ど-338. 枷とか錘とか
ウェイトトレーニング!
「えいっ♪」
「ぐ、う、お……お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」
「まるで地の底から響きわたってくるような醜声で御座いますね、旦那様?」
「お゛っ、お゛っ、お゛ぉ゛ぉ゛……」
「しかし旦那様、何か言いたそうでは御座いますが、如何なさいましたか? 言いたい事があるのでしたら、はっきりと仰ってくだされば宜しいと言うのに、寂しいものです」
「……」
「おや旦那様、まるで陸の上に打ち上げられた魚のようにぴくぴくと打ち震えておりますが如何なさいましたか?」
「……」
「返事がない。ただの旦那様の様です」
「……」
「……ふむ、では一時解除、と」
「――ぷはっ!? ししし死ぬかと思った!!」
「死、ですか? それは聞き捨てなりませんね」
「そこっ! 自分は関係ありません、みたいに不思議そうな表情するんじゃねぇ!!」
「確かに旦那様のご指摘の通り……私の目の前で私の旦那様に害をなそうなどと、不届き千番も甚だしく……」
「ち・が・う・だろうが! お前、お前自身の事だよっ!」
「……その様に申されましても、旦那様が何を仰っておられるのか、私としましては旦那様に耐えきれるかどうかの枷をかけてみた事くらいしか思いつきませんが?」
「それだよ、それ! ずばりそれ、俺がたった今死にかけた原因!! 思いっきり圧死しかけたよ、おいっ」
「まあ」
「まあ、じゃねええええ!!!!」
「では――……、それは大変に御座いましたね、旦那様。些細ながらこの私、心より旦那様のご無事をお喜び申し上げたいと思います」
「いや違うだろ! 違うよね? つーかそもそもの元凶たるテメェが何ほざいていやがりますかっ!!」
「元凶などと……そのように悲しい事を仰らないでくださいませ、旦那様。私は旦那様の為を思えばこそ、それこそ涙をのんで……」
「えい♪ とかいう実に愉快そうな声を最初に聞いた気がするぞ、俺は」
「あれは単なる決意の一声で御座います。それ以外の他意は多少しか御座いません」
「多少でもあれば十分だってのっ!!」
「しかしそれもどれも旦那様の為を思えばこその決断であればこそ。最近鍛錬が足りず弛み切ったままもういっその事朽ち果てたそのあたりに転がっている枯草並の価値すらもないないであろう旦那様の助けになれば、と思い致したまでの事」
「……まだ弛み切ってるとかそんな事言ってるのか」
「はい」
「んで、いったいどれくらいの重みがかかってたんだ? バカにならないってか、本気で死にかけたんだが、俺」
「軽く1ヘカ程度で御座いますが、それで死にかけるとは旦那様もまだまだ訓練が足りないご様子」
「あー、1ヘカ程度、な。……んな約城一つの重さを背負って無事で済むかこのドアホウ!」
「?」
「いやいや、そこで不思議そうにされても」
「今、私は100ヘカ程度の重みを科しておりますが?」
「ゃ、お前と他の奴を一緒にされても困るんだが。つーか、100ヘカって言ったら巨人族とかでも背負うの無理じゃねえか?」
「情けない限りです」
「いやいやいや。だからお前みたいな化け物染みたバカ力の方がおかしいんだっての。……って、そう言えば100ヘカとか馬鹿げた重みの割に地面に変化がないな?」
「あくまで魔法による疑似的な負荷を科しているに過ぎませんので。実重が増しているわけでは御座いません」
「あー、なるほど。そりゃ確かに。俺だって1ヘカとか掛かってたら既にぺっちゃんこになっちまってるだろうしなぁ」
「しかし本当に情けないです、期待はずれです、予想通りです、旦那様。旦那様ならあの程度は軽々と振る舞って下さると、信じておりましたのに」
「だーかーらーっ、お前と俺を一緒にするなって! ほらっ、小人族とか、精々が1ヘカの一万分の一位の重さじゃないと耐えきれないっての……物理的に」
「……それでも、と思うのはいけない事でしょうか――私の唯一無二の旦那様」
重りをつけるときはほどほどにしましょう、身体を壊します?
愚痴ノート選抜
『あのヒトは本当にあのヒトだった。アルの影響とはいえ複雑なモノがある。
旦那様は旦那様という事なのだろう。腹が立つので、やっぱり少しだけ意地悪をしてみたりした、まる』