ど-323. 難しい
難しいのです
「……だめだ、意味わかんねぇ」
「旦那様、諦めるのが早すぎます」
「いや、だって無理だろ、これ」
「旦那様は根性甲斐性無しな上に気力持続力やる気もないのですね。理解していたこととはいえ、少々落胆しております。分かりやすく申し上げますと、非常にがっかりです」
「文句言うくらいならなー、せめてあの仕掛けは全部はずしてくれっ」
「仕掛け?」
「ああ。文字を追ってると精神を侵されていく呪いとか、気づいたら文字の配列が換わってる幻覚とか、おまけに実は本文自体が暗号化されてて本来の文章に辿り着くまで無駄に時間がかかるとか、その他色々と……」
「……、私は旦那様を信じておりますので」
「おい待て今の間は何だ、こら」
「何の事でしょうか?」
「惚けようったってそうはいくか。さてはお前……実は仕掛けを外すの忘れてたな?」
「その様な事は御座いませんとも。例え旦那様専用にカスタマイズされた仕掛けの数々だとして、文章の暗号化以外旦那様以外には全く無意味の代物であるとしても、そのような私がついうっかり、意図的に仕掛けを外し忘れるなどあろうはずが御座いません」
「……ほー、なるほど。意図的に、外し忘れる事はない、ね」
「はい」
「つまり意図的以外――ついうっかり本当に偶然に外し忘れていた可能性は否定しない訳だ」
「否定した覚えは御座いませんが?」
「確かに。否定だけをしてはいなかったよな。……んじゃ、謝罪は?」
「何故私が旦那様に謝罪する必要があるので?」
「いや、お前の所為で俺は酷い目にあったから……」
「私はその愚痴ノートを開くまでヒントとしてお送りしただけですが? そもそも旦那様がお察しくださればそれで済む話ではありますし、決して旦那様に対して立てていた腹の程を収めたわけでは御座いませんよ?」
「……だとしても、なぁ。限度ってモノが――」
「それにその程度の事ならば日常茶飯事に生じている事では御座いませんか」
「む、ぐっ」
「何より――私は旦那様を信じている、こう申し上げた私の思いには一片の嘘偽りも御座いません」
「――」
「それで旦那様、多少なりともその愚痴ノートを解読できたのでは御座いませんか? ならば――本来ならばお察しの良い旦那様の事、少しは私の気持ちが理解できましたでしょうか?」
「駄目、全然、さっぱりだよ」
「――あぁ、そう」
「正直俺何か悪い事しましたか? 的な内容しか書かれてないじゃないか、これ」
「そう読み取ることも可能です」
「可能つーか、……なぁ?」
「何時まで経ってもそのようであらせられるからこそ、旦那様はおおばかと罵られるので御座います」
「いや、そう罵ったりするのはお前だけだから」
「旦那様のおおばかっ!」
「ゃ、意味わかんねぇ」
本当は一話できっかり完結、すっきりお終いが望ましい。
愚痴ノート選抜
『最近の旦那様はやはり多々情けない。本日もファイ様の手料理を食べて三度も気絶していた。
確かに大いに味には問題があるが、こんなに愛情のこもった料理の何が不満だと言うのか。
旦那様は大馬鹿ものだ。それが旦那様らしくはあるけれど。
いつも、ちょっとムッと来ることも確かなのです』