ど-326. 添え木
そっと、優しく添えて下さい
アオイトリプスとは、世界でいちばんの大樹で“硬い”とされる木です。ユグドラシルとは仲がいい?
「……、なんだこれは!?」
「お早う御座います、旦那様。とは申しましても只今は夜中ですが」
「そんな意味のない挨拶はどうでもいいっ。それよりもこれはどういう事だ!?」
「どういう、とは何を指しておられるので?」
「んなもの、今の俺の状況に決まってるじゃねえか」
「旦那様の状況で御座いますか。……平時とお変わりなく?」
「いやいや! 無茶苦茶変わってるって。つーかなんで俺は拘束されてますか!? 何か変なモノに縛り付けられてますか!?」
「変なモノではなく、少々採取してきたアオイトリプスの枝で御座いますね」
「アオイトリプス……つーと、また変なモノを、と言うよりもこれはどういう意味だ?」
「どういう意味も何も、旦那様の感じられるまま思われるまま、みたとおりだと思うのですが?」
「つまり、謀反か?」
「謀反? ご冗談を」
「それじゃあ一体どんな理由で変なモノ――いや、アオイトリプスの枝だったな。まあなんでもいいんだがっ、よりにもよって世界で一番硬い木の枝を、しかも態々南端から取ってきて俺を縛り付けてますか、お前は。ちゃんと立派な言い訳が聞けるんだろうな、おい?」
「立派かどうかは旦那様のご判断に任せる形になりますが……?」
「それはどうでもいい、つーかどうせどうでもいい事に決まってるんだから立派も何もあるかっての」
「それもそうで御座いますね」
「速攻認められた!? くっっだらない理由で俺がこんな目に合ってる事を認められた!?」
「下らない理由では御座いません」
「なら一体どうして、俺はこんな状態になってるのか、そろそろ理由を教えてもらえませんか、ねぇ?」
「旦那様は添え木、というモノを存じておいでですか?」
「添え木? 添え木って言うと、木に添えるアレの事……だよな?」
「はい、そうで御座います」
「そりゃ、当然知ってるわけだが……それがどうかしたのかよ?」
「流石、旦那様。伊達のみで植物に詳しいわけでは御座いませんね?」
「当然だ。趣味と実益を兼ねてるからな」
「そうで御座いますね」
「それで? 添え木がどうかしたのか?」
「はい。私、添え木と言うモノを知り大変感銘を受けた次第に御座います」
「感銘? ……添え木に感銘受ける事なんてあるのか?」
「それはもう。添え木と言うモノは木が曲がりくねって成長せぬように添えておくモノ、だそうで御座いますね?」
「いや、正確には自分の重み自体で草木が倒れたりしないように補強する木の事なんだが……まあ、曲がらないように添えておくってのもそういう意味じゃ間違いじゃないな」
「そうでしょうとも」
「それで、俺がこの状況にある事とその添え木に感銘を受けた事と一体どんな関係が……――いや、まさか、」
「これで旦那様も矯正されてくださると、宜しいのですが」
「やっぱりそれかー!?!? つーか、添え木とか矯正とか、意味が初めと違ってるだろ、全然っ!!」
「大丈夫です。私の限りなく可能性の低い予測では旦那様に添え木をしておく事で旦那様もきっと、恐らく、そうであると良いとは思いますが、まあ万が一の可能性でも、曲がりくねった性根がまっすぐになってくれると信じております、そうなればよいなと願う次第に御座います」
「いや、ならないからっ! 性根が捻じ曲がるとかそれ以前にこんなもの、俺を木に縛り付けて拘束してるだけじゃねえか!?」
「ではしばらくは様子を見てみる事に致しましょうか」
「しましょうか、じゃないっ。さっさとこれを解きやがれ、そして俺を解放しろっ!!!!」
「私としても大変心苦しい限りなのです。ですが、これも旦那様の為。旦那様の為と思えばこそっ。どうかご配慮を……」
「なら笑ってんじゃねぇ!! ……――そもそも俺の性根よりもお前の性根の方が曲がりまくってるだろうがっ!!!!」
「――私の性根は、例えどこまで伸びようとも真っ直ぐではありませんか、旦那様」
ネムネムです。
愚痴ノート選抜
『旦那様は私にもっと構うべきだと思う、ううん、構って欲しい。
雑務なんて、せっかく彼女たちがいるのだから経験と言う意味でも彼女たちに任せればいいのに。
変なところで融通のきかない旦那様。だから仕事の量が増えて大変そうにしているのはいい気味、自業自得。
仕事をしている時のあのヒトの横顔が少しだけ好きなのは、内緒です』