので当然の事かと」
「違う違う違うっ、違うだろうが! そんなものじゃない、そんなものじゃないんだっ」
「白熱しているところ申し訳ないのですが、私個人といたしましてはそろそろ旦那様のテンションについていきたくないのですが?」
「居るだけで……ただその場に立っているだけで場を和ませる存在、それが真のメイドたりえる体現した姿っ!!」
「……はぁ」
「それには家事だけじゃダメなんだっ。先ずエプロンドレス! それに常に旦那様の傍を離れず、かといって望まれなければ近づきも過ぎず。優雅でいて、それでいて主張しすぎない落ち着いた佇まい。見る者を安心させるような柔らかな笑顔に、痒いところにも手の届く何気ない気遣いの数々っ。何よりひらひらフリフリなロングのエプロンドレスっ!!」
「今、エプロンドレスを二度言いました」
「つまり姿から入る事が如何に重要かって事だっ」
「そうですか」
「そうなんだっ!」
「……、はい、そうで御座いますね。旦那様がそう仰られるのでしたら、そうなのでしょうね?」
「ああ、勿論だともっ」
「……、良く分かりません」
「つ・ま・り・だっ。其処にいて当然の存在、かと言って我を出しているわけでなけりゃ何かをしてるわけでもない。それはあくまで御主人様のお世話に徹する、それこそが真のメイド足る体現!!」
「話の経過は不鮮明ではありましたが最後の御言葉、正に私の事を言っているように御座いました」
「何処がだっ!?」
「旦那様の御言葉、その通りでは御座いませんか」
「……ふっ、百歩譲ってその在り様だけはその通りと言ってやろう。確かに家事とか出来るし、身のわきまえた振る舞いに見ていて飽きのこない身のこなし、下品でなければ派手で主張しすぎていもいない見事なエプロンドレスの着こなし。ああ、身体についてはお前の性能も相まって満点に近いと言ってやろうじゃないか」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
「だがっ、だがだ! お前には……メイドたりえる心が圧倒的に足りてない」
「心ときましたか。演技で満足しておきませんか、旦那様?」
「誰がしてやるものかっ! そもそも身はどう堕ちたとしても心は高貴であれ、とは誰かの言った言葉だがそれは正しい。確かにメイド服を着ていないメイドなどメイドたり得ないが、かといってメイドの心なくしてメイド服を着ているだけならば、それはメイドではなくただの偽メイドだ!!」
「左様で」
「そうだともっ。お前はメイドの心得たるモノが分かっていると、そう言えるのかっ!?」
「旦那様の事を何より一番に考え、身も心もその全てを以て尽くし切る。そう心得ておりますが?」
「そうだともっ、その通りだともっ。だが口では何とでも言えるさっ、そんなモノは何の重みもない音の羅列でしかないっ!!」
「ではどうすれば旦那様はご満足していただけるので?」
「メイドの心得その一、尽くす事。お前には俺に対して尽くすって言う感情がそもそも足りてない」
「私ほど旦那様に尽くしているモノもいないはずですが?」
「ある意味においては、な。それは認めてやろう」
「ありがとう御座います」
「けどあくまである意味においては、だ。真のメイドたりえる尽くし方とは違い過ぎるんだよ、お前はっ!」
「はて? 心当たりは然程御座いませんが?」
「メイドの心得その二、メイド足るものその情愛を以て主人へと尽くす事っ!」
「旦那様はまだ私の愛情が足りないと、その様に仰られる?」
「だーかーらー、おまえのは方向性が違い過ぎるんだってばっ!! 御主人様――すなわち俺! 俺の望む方向へっ、独断とか偏見とかその他の感違いなく俺の望む方向へさりげなくっ、俺に気取られる事もなく実にさりげなくっ、誘導とか手助けとかそのあたりの心配りをするものだろうがっ!!」
「はい、重々心得ております」
「心得てないよ!? 心得てないから日頃から俺が酷い目に合ってるんだろうが!!」
「大丈夫です。旦那様の本心はしかと心得ておりますとも」
「だからっ、感違いとか偏見とかなく、って言ってるだろうが!!」
「問題御座いません」
「問題があるから俺がこうして懇切丁寧にメイドとは何たるかの講義をしてやってるんだってのっ。頼むから分かれ!」
「重々理解しておりますとも」
「だからっ――……って、そうだよな、お前ってばそういう奴だったよな。理解してるのとちゃんと行動するのとは違うしな、うん」
「私は常に旦那様の事を一番に考えて行動しております」
「あー、うん、ソウダネ?」
「御不満があるご様子」
「やっぱりお前に口でああだこうだと説明したところで無駄だって事を今理解した。お前は別にバカじゃないからな、むしろ頭は良すぎるくらいだからなっ。理解してるとかしてないとかの問題とは、根本的に違うもんなっ! こうなりゃ力ずくで――」
「優しく……して下さいね?」
「えぇい、しなをつくるな、顔を上気させるな、潤んだ目で見つめてくるな、何か言いたそうに唇を震わせるな……そもそも紛らわしい演技するんじゃねぇ!!」
「私にどうしろとっ」
「いや、普通にしてろよ」
「ではそういたします」
「無表情に戻った……って、そうだよな。お前に限って実は照れてましたとかそういう本心がある事なんてあり得ないよなー。まぁ、『え、力ずくで?』とか言われて照れてるようじゃ変態以外の何物でもないけどなー」
「……」
「と、言う訳だから早速覚悟しやがれこの身体の隅までたたき込んでや――」
「メイド、ファイヤー」
「うをっ!?」
「……外しました」
「おまっ、お前なぁ、メイドメイドって、メイドって頭につければそれでいいとかいう根本から間違った考え方をしてねえかっ!?」
「……、冥土ファイヤー」
「うぉぉ!? ――って、だから違ぇ!! つーか心なしかさっきよりも物騒に聞こえたぞ!?」
「旦那様の聞き間違いでは?」
「それもそうか……って、問題はそもそも違うからっ! テメェいきなり何攻撃してきやがりますか!?」
「いえ、旦那様が力で私を屈服されようとするのでしたら、やはり抵抗の一つや二つ程度しておくべきかと考えました。その方が屈服させた時の征服感と満足感が大きいのです」
「何かなー、そのまるで体験して知ってます、みたいな言い方は? 日頃俺を屈服させているのが楽しいか、そんなに楽しいのかっ!!」
「それは旦那様の穿ち過ぎな思考というモノに御座います。別段私は旦那様を屈服させて喜びや満足感は得ておりませんし、そもそもの問題として旦那様を屈服させた事など御座ません……“されて”しまった事は多々ありますが」
「おま、お前なぁ」
「……何でしょうか、旦那様?」
「こういう時にそんな照れた顔をするのは止めろ。何か“した”とか“された”とか、まるで俺が変な事をお前にしたみたいに聞こえてくるじゃないか」
「変な事ですか? たとえばどのような?」
「それはだな……――今はそんな事はどうでもいいんだよっ! それよりも、今はお前を真のメイドとして鍛え直す事こそが先決で最優先事項だ!!」
「その様な話も御座いました。元より私は世界最高峰であると自負しておりますが」
「それは間違いなくお前だけの認識だ。お前が最高のメイドだなんて俺は断じて認めないからな」
「得てして体験している本人が一番気づきにくいモノに御座います、そう落ち込まれぬよう、旦那様」
「全く落ち込んでない。それより覚悟しやがれ今度こそ――」
「しかし旦那様、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、今更急に怖くなったのか、怖気づいたのか?」
「いいえ、そうではなく……私は既に身も心も、少なくとも私どもの持ちえる全てを旦那様に捧げ尽くしているつもりなのですが、その私にこれ以上何をなせと、旦那様はお説きになるおつもりで?」
「えー」
「……何でしょうか、その御不満そうなお声は?」
「だって、身も心も? お前が? ……えー」
「……そうですねそうでしたそうなのですね、――旦那様?」
「何だよ?」
「旦那様? 私の唯一無二、過去現在未来悠久の次元の中、ただお一人限りの私の旦那様?」
「だから、何だよ急に……て」
「申し訳ございませんが旦那様、旦那様に真のメイドとは何たるかのご指導をして頂くのはほんの少し……えぇ、ほんの少しばかり後になってしまいそうで御座います」
「あのー、もしかして怒ってます? なぜか知らないけど、怒っちゃってます?」
「いいえ、私が旦那様に対して怒りを覚えるなど、そのような不遜あろうはずがないでは御座いませんか、ええないに決まっているではありませんか」
「いや、でもだな。今のお前はどう見ても怒って――」
「怒ってなど居りません、旦那様。ただ――そうですね、えぇ、はっきりと理解した、という事でしょうか」
「……な、なにをでしょうか?」
「私が真のメイドとは何たるかを理解するより先に、旦那様に真の旦那様とは何であるのかを叩き込……いえ、刷り込……いえ、洗の……」
「何を!? 何を言い間違えていらっしゃる!?」
「――旦那様に、少しばかり女心というモノをご理解できるように調教して差し上げましょう」
「――っ」
「……私から、逃げられると思いで? 旦那様」
想ったよりもはっちゃけた内容にならなかったので、残念です。
やっぱりこういうのはノリと勢いでけでひたすら書きなぐるっ、みたいな方がいいのでしょうか、と思ったり。
次はもっとぶちまけた内容にしたいのであります。
あ、あと私は断じてメイドさんにこだわりとか持ってる人種ではないので、悪しからず。