ど-331. 回っている
日々、平平凡凡、淡々と続く。
「う、お、おぉぉぉ!?!? なんじゃこりゃー!!!」
「旦那様、如何なさいましたか?」
「如何なさいましたか、じゃねえだろうが。お前はこの状況を何とも思わないのかっ!?」
「状況で御座いますか?」
「そうだよっ」
「旦那様が回って――正確に申し上げれば秒間一回転半ほどの横回転をし続けておりますがそれが何か?」
「それだけ状況判ってれば十分だよっ!? てかこれお前の所為か、いやそんな事はどうでもよくて、良いから止めろこれっ!」
「止めろ、と申されましても……、旦那様はどのような止められ方がお望みでしょうか? 一、水平飛行に挑戦。二、人力浮遊に挑戦。三、地下帝国の発見を目指す」
「一と二は殴り飛ばされてるだけじゃねえのか!?」
「そうとも言えるかもしれません」
「あと三の選択肢は一体何だ! 地下帝国って何!?」
「旦那様はご存じありません? 地下にはヒトが住んでいるらしいですよ?」
「ドワーフか、ってそれなら普通に地下に住んでるけど、帝国って何だ、帝国って。妖精族は“国”を作る習慣なんてないぞ。精々“集落”くらいのはずだ」
「ですからあくまで発見を目指す、と申し上げております」
「あ、そうなんだ」
「はい。今の旦那様は足にドリルを装着すれば良い切削機になってくれそうです。よかったですね、旦那様、ドリルですよ」
「ドリルだからなんだって言うんだよ!?」
「どりるっ♪ どりるっ♪」
「その音戸、ムカつくから止めろ」
「……残念で御座います。旦那様はどうにもドリルがお気に召さないご様子」
「ドリルのどこを気にいろとっ!?」
「ドリルには夢が籠っていると、よく言い伝えられるでは御座いませんか」
「初めて聞くよそんなとんでも話! つーか、ドリルの事なんかを話してる場合じゃなくてだなっ」
「はい?」
「いい加減この回転を止めろー!! というよりもさっきから一向に止められないのはどうしてだー!?」
「秒間二回転……いえ、止まるどころかむしろ早くなっておりますね」
「何故だ!? というよりもどうして俺は回っている、ってお前の所為に決まっている!」
「端から疑われるとは何とも寂しいお言葉。いえ、原因が私である事に相違ございませんが」
「やっぱりお前の仕業か―!!」
「余り深く考えられない方が宜しいかと。それと、声を出すのも控えられた方が良いかと」
「ふざけ――うぷ」
「旦那様?」
「気持ち悪くなってきた」
「ですから、あまり声を出されぬように、と御忠告したではありませんか」
「遅、すぎ……だ」
「旦那様、心配には及びません」
「……何がだよ」
「後半日もすれば自然と止まっているはずです」
「……え゛、後半日もコレなのか?」
「旦那様がお望みとあらば、水平飛行と垂直飛行、どちらかお選びになる事も可能ですが?」
「……う〜む、それはちょっとべらぶへっ!?」
「やはり悪酔いはよくありませんからね。優柔不断な旦那様にはてっとり早く斜めに飛んでいただく事にしました」
まわる旦那様。理由はない、何もない。ただ回る、その事に意味がある……事もない。
愚痴ノート選抜
『最近、平和な日々が続いているのは良い事だと思う。
でも、あのヒトが退屈そうにしている事だけが少し気にかかる。
私が頑張らないと』