ど-335. 夢を願い叶えるモノ
キックス・・・アルカッタの昔の王様で、リリアンのご先祖様。ど-91にちょっとだけ名前が出てきた。
「……むぅ」
「如何なさいましたか、旦那様?」
「如何なさいましたか、じゃないって。それはこっちの科白。何か用事があるなら率直に言ったらどうだ?」
「……何の事でしょう」
「お前、何か言いたそうだよな」
「その様な事、」
「あるだろ? 長い付き合いだ、それくらい見てりゃ分かる」
「ええ、旦那様にモノ申したい事柄など捨てて捨てるほど御座いますが、それが何か?」
「……いや、そう言う事じゃなくてだな。それとも何か、言い難い事だから躊躇ってるのか?」
「ふぅ、旦那様には叶いませんね……ハーレムなどという夢幻は」
「おい」
「これは失礼。しかし心配いりません、夢を持つという事だけならばのは万人可能なのですから」
「おーい、それは何か遠まわしに俺の夢は叶いませんよって言ってるように聞こえるぞー?」
「夢は夢であるからこそ、叶った瞬間に夢でなくなってしまう。つまり夢が実現すると言う瞬間は厳密な意味では存在しないのかもしれません」
「あ、なんだ。そう言う意味で言っただけか」
「いえ? そのような捻くれ曲がったことで申し上げたのではなく、ただ単純に旦那様の夢はかなわないでしょう、という事実と未来予測を申し上げたまでの事ですが?」
「……、大丈夫だ。夢ってのは持ち続けていればきっと叶うものなんだからなっ」
「旦那様、今度睡眠学習でもしてみてはいかがですか? 私が寝ている旦那様の耳元で囁いてみましょう。嫌なことが忘れられるかもしれませんよ?」
「むしろトラウマになりそうだから却下。つーか嫌な事忘れるって、お前喜々として俺の夢を忘れさせようとしてないか?」
「大人になれば夢は忘れてしまう、という話を聞き及んだ覚えが御座います」
「それは全く違う意味で言ってる話だ。現実を知って夢を挫折する、みたいなな。でも、俺は世間という荒波にもまれても決して夢を忘れないピュアな奴なのっ!」
「ヒトはそれを妄信と言います」
「俺の場合は違う、着実に目的に向かって一歩一歩前進してる、きっといつかは叶うだろうって夢だっ」
「そうですね、旦那様。夢は諦めなければきっと叶います」
「……何でだろう、素直にお前に認めてもらうと逆に不安になってくる」
「ですが旦那様、仮に二人の夢が反目しあうものであった場合、どちらの夢が優先されるのでしょうか?」
「……ふたり?」
「はい、二人です」
「……まー、普通に考えて“想い”の強い方じゃないのか?」
「実力のある方ではないのですか?」
「うわっ、身も蓋もなく、滅茶苦茶現実的な事を……」
「違うのですか?」
「違う……と、思いたい。けど最終的に勝敗を決めるのが力だって事は絶対に動かない事実だしなぁ」
「それは……残念ですね、旦那様?」
「いや待て、今の話の何が俺にとって残念なんだ。と、いうよりもさっきの二人って言うのは、もしかしなくても俺とお前の事だったりして?」
「私が旦那様の夢のお邪魔をするなどという事があると思いですか?」
「うん」
「では旦那様の期待に応えない訳には参りませんね」
「いや待った! やっぱり思わないっ。そうだよな、お前は俺の事を第一に考えてくれてるもんな、そんなお前が俺の夢の実現の邪魔をするとか、あり得ない事だよなっ!!」
「心配いりません、旦那様。旦那様の本心はしかとこの胸の中に刻みこみました。そう照れずともよいのです」
「照れてない! 照れてないからなっ。つかお前に邪魔されるとただでさえ遠い夢がさらに遠のくっ」
「かつて近づいた事が御座いましたか?」
「……ないな。むしろ気まぐれで買った何処かの奴隷少年に先を越された事があった気がするぞ」
「キックス様に御座いますね?」
「ああ。まあしかし? あれはあれで幸せそう……には全然見えなかったけどな」
「そうですか? 私にはお幸せそうに見えましたが?」
「男と女としての見解の違いだな。まあ、ある意味においては幸せだったって事ではあるだろうけどな」
「私は、間違いなく幸せだったお思っております」
「……ま、野郎の話なんか如何でも良いんだよ。それよりも、お前何か言いたい事があったんじゃなかったか?」
「ではこちらをどうぞ、旦那様」
「んー、何々……『旦那様ガンバ♪ ツー』プラ――、」
「あぁ、今度は一日半かけて練った旦那様増強プランが、散り散りにっ!」
「……まだ諦めてなかったのか、お前」
今日もいい天気―
愚痴ノート選抜
『逃げられた。お金もなくなってたから、きっと地上の方に行ったはず。
また女の子が増えると思うと少し憂鬱な気分になる。
不幸な子が減るのはいい事だと思うけど、素直に喜びたくはない。私もまだまだ未熟という事なのかもしれない。
少し間違えて地上にファイヤーボールを落としてしまったが、たぶん大丈夫だろう。
これでもしあのヒトに当たっていたりしたら、それはきっとすごい偶然』