ど-334. 鍛えてみる?
やっぱり日々平凡がいいね?
ということで二人はこんな日常。
「旦那様は最近弛んでおります」
「え? そんな事はないと思うぞ?」
「いいえ、弛んでおります」
「いや、でもほら……身体だってこれだけ締まってりゃ十分じゃないか? 特に弛んでる部分とかはないと思ってるんだけど、実はお前の目から見たら俺って結構弛んでたりするのか?」
「あ、いえ。お身体の方でしたら今のままで宜しいかと。そちらの方は日々滞りなく管理しておりますので。ただ……」
「ただ?」
「私見を言わせて頂くならばもう少々身体を引き締めて、雰囲気に精悍さを出して頂きたいのですがそれは旦那様には高望みという事は重々承知しておりますので」
「いや、今のままでも俺って十分精悍だろう?」
「ええ、そうで御座いますね。旦那様がそう仰られる以上、旦那様は大変精悍で在らせられます。ただ、多少困った事に、世界中のすべての生き物が少々精悍過ぎるという問題がたった今発生致しましたが」
「それはどういう意味かな、おい?」
「詳細な説明を、ということでしたらご説明させて頂きますが?」
「いや、遠慮しておく。想像のつく内容だしな」
「そうで御座いますか」
「ああ。とにかく俺は今のままでも充分に精悍だって事で」
「了解いたしました。旦那様は精悍である……と妄信されておられる、ということで相違ございませんね?」
「いや、妄信じゃなくて客観的事実だから」
「主観的虚実の間違いでは御座いませんか?」
「……お前も分からない奴だなぁ」
「旦那様の方も、どこをどうとれば精悍などと言う旦那様の個性とは真逆の言葉が出てくるのか不思議でなりません」
「んー、精悍っていうよりな、俺ってほら、ダンディだろう? 大人の魅力溢れるっつーの?」
「……申し訳ございません旦那様、ここは『そうで御座いますね』と賛同した方が良いのでしょうか? それとも『大人の魅力? もう一度私と自分を比較してから出直してくればいいんじゃないですか?』と否定した方が良いのでしょうか?」
「どっちもするな。ってか、お前の方が俺よりも大人の魅力溢れていると? ほほぅ、言うじゃないか」
「私は落ち着きがあり包容力もある、美貌資金その他どのような魅力にも満ち溢れているので、仕方がないかと」
「性格の愛想がない」
「そんな事ないよぉ〜、旦那様♪ も〜、旦那様ってば、時々意地悪さんだよっ」
「……うん。愛想と演技力とは違うと思うぞ、俺は」
「十年だろうと二十年だろうと、完全騙しきる自信は御座いますが?」
「だろうな、お前なら十分できるだろうさ」
「はい。……ですがご心配は成されぬようお願いいたします」
「心配? 何が?」
「旦那様に接しさせて頂いているこの“私”に偽りなどは一切ないと、言わせて頂きたく」
「必要ない言葉だ。お前の性格は俺が一番知っているからな。言われずとも、素のお前がどれかなんて考えるまでもねぇ」
「――……これは失言を。旦那様を侮る様なコトを申し上げてしまった事、深くお詫び申し上げます」
「いや、別に。つーかな、日頃のお前が既に俺を侮る発言をぽんぽんとしてるって事、判ってます?」
「私は旦那様を侮っているのではなく、客観的事実及び世界の真理に一番近い真実を申し上げているにすぎません。それがごく偶然、旦那様が侮られるような発言になってしまうだけかと」
「いや、んな偶然はないから。あと『ごく偶然』って、その割には頻度が多い気がするぞ?」
「それだけ旦那様が世の真理に近いお方であるということ」
「全っ然! 嬉しくないからな、それ」
「だとしても、私が今まで申し上げた旦那様の存在にお変わりは御座いませんが」
「う〜、何かもしかして俺以外の世界中がお前って存在に騙されてね? とか思ったぞ、今。お前の演技力が折り紙付きなのは重々承知の上だし……ほら、そうすれば世界の真理とか、客観的事実とかってお前の思うようにねつ造出来ないか?」
「珍しく鋭い事にお気づきになられましたね、旦那様?」
「……わー、そう言う認める様な事言うの止めてくれない? まるで俺が今言った事が的を得てるみたいじゃないか」
「では、先の発言は旦那様の精神衛生上宜しくないと言う事ですので控えさせて頂きましょう」
「……で、控えるだけで撤回とかはしてもらえないわけね」
「私と旦那様、双方が既に理解している事柄である以上、その必要が在るとは思いません」
「……そうか、そうなのか」
「はい。――それで旦那様、いつも通り話が随分とそれてしまいましたが、旦那様は最近弛んでおられると思うのです」
「弛んでるってのは身体の事じゃなかったよな。なら俺のどこがどう弛んでいると?」
「精神的に、で御座います」
「……えーと、何故か日頃から死にかけるような“偶然”が多発しているわけだが、それでどうやって精神的に弛めと?」
「全く、これだからゆとりの旦那様は」
「何その暴言!? って言うか、ゆとりの俺って一体何の事!?」
「しかし旦那様が弛んでらっしゃるのは誰から見ても明らかな事実。ここは一度徹底的に鍛え直す必要があるでしょう」
「え、俺のツッコミ無視? 無視ですか?」
「そう言う訳ですので、鍛え直すプランを練ってみました。こちらをどうぞ」
「あ、、あぁ……――て、おいこれ」
「はい、何か問題でも?」
「問題も何も、睡眠どころか食事休憩時間すら入ってないじゃないか」
「食事や休息などはコトの合間にとればよいのです。こちらとこちらならば、問題ないかと」
「嫌だ。問題大有りだろ。下手に気を抜いたら死ぬから、それ」
「旦那様ならきっとできます」
「ああ、うん。その無用な信頼が憎いね」
「当然です。旦那様は私の旦那様で御座いますので」
「取り敢えず、だ」
「はい」
「これ、却下な」
「――あぁ、半日かけて練った渾身の『旦那様ガンバッ♪』プランが……!!」
「半日て……無駄に時間かけてるなぁ、おい」
淡々と日々が過ぎていきます。二人の会話はこんな具合にいつまでたっても変わりがなく、あくまで凡々と過ぎていきます?
愚痴ノート選抜
『このウスノロ、鈍感、亀――いやそれ以下です』